2021年3月期に業界序列が激変
4位陥落の三菱商事は復権なるか
「結果責任について重く受け止めている」。6月2日、ダイヤモンド編集部の取材に初めて応じた三菱商事社長の垣内威彦は、沈痛な面持ちでそう〝敗戦の弁〟を語った。
2021年3月期、商社業界の順位に地殻変動が発生した。
業界首位の座を維持していた三菱商事の連結純利益が、前年比67・8%減益の1726億円まで減少。ライバルの伊藤忠商事は純利益の落ち込みを同19・9%減益の4014億円にとどめ、5年ぶりとなる首位交代劇が起きた。
新王者となった伊藤忠は、純利益と株価、そして時価総額で悲願の「3冠」を達成した。片や三菱商事は、鉄鉱石高騰の恩恵を受けた三井物産や丸紅にも抜かれ、一気に業界4位まで順位を落としている。
新型コロナウイルスの感染拡大により、未曽有の経済危機に陥った21年3月期。資源や電力、機械やリテールなどありとあらゆる産業に携わる総合商社は、コロナ禍の影響が節々に出た。すでに20年3月期に赤字に陥っていた丸紅を除き、五大商社のうち4社が減益となっている。
その中で三菱商事は、原料炭の市況が悪化したことに加えて、子会社ローソンなどで合計1542億円の減損計上が痛手となった。
それでも垣内は「言い訳するつもりは毛頭ないが、構造的なものが崩れているわけではない」と前を向く。今期の予想利益は3800億円と、不振にあえいだ前期からの倍増を打ち立てた。
新王者となった伊藤忠にも、油断はない。社長である石井敬太は、「後ろを向いている暇はなく、振り返ったら抜かれてしまう」と勝ってかぶとの緒を締める。
コロナ禍の先行きは見通しにくいものの、どの商社も業績回復シナリオを描き始めた。
だが、楽観視できる事業環境では断じてない。商社には今、コロナ禍だけではなく、上図の通り七つの大きなリスクが迫っている。かじ取りを間違えれば、ビジネス崩壊の〝急死〟もあり得る代物だ。
丸紅は、次世代の柱となる新規事業開発を進めている。その背景にあるのは、「『今のビジネスが、本当に10年後もあると思うか?』と問うと、『ない』と冷静に判断する人たちもいる」(柿木真澄・丸紅社長)という危機感だ。
商社が直面するリスクとは何なのかーー。
脱炭素で石炭火力発電から続々撤退
人権リスク急浮上「第2のミャンマー」も
『週刊ダイヤモンド』6月19日号の第1特集は「商社 非常事態宣言」です。
商社に迫るリスクの筆頭は脱炭素です。
総合商社にとって、海外の石炭権益や石炭火力発電事業は収益の源泉でした。しかし世界的な脱炭素の流れが到来し、環境団体や機関投資家からの撤退圧力が強まっています。もうかる石炭火力ビジネスを手放せば、収益減は避けられません。
またミャンマーでは国軍によるクーデターが発生し、市民への弾圧や人権侵害問題が勃発。国軍への資金流入という観点から、商社のミャンマー事業に批判が集まっています。人権問題が潜む国はミャンマー以外にも存在しており、リスクの見直しは必須といえるでしょう。
緊迫する米中対立も商社にとって大きなリスクとなります。米国と中国。両国は共に商社の重要なマーケットですが、経済の分断(デカップリング)が加速すれば、商社はどちらか片方を選ばされる「踏み絵」を求められかねません。
外部環境だけでなく、商社の内部にもさまざまリスクが内在します。
商社といえば、20代で年収1000万円に到達し、海外に駐在すれば年収2000万円に到達する高待遇で知られます。その商社が近年、次々と人事制度にメスを入れ始めました。その裏では、就職人気企業ランキングの上位に名を連ねるはずの商社から、若手を筆頭に人材流出が加速しています。
他にも商社には今、看板部門の凋落、コロナ禍、次の稼ぎ頭不在といったリスクが内在します。今こそ「非常事態宣言」を発令し、変われない商社に未来はありません。各社トップやキーマンらを取材し、商社の今の姿を明らかにします。