『週刊ダイヤモンド』10月21日号の第1特集は『中学生からの地政学 投資・ビジネス・勉強に役立つ!』です。米中対立に加え、ロシアのウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化など世界は混迷を極めています。われわれにも影響を及ぼす複雑な世界情勢を読み解く道具が地政学です。地政学を理解すれば、各国の“振る舞い”が分かり、世界の「仕組み」も見えてきます。みんなに役立つ地政学を超基本から対話形式や図解でやさしく学んでいきます。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

悩める3世代家族の前に
地政学の第一人者が登場

地政学を知れば、世界が分かる――。ここでは、それぞれの悩みを抱える、祖父の大屋(だいや)明、母の大屋恵、息子の大屋陸という架空の3世代家族の前に地政学の“第一人者”である、奥山真司氏が登場する。奥山氏はわれわれに影響を与える世界の情勢が分かる道具こそ地政学だと説く。
イスラエル、ネティヴォット近郊で2023年10月11日、ガザに向けて発砲するイスラエル国防軍の砲兵部隊 Photo:Alexi J. Rosenfeld/gettyimages
Illustration by Nara Yuuki

「こんなはずじゃなかった。何が原因なのだろう」。食卓で大屋家の3人は黙りこくり、同時にため息をついた。

 「心配ですよねえ……。まあまあ、お茶でも飲みながら私の話を聞いてください」。突然、中年男性の声が食卓に割って入ってきた。

「え、誰っ!?」。気が付くと、単身赴任中の陸の父の席に見知らぬ男性が座っている。3人はひっくり返らんばかりに驚いた。

 「どうも、奥山真司といいます」。びしっとしたスーツに身を包んだ爽やかな男性は、立ち上がって丁寧に自己紹介した。「私は陸くんのお父さんの友人です。この時間にこちらに伺うようにと言われて参りました」

 3人はいぶかしがりながらも奥山氏から名刺を受け取り、あいさつをする。

 「私はお父さんから依頼を受けて、大屋家の問題を解決するために参りました! さて、皆さんそれぞれ悩みを抱えているようですが、目の前のことばかり見過ぎていますね。それではいつまでたっても、漠然とした悩みが続くだけですよ。なぜ、皆さんのような平均的な日本人の家族の多くに荒波が襲い掛かっているのか。根本的な理由を知りたくないですか?」

 奥山はそう語り始めると、恵をずばりと指さした。「お母さん、ガソリンが高いと嘆いていましたが、実は日本の石油そのものが危機を抱えていることを知っていますか」。首をかしげる恵に、奥山は軽妙なトーンで質問を投げる。「日本が輸入している原油の8割が中東からタンカーで運ばれています。けどそのルートは安全ですかね」。

 「は? 中東? タンカー? 突拍子もないし、そもそも平均的家族って失礼な……」と思いつつ、恵は大学時代の知識を懸命に呼び起こし、こう答えた。「海賊がいるっていう話かしら」。

 奥山は答えを言わず、次に明にこう問い掛ける。「日本は安泰なんでしょうか」。明は「日本はものづくり大国だし、安泰じゃろ」と胸を張る。

 そんな明に奥山はこう投げ掛ける。「米国と中国の対立は日本の自動車メーカーにも大きな影響を与えそうです。でも、そもそもなぜ米中は対立するのか分かりますか」。

 奥山は戸惑う3人にこう言い切った。「これらは“海の向こうの無関係な話”ではないんです。全て、皆さんの生活に直結する問題なんです。でも、ややこしいと思いましたよね? 安心してください! 日本に住むわれわれにも大きな影響がある世界の情勢が分かるための道具が実はあるんです」。

 「それが地政学です」。3人がお互いを見回して首をかしげた。「学校でそんな教科はないよね」と言う陸に、内心ではそこそこの高学歴を自負する恵も「私もそんな授業受けたことないわ」とかぶせる。

 2人の反応に、奥山は笑みを浮かべながら、こう話した。「地政学は学校では学びません。けれど、ニュースでは報じられない、世界の『仕組み』や『裏側』を知るには欠かせないものなんです」。

 奥山は3人にこう呼び掛けた。「地政学を知れば、世界が分かります。地政学でどう世界を見るのか話していきましょう」

投資・ビジネス・勉強に役立つ
地政学の超基本から応用まで

『週刊ダイヤモンド』10月21日号の第1特集は『中学生からの地政学 投資・ビジネス・勉強に役立つ!』です。

 まずは、地政学を知るための基本5大ポイントを紹介します。「勢力均衡」や「陸対海」、大陸の縁を意味する「リムランド」といった地政学の理解に欠かせない基本概念を対話形式で学びます。

 大国の動きも分析します。覇権国家である米国や世界第2の経済大国に上り詰めた中国の戦略を地政学的な視点から読み解いていきます。

また、気鋭の専門家による米国の来年の大統領選後の対外政策の見通しや、中国の習近平政権が抱えるリスクなどについても触れます。

 米中対立などの地政学リスクは世界の「産業地図」も大きく変え、日本企業にも影響を及ぼしています。日本企業の対米や対中の投資の「逼迫度」ランキングのワースト194社を紹介するほか、対中国の売上高の比率が高い日本企業ワースト50のランキングも掲載しています。