記事一覧:連載小説 『シャッターがなくなる日』26件
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
最終章 新しいことを、新しいやり方で、新しい人に [最終回]
2018年9月1日号「それでは、第10期の株主総会を始めさせていただきます」社長のかけ声で始まった10期目の株式会社まままの株主総会。第10期ということは、僕が地元に戻ってもう10年の月日が経ったことを意味していた。社長は佐田……ではなく、17歳の高校生である村田蓮だ。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第八章 思惑を超えて [第25回]
2018年8月25日号予想もしなかった財務省からの連絡の1週間後、ダークスーツに身を包んだ3人が事務所を訪ねてきた。名刺交換をしながら、電話をした本人だと名乗ったのは痩せ型の小柄な男で、気弱な印象を受けた。となりにいる男は名刺の肩書に主査とあるから、電話をかけてきた男の上司だろう。恰幅がよく、スポーツでもやっていたのかガッシリとした体格で、声が大きい。もう一人はほとんど喋らない。ただの書記係のようだ。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第八章 思惑を超えて [第24回]
2018年8月11日号欲を出したり、裏切られたり、批判されたり、仲間を失いかけたり。これまでの紆余曲折ですっかり動揺してしまったが、ポリシーを変えては自分たちがやる意味がない。僕らの強みは、あくまで事業をもってエリアを変えていくこと。その原点に立ち返るためにも、地方の情報を集約して配信するだけではなく、各地の事業を強化する仕掛けをつくる必要があった。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第八章 思惑を超えて [第23回]
2018年8月4日号昼下がり、僕は日本地図とにらめっこしていた。各地と連携して互いにプロジェクトチームの人材を融通するようになり、さらに後発地域からのアドバイスの要請はコンサルティングではなくスクール形式にして生産性を高めたことで、事業開発スピードはあがってきた。気づけば、全国50ヶ所以上の地域と共に事業開発に取り組み、スクール卒業生は200名を超えようとしていた。佐田はその地図をみると、腕組みして天井を仰いだ。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第八章 思惑を超えて [第22回]
2018年7月28日号元同級生の佐田に誘われ、地元で事業を始めることになった瀬戸。事業は順調に成長し、次なる一歩としてスクール形式で他の地域のメンバーに地方再生のノウハウを提供することに。しかし、その取り組みをよく思わない役人の鹿内が、瀬戸たちに露骨な妨害工作を仕掛けてきた。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第七章 他地域進出 [第21回]
2018年7月21日号元同級生の佐田に誘われ、地元で事業を始めることになった瀬戸。事業は順調に成長し、霞が関でのヒアリングに呼ばれるまでになった。しかし、そこで待っていたのは地方を見下した役人の姿。その悔しさをばねに、瀬戸たちはさらなる発展を遂げようと決意を新たにした。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第七章 他地域進出 [第20回]
2018年7月14日号送られてきた東郷の名刺の情報をもとにネットで検索すると、顔写真が堂々とSNSに登録されていた。僕らの事業にまったく関わったことがないどころか、面識すらなかったが、田辺が過去のリストから検索したところ、一度視察にきていたことがわかった。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第七章 他地域進出 [第19回]
2018年7月7日号佐田の現場復帰から間もなく、準備を進めていたプロジェクトはいよいよ実行する段階に入ることになり、オフィスには僕以外に佐田、田辺、野々村が集まっていた。僕たちは、勉強会で学んだ運営方法をもとに、事業構造の変化を決断しようとしていた。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第六章 再挑戦 [第18回]
2018年6月30日号「じゃ、そこに荷物置いといてよ」宮崎のとある人けのないアーケードの中で、僕は汗をかいていた。かつて大手企業の城下町として栄えたその都市は、衰退し始めて半世紀近くが経つ。立派な駅前の再開発施設も、そのテナントのほとんどが役所の施設となっていた。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第六章 再挑戦 [第17回]
2018年6月23日号失敗で落ち込む僕に山城のじいさんがかけてくれた、「2度目の挑戦が本当の挑戦」という言葉は力強い励みとなった。1度や2度の失敗で悔やんで、同情してもらい、やめるきっかけをつかもうとしていた自分の気持ちに終止符を打つためにも、まずは仲間たちと話をしなくてはならない、そう思った。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第六章 再挑戦 [第16回]
2018年6月16日号事業がたいした成果を生まない中、その非難の矛先は市から大きな金額の委託を受けていたことが報じられた僕らに向けられていた。事前の期待が大きかっただけに、道の駅の開発自体も箱物行政ではないかと議会で批判が高まってきていた。それまで「民間主導で頑張ってきた地元チーム」だった僕たちはいつの間にか「行政に群がる悪徳コンサル一味」のような扱いを受けるようになってしまった。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第五章 稼ぐ金、貰う金 [第15回]
2018年6月9日号僕は市役所で森本と合流し、コンサルタントの藤崎のもとを訪ねていた。イメージしていた人とは違い、高齢な割にやけに丁寧な男性だった。「瀬戸さん、役所との調整や報告書の作成とかはやりますので、安心してくださいよ。役所は役所のルールがありますから、それに即してやらないと動かないんです。ね、森本さん」
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第五章 稼ぐ金、貰う金 [第14回]
2018年6月2日号まちの衰退具合とは不釣り合いに、昨年立派に建て替えられたばかりの商工会議所の受け付けに僕はいた。「あのぉ、10時に門馬さんにアポをもらっている瀬戸と申します。昨日、お電話した」「あぁ」受け付けの妙齢の女性は電話をかけて門馬を呼び出し、言葉少なに役員応接室と書かれた部屋へと案内した。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第五章 稼ぐ金、貰う金 [第13回]
2018年5月26日号「瀬戸さん、電話です。また、視察したいって」成功が地元紙やウェブメディアで取り上げられるにつれ、欅屋には連日視察見学の問い合わせが相次ぐようになっていた。「あ、はい、はい……10名でお越しになるんですね。当日は何時頃到着されますか?」視察見学のやりとりだけで一日がおわるのではないかと思うほど、まったく業務がはかどらなくなっていた。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第四章 批評家たちの遠吠え [第12回]
2018年5月19日号「あったまいたい……」僕はゆっくり布団からでると、水を飲みに冷蔵庫へ向かった。佐田はまだ、豪快にいびきをかいて寝ている。会社をやめると決めてから初めて地元に戻った週末、僕たちは合宿にやってきていた。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第四章 批評家たちの遠吠え [第11回]
2018年5月12日号「本日、無事開業となり、本当に嬉しいです!」緊張のせいか、いつになく高い声で挨拶をするオーナーの望月さん。若干、化粧もいつもより気合が入って、髪もバッチリセットされている。いかにも今朝、美容室に行ってきました、という感じだ。立って話を聞く参加者の間を、心地よい秋の風が通り過ぎていく。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第四章 批評家たちの遠吠え [第10回]
2018年4月28日号不思議なもので、小さくても成果が生まれると、まわりの目はよくも悪くも変わってくる。「あんなもの、3日で潰れる」とか言っていた人が、いつの日からか「おれも最初からうまくいくと思っていた。むしろ応援していたよ」と、言ってくる。また「あんな小さな店が儲かるわけないだろ」と言っていた人が、言い分を180度覆して「あの店ができたお陰で、うちの客がとられた」と被害妄想気味に訴えてくることもある。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第三章 毀損する不動産 [第09回]
2018年4月21日号「それでは、まずは市長からご挨拶をいただきます」そういえば、市長の挨拶を聞くのも久しぶりで、例の失敗した地域活性化イベント以来だ。東京で地元出身者を募るこの集まりは、毎年地元で新たにつくられた商品を紹介したりして、出身者たちでそれを応援する目的のもと、30年以上続いているのだそうだ。
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第三章 毀損する不動産 [第08回]
2018年4月14日号スタートから3ヶ月。急に「やめたい」と連絡してきたのは、2階に入ったフラワーアレンジメントの店を共同経営する女性2人のうちの1人だった。「ねぇ、佐田どうしよう。まさかあんな仲のよかった2人がもめるなんて……」
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連載小説 『シャッターがなくなる日』
第三章 毀損する不動産 [第07回]
2018年4月7日号「みなさん、それでは、ここにハンコ押してください」入居希望者はその後増加して、合計18人となった。半数以上はマーケットに出店している人たち。それ以外にも、周辺ですでに店をやっている人たちが、このあたりに店を出したいと申し出てきた。この盛況はひとえに佐田がこのまちですでに事業で成功していること、そしてマーケットの活況でこのあたりに「商機」があると見込んでもらえたからだろう。