怒れる農協職員らが不正を告発
若手職員を流出させる「昭和」の事業推進
ノルマを達成するために、農協職員が自腹を切って本来不要な共済(保険)に加入する「自爆営業」が多いJAはどこか――。
今や「変われない組織」の代名詞となった農協と日本郵政。農協でも、日本郵政グループ傘下のかんぽ生命保険による保険の不適切販売と同様の不正行為が横行している。
そこでダイヤモンド編集部は、農協職員らを対象に調査を実施。1386人から得たアンケートの回答に基づき、農協職員が本来は不要な共済に加入する自爆営業が横行しているJAのランキングを初めてまとめた。
前回の特集『JA自爆営業の闇 第2のかんぽ不正』では、自爆が多い都道府県別のランキングを掲載したが、農協別のランキングまでは踏み込んでいなかった。
今回、農協別のランキングが可能になったのは、アンケートの期限を延長して、有効回答数を877から1386に増やすことができたからだ。
アンケート回答者からは共済の推進による精神的、経済的な負担を訴える声が相次いだ。共済の平均自爆額は月額5万4067円だった。中には月額40万円以上を自爆している人もいた。
自爆は職員の可処分所得を目減りさせ、横領など不正の温床となる。このことは、不祥事が多発したJA高知県やJAおおいたの第三者委員会がそれぞれまとめた報告書でも指摘されている。
自爆が横行し、職員の大量離職リスクや、職員のモラル低下リスクにさらされている農協はいったいどこなのか。
JA共済連の会長の地元農協が
ワースト1位は偶然ではない
農協職員へのアンケート結果を基に、自爆営業の平均額や期間、ノルマを課された職員の範囲などを総合評価して作成した、「JA共済“自爆営業”農協ランキング」のワースト1位は、JA晴れの国岡山だった。奇しくも農協の共済事業の大元締めである、JA共済連の現会長である青江伯夫氏の地元の農協だ。
JAグループでは、JA共済連など全国組織の会長を地域の農協幹部らが兼務する。そして、全国組織のトップを輩出した地域の農協は、その全国組織が課すノルマ推進に一層力を入れなければならない不文律がある。つまり、農協の組合長が全国組織で栄達するのは、地元の職員にとってはいい迷惑なのである。
ワースト1位になったJA晴れの国岡山の特徴は、金融の渉外担当者だけでなく、営農指導員など保険の専門知識を持たない職員にまでノルマを課していることだ。
JA晴れの国岡山には特有の問題がある。合併前の旧農協によって、金融の渉外担当者「以外」の職員が課される共済のノルマに隔たりがあるのだ。
職員の採用は旧農協ごとに行なわれているため、職員の中には「自分には共済のノルマがあるのに、同期入社で同部門でも共済のノルマがない職員もいる」という不公平感を抱いている。
そうした不満もあり「金融部門以外にも共済のノルマを課す旧農協(旧JA岡山西)の若手職員の離職率が50%にはね上がり、ノルマを課さない旧農協の離職率10~20%を大幅に上っている。しかも、こうした人事の大問題が放置されている」(ある中堅幹部職員)という。
若手職員による離職問題は深刻だ。
JA晴れの国岡山の総代会(企業の株主総会に当たる)で、出席者から「共済のノルマが多いから職員が辞めているのではないか?」という質問が出たことがある。だが、経営陣は「それが原因で辞めた職員はいるかもしれない。だが、頑張りよるやつは残るし、できんやつは残らない」などと回答し、問題と真摯に向き合う姿勢は示されなかったという。
優秀な若手職員が大量離職する
2つのレガシー組織の病巣に迫る
『週刊ダイヤモンド』11月5日号の第1特集は「JAと郵政 『昭和』巨大組織の病根」です。
農協と日本郵政グループは戦後に蓄積した“財産”を食いつぶして生き永らえています。利用者から集めた莫大な金融資産があるために「当面はつぶれない」という慢心が生まれ、抜本的な改革が先送りされてきたのです。
日本郵政では、2019年にかんぽ生命保険の不適切販売が発覚。改革を怠り、目先の利益を追求したひずみが職員の不正という形で表面化しました。
日本郵政は今年4月、かんぽ不正問題発覚後、なくしていた営業目標を3年ぶりに復活させました。しかし、営業目標の復活から半年を迎える現在も、保険契約の獲得がゼロの郵便局が少なからず存在しています。本特集は、不正の未然防止のルールで自縄自縛に陥り、販売能力を失った郵便局の窮状に迫ります。
かんぽ不正と同様の問題を抱えているのが、農協です。前述のように、自爆営業などが横行しているのです。ダイヤモンド編集部が実施した農協職員アンケート回答には、驚くべき不正の実態と現場の悲痛なメッセージが凝縮されていました。
JA晴れの国岡山がワースト1位になった先述の「JA共済“自爆営業”農協ランキング」も初公開します。
農協と日本郵政の若手の職員は組織が老衰の危機にひんしていることを察知し、沈みゆく巨艦から次々と逃げ始めています。
組織の自浄能力に限界を感じ、ダイヤモンド編集部のアンケートに回答したり、取材を受けて情報提供したりする職員らも急増しています。
2つの「昭和」巨大組織は時代に合わせて自らを変革することができるのか。本特集では両組織の実態を明らかにします。