プロでもつい愚痴がこぼれる
年明けからの大波乱相場

 大損を出してしまい、「ペナルティーボックス」行きを命じられた大手銀行の為替ディーラーは、「一定のポジションを持っている同業者はみんな同じようなもの。こんな相場、誰も予想できない」とこぼしました。

 このディーラーが愚痴りたくなるのも無理はありません。それほどまでに年明けからの為替市場は波乱の連続でした。

 年初に中国の混乱が伝播して、ドル円相場が怒濤の円高を演じたかと思えば、1月29日の日本銀行によるマイナス金利のサプライズ発表で一転、再び円安に振れ、1ドル=120円台を回復しました。

 ところが、すぐに欧州発の金融不安などをきっかけとして相場はまた逆回転。2月11日には一時1ドル=110円台を付け、1年3ヵ月ぶりの円高水準となりました。わずか10日間で、上げ幅は実に10円を超え、リーマンショック後に匹敵する円高劇となりました。

 ドル円相場を取り巻く環境はここ最近、複雑さを増しています。足元でも欧州発の金融不安など、予期していなかった複数のリスクが顕在化してきました。

中国原則と原油安だけではない!
円相場を揺さぶる「新六大リスク」とは?

 そこで、本誌は、ドル円相場を揺さぶる国内外のリスク要因として、「米国の減速と利上げ」「中国の減速と人民元安」「原油価格の低迷」「欧州発の金融不安」「地政学リスク」「マイナス金利導入」を挙げ、新六大リスクと定義しました。

 昨年来、この六大リスクに絡む景気指標が発表されるたびに、ドル円相場は乱高下を繰り返しました。これらは時に共振し、時に連鎖する形で、密接に絡み合いながら相場を激しく動揺させます。

 昨年までは、中国の景気減速と原油安が二大リスクでしたが、それを超える相場のかく乱要因が急浮上してきました。米国の景気鈍化です。世界最大の経済大国の地盤沈下は、投資家心理を急速に冷やすため、ドル円相場に与える影響は計り知れません。

 米国が本格的に景気後退局面入りすれば、リスクを嫌ったマネーが日本に押し寄せ、歴史的な円高水準を記録する可能性もあります。

『週刊ダイヤモンド』2月27日号の第1特集は「円高襲来!為替と通貨の新常識」です。誤解を恐れずに言えば、外国為替市場に確立された理論はありません。為替を動かす基準は時間軸で変わってくるし、投資家の心理にも大きく左右されます。そんな解読困難な為替市場で起こった異変。アベノミクスで始まった円安時代は終わりを告げ、円高時代の幕が開くのでしょうか。激変する為替と通貨の新常識を読み解きました。