糖尿病医療の権威である日本糖尿病学会が作成した『糖尿病診療ガイドライン2016』に、北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師は失望した。
診療ガイドラインは、研究によって導かれたエビデンス(科学的根拠)に基づき作成するものだ。最新の研究結果を反映して更新されるにもかかわらず、2012年に山田医師が「糖質制限」の有効性を確認した試験の論文が盛り込まれなかったのである。
この診療ガイドラインは専門医や管理栄養士にとって教科書的な存在で、診療や栄養指導のベースとなる。ここで示される食事療法は、糖尿病患者にとどまらず、生活習慣病などを予防したい健常者たちの食事法にも通じ、日本国民にとって広く大きな意味を持つ。
学会は長年、食事療法として摂取エネルギー(カロリー)の量を減らす「カロリー制限」を推奨してきた。カロリーを制限しないで糖質のみ減らす糖質制限の食事法は、カロリー制限を否定するものと忌み嫌う学会幹部が少なくない。
ただ、本誌が医師、管理栄養士、企業エグゼクティブの秘書にそれぞれ実施したアンケートでは、医師、管理栄養士とも糖質制限を支持するという回答(「支持する」「どちらかといえば支持する」)が半数を超えた。実践するエグゼクティブも多かった。
医学界の壁にぶつかった山田医師は、医学界の動きを待たずに社会から先に変えようと、食に関わる企業などとの連携を深めている。また、19年版の診療ガイドラインに間に合うよう、新たな研究にも取り掛かった。
社会から先に浸透する糖質制限。しかし、医療界でスタンダードとなるまでの地位は確立していなかった。医療界と一般社会のあいだで食事法におけるギャップが生じている。
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糖質vsカロリー 制限すべきはどっち?
『週刊ダイヤモンド』1月13日号の第1特集は「科学とデータで迫る 最強の食事術」です。
世にはさまざまな食事術があります。ノウハウ本も溢れています。とりわけ近年はご飯やパンなど糖質の多いものの量を減らす「糖質制限食」を実践する人が増えました。一方で、摂取エネルギー(カロリー)の量を制限しないで糖質のみを減らす糖質制限食は体に良くないという指摘もあります。では、従来の主流、カロリーの量を減らす「カロリー制限食」の方が良いのでしょうか。
食事法のあり方は、専門家である医師のあいだで意見が対立しています。あなたが耳を傾けた1人の専門家、あるいは彼が自らの主張に沿って執筆した1冊を妄信するだけでいいのでしょうか。各種食事法の全体像を捉え、あなたにとっての最強の食事術を探りたくはありませんか。
本特集では、判断材料となり得る科学とデータを集めました。信頼度の高い試験法で行われた研究を調べ上げ、食事法の科学的根拠に迫りました。医師約1000人と管理栄養士の投票による各食事法の”総選挙”も実施しました。秘書88人にはボス、つまり企業エグゼクティブの食生活を尋ねています。
コンビニエンスストアや外食を中心とした日々の中で食事改善を実践するためのデータもたっぷりそろえました。2018年に健康的な食生活を送るための一助になれば幸いです。