『週刊ダイヤモンド』12月8日号の第1特集は「日本人はもうノーベル賞を獲れない──科学技術立国の危機」です。21世紀に入ってからというもの、米国に次ぐ世界2位のノーベル賞受賞者を輩出している日本ですが、実は科学技術立国の足元は驚くほど揺らいでいます。その実態を知る関係者ほど「このままではもうノーベル賞など期待できない」と嘆きます。その理由を追いました。

 12月10日、スウェーデンのストックホルムでノーベル賞授賞式が行われる。今年は本庶佑・京都大学高等研究院特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞する。

 その本庶氏は、若手研究者支援のための基金を設立し、賞金の約5700万円(共同受賞者と分割した額)を全額寄付することを表明している。

 もっとも、基金自体の規模は数千万円にとどまるものではない。本庶氏の構想では「数百億〜1000億円規模」とのこと。この金額が意味するものは、本庶氏の持つ「日本の基礎研究分野に対する危機感」にほかならない。

 というのも、本庶氏はかつて本誌のインタビューで、日本の基礎研究の状況について「かなり瀬戸際だと思います。私たちの世代、次の世代までは何とかやってこられました。今の40代以下は大変つらい思いをしています」と答えている。未来への種まきが不可欠というわけだ。

 近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。だが、それは1980〜90年代までの研究環境による成果であって、その後の日本の科学技術政策を鑑みると、これから先はとても期待が持てない──。そう訴える研究者は多い。

 このところのノーベル賞ラッシュは、「日本の科学技術・冬の時代」を前にした、最後の打ち上げ花火になりかねないというのだ。

「2004年の法人化以降、大学として独自にやらなければいけないことが増えたにもかかわらず、運営費交付金は毎年減ってきました。その結果、大学の研究の力はもう完全に落ちてしまっています」

 そう嘆くのは、15年のノーベル物理学賞受賞者、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長だ。

 2000年、日本の科学技術予算は3兆2859億円で、同3兆2891億円の中国と並んでいた。ところがその後、日本がほぼ横ばいで推移する中、中国は怒濤の勢いで科学技術予算を積み増していった。16年は22兆3988億円。日本の6倍以上である。

 当然ながら、同時に研究者数、論文数でも日本は中国に大差をつけられている。

 16年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学科学技術創成研究院栄誉教授も、「現状を放置すれば日本の基礎科学は徹底的に駄目になるでしょう。さまざまな領域で世界レベルに対応できず、その穴を埋めるには何十年もかかる。しかし国の危機意識は非常に乏しいと感じています」と警鐘を鳴らす。

 1973年のノーベル物理学賞受賞者、江崎玲於奈・茨城県科学技術振興財団理事長も、基礎研究に対する世間の理解に苦言を呈する。「今は、基礎研究に対して『役に立たない』という不当な評価があります。当初から役に立つことを狙っているような基礎研究などあり得ません」。

GAFAが席巻する
企業の研究開発投資

 一方、日本の研究開発投資の8割を占める民間企業も頼りない。80年代には、大企業の多くが「中央研究所」を抱え、基礎研究の一翼を担っていたが、バブル崩壊以降は収益への貢献度を理由に撤退が相次いだ。

 企業における研究開発領域で存在感を強めているのは、米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのGAFAを代表とするITジャイアントだ。

 米国でもAT&Tのベル研究所や、IBMのワトソン研究所など、基礎研究分野を担う中央研究所の存在感は薄れているが、新たな主役に躍り出たGAFAたちは、AI(人工知能)をはじめとするコンピューターサイエンスの研究成果を続々とITサービスのプラットフォームに投入し、収益に結び付けていく。さらに彼らの研究領域は、旧来型の製品・サービスのディスラプション(破壊)を伴うイノベーションを内包している例が多い。実は、中国のアリババ、テンセント、ZTE、バイドゥといった企業も、こうした米国型の研究開発で猛追を始めている。

 相変わらず製造業中心の研究開発に終始する日本企業は、ビジネスモデルの点でも置き去りにされているのだ。

 科学技術立国・ニッポンが置かれている状況は極めて厳しい。

日本人はもう
ノーベル賞を獲れないのか

 『週刊ダイヤモンド』12月8日号の第1特集は「日本人はもうノーベル賞を獲れない──科学技術立国の危機」です。21世紀に入って以降、日本は米国に次ぐ数のノーベル賞受賞者を輩出しています。しかし、近年の科学技術政策の実態を知る関係者ほど、「このままではもうノーベル賞など期待できない」と警鐘を鳴らします。

 実際、前述したように各種データを見ても、科学技術立国の足元は驚くほど揺らいでいることがわかります。

 今回、過去のノーベル賞受賞者からも直接、問題提起をいただきました。過去、本誌に登場していただいた際の発言を再録したものも含め、江崎玲於奈氏(1973年物理学賞)、田中耕一氏(2002年化学賞)、益川敏英氏(2008年物理学賞)、山中伸弥氏(2012年生理学・医学賞)、天野浩氏(2014年物理学賞)、中村修二氏(2014年物理学賞)、大村智氏(2015年生理学・医学賞)、梶田隆章氏(2015年物理学賞)、大隅良典氏(2016年生理学・医学賞)、本庶佑氏(2018年生理学・医学賞)の10人のノーベル賞学者が、日本の科学技術が置かれている状況に関して持論を披露してくれました。

 また、彼らノーベル賞受賞者の出身高校についても考察しました。全26人の受賞者のうち、東日本の高校出身者はわずか7人。また、ほとんどが地方の公立高校出身です。

 東日本でも特に東京都となると極端に少なく、利根川進氏(都立日比谷高校)のたった一人。都内には受験界ではトップ校といわれる筑波大学附属駒場、開成、麻布、武蔵といった名門中高一貫校が多数あるにもかかわらず、です。小学校時代から塾に通い、過酷な中学受験を勝ち抜いた首都圏の偏差値エリートたちは、意外にもノーベル賞とは無縁なのです。中学高校の理科教育のテコ入れによって、未来のノーベル賞候補を生むことができるのでしょうか。

 その他にも、いまノーベル賞候補とされている日本人研究者25人のリストや、これから期待が高まる5大技術「AI・ディープラーニング」「全固体電池」「量子コンピュター」「ブロックチェーン」「ゲノム編集」について、技術の概要と注目のキーパーソンについてまとめました。

 12月10日のノーベル賞授賞式を前に、日本の科学技術の現状と行く末に目を向けてほしいと考え、今回の特集を組みました。是非、ご一読ください!

2018年12月8日号[ 710円 ]

表紙
特集

日本人はもうノーベル賞を獲れない

Prologue
瀬戸際の科学技術立国

第1章
日本の科学技術の危機

第2章
企業内研究の研究

第3章
次のキーテクノロジーとキーパーソン