志願倍率85.7倍──。たった63人の定員枠(一般)に、5398人の志願者が押し寄せた東海大学医学部。この数字は入試日程の兼ね合いなどによる飛び抜けた例としても、倍率20倍、30倍は当たり前というのが、今の医学部受験の実態だ(図表参照)。
それだけではない。この14万人は、日本全国に散らばるトップクラスの秀才たちなのだ。偏差値で見ると、東京大学理科Ⅲ類(医学部)の偏差値78を筆頭に、偏差値70以上が9校、それ以外の医学部でも、ほとんどが偏差値60を超えている。
1995年と比較してみると、最も偏差値が上がったのが、東京慈恵会医科大学で、この20年で偏差値56から74へと、実に18も上がった。次いで、順天堂大学は偏差値が10上がり、東京医科歯科大学と奈良県立医科大学、宮崎大学の三つの大学は、偏差値が8上がっている。
ちなみにこの偏差値データは、駿台予備学校の駿台全国模試のデータであり、最難関大学の受験者層を多く含む、レベルが高い模試であることを申し添えておく。
加えて、全ての国公立大と一部の私立大が利用する大学入試センター試験の得点率も見てみよう。低くても80%台の半ばで、偏差値の上位校ともなれば、得点率90%を超えてくる医学部はザラにあるのだ。
センター試験といえば、医学部受験では通常5教科7科目の試験。そこでこの得点率を達成するには、「一科目でも苦手科目をつくったらアウト」(加藤広行・代々木ゼミナール進学相談室部長)という厳しい戦いだ。おまけに2次試験に加えて、小論文や面接があることも忘れてはならない。
これらを総合すると、現在の医学部受験は、中堅ランクの国公立大医学部で東京大理科Ⅰ類合格レベル、私立大医学部であっても早慶理工学部合格レベルの学力が求められる。
なぜ、医学部受験はここまで過熱し、難易度が高まっているのか。
医師は食いっぱぐれがなく、年収も高い
まず、理由として挙がるのが、医師になれば、食いっぱぐれがないことだ。その気になれば、70歳になっても働くことができるし、医師は激務とはいえ社会的地位も高く、勤務医であっても平均年収は1000万円を超えてくる。
それに加えて、08年以降、有名私立大の医学部が、相次いで数百万円単位で学費を値下げし、受験しやすくなったことだ。
次に、これまでとは異なる受験者層が、医学部に流れてきていることが挙げられる。同じ理系でも理工学部などを卒業し、製造業などに就職してもシャープや東芝のように今の時代、いつ何時会社が傾くか分かったものではない。それは文系もしかりで、医師と並ぶ最難関資格の弁護士資格を取得しても、食べていけない弁護士が続出する時代だ。
消極的な理由だが、世の中に医師ほど安定して収入が得られる資格がなくなり、優秀な層の流れ着く先が医学部ということが、過熱している要因の一つといえる。
ちなみに、下位の医学部の難易度まで上がっている理由は、「かつて金を積めば入れた下位の医学部も、長らく多額の寄付金を集めたことで裕福になった。今ではちゃんと医師国家試験に合格できる、優秀な生徒を集めるようになっている」からだと、ある国立大の関係者は声を潜めて話す。
では、ここまで難易度が上がった医学部に合格しているのは、いったいどういう層なのか。上表をご覧いただきたい。今年、医学部に合格者を出した高校を、合格者の多い順にランキングしたものだ。
ひと目で分かる通り大半が私立で、中高一貫校だ。医学部を目指すなら、「小学校のころから対策を立てた方がいい。早過ぎて困ることはない」(大手予備校)。
ただし、医学部に入学するといや応なしに医師への道を突き進むことを、肝に銘じておこう。
本邦初公開!全81医学部の格を網羅した”序列マップ”
『週刊ダイヤモンド』6月18日号の第1特集は「医学部&医者」です。医者になるためには必ず医学部に入学しなければなりませんが、超難関の医学部受験は熾烈を極めます。偏差値は軒並み高く、センター試験の得点率は90%前後が当たり前。しかも倍率は20倍、30倍にも上ります。
医学部受験といえば、こうした難関さにばかりが注目されがちですが、実は、医学部の“序列”にも注意しなければなりません。なぜなら、医師の世界は「格」の高い医学部が格下の医学部を支配する構図だからです。ところが、この格というのはやっかいなもので偏差値が高ければ格も高い、といったわけではありません。医学部設立の歴史や研究成果などによって、複合的に判断されるものなのです。そこで本特集では、全国の81医学部をエリアごとに分け、序列マップを作成しました。
加えて、医学部に入学し、一人前の医師になるまでの10年間にもスポットを当てています。医学部合格は、医師になるための登竜門に過ぎず、本番は入学してから始まるからです。その10年間にもさまざまな関門があり、過酷な生活が待っています。
こういった医学部の全貌を特集に凝縮しました。ぜひ、ご一読ください。
『週刊ダイヤモンド』副編集長 藤田章夫