『週刊ダイヤモンド』10月8日・15日合併号の第一特集は「役職定年の悲哀」です。「55歳で年収3割減など、一定の年齢になるとシニアの年収が激減する「役職定年制度」。1000人以上の大企業の約5割で導入されていますが、その実態はあまり知られていません。そこで、ダイヤモンド編集部は15業界の主要企業の役職定年の実態や給料の実額について徹底調査。多種多様な制度があったのに加え、過酷な現実も浮かび上がってきました。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

55歳で年収3割減!
知られざる役職定年の実態

「NTTは『55歳で年収3割減』」「東京海上は年収3割減」。

 これが大企業での役職定年の実態だ。役職定年とは、一定の年齢と職位に達した管理職を、一律で役職から外すとともに年収が激減する制度のこと。冒頭のように、3割減少することは珍しくない。ローンや教育費を抱えるシニアにとっては大打撃だ。

 しかも、実は大企業の多くがこの制度を採用している。厚生労働省の「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、従業員1000人以上規模の企業の約50%は役職定年制度を導入。ダイヤモンド編集部の調査でも、社員3001人以上の企業ではなんと75%が導入しているという結果が出た。

 にもかかわらずだ。役職定年制度は当該企業の社員にはあまり存在や詳細を知られていない。定年と異なり社員規定などで明文化していない企業も多いため、中には当事者になる直前で初めて、人事部から個別に制度の存在を知らされる社員もいるという。

 年収が激減し人生を左右する制度であり、しかも大企業のほとんどが導入している。しかし、まるで「存在しない」かのように、本人たちには詳細を知らせていない。はっきりいって、これは大問題だ。

 そこでダイヤモンド編集部では役職定年の全貌をつかむため、アンケート調査を実施した。

 本人に特に過失がないのに実際に定年を迎える日まで管理職の仕事を全うできず、定年の数年や10年前の時点で年齢を理由に一線から外す、という役職定年制度は、本人にとっては納得がいく制度ではないだろう。アンケートでも「能力や実績を加味せず年齢のみで一方的に役職を解かれ減給されるのは、納得感がない」「業績評価次第では減給とならない制度にしてほしい」などの声が集まった。

 役職定年制度はそもそもなぜ生まれたのだろうか。「1986年に施行された高年齢者雇用安定法で、それまで55歳または57歳だった定年が60歳に延長されたことがきっかけだった」と定年後研究所の池口武志所長は指摘する。

 つまり、定年の延長が法律で定められたので企業はそれに従い雇用延長をする義務を負ったものの、それまで就いていた役職からはかつて定年だった年齢で退いてもらう、とした経過措置がそもそもの始まりだったというわけだ。その後、団塊世代やバブル世代などで大量に採用された世代が占めていた管理職ポストを、次の世代に回して組織の新陳代謝を図るための手段として企業に使われてきた。

 だが今、この制度は幾つかの理由で見直さなければ、後々企業経営に大きな禍根を残すことになりそうな状況になっている。

役職定年の実態がアンケートで判明
やる気をなくす人が少なくない

 アンケートは、ダイヤモンド編集部がインターネット調査ツールSurveyMonkeyで6月23日~7月14日に実施した(有効回答数211件)。

 役職定年制度は、特に大企業での採用率が高いといわれる。アンケート結果でもその通りとなっており、201人以上の会社で採用率が6割に達している。役職定年の対象になる年齢は55~59歳が最多だが、50~54歳という企業もある。

 さらに、給料の減少幅は年収ベースで11~30%減が最多で全体の53%を占め、次点が31~50%で全体の18%となった。対象となる役職は、取締役や役員を除く全管理職とする企業が最も多く44%となっている。また、役職定年を迎え、給料が減っても今までと同じ部署で同じ仕事を続けることになる企業が46%で一番多い。

 つまり、「55歳を迎えた後、役職を外れ部下のいなくなった部長が、同じ部署で同じ仕事を安い給料でしている」という姿が、典型的な役職定年後の社員の姿ということになる。

 「会社から『嫌気がさして早く辞めてくれ』と言外に言われているも同然と感じる」という声もアンケートでは寄せられた。実際にそれを期待しているところも、役職定年制度を導入している企業に多いのではないだろうか。

 このような環境で仕事のやる気を上げることはどだい無理というものだ。

 リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所の役職定年者を対象にした調査によると、役職定年後に一度はやる気が下がったとする人は6割近くに上り、内訳として下がったままという人が4割前後、やる気が再浮上した人は2割前後にとどまるという。「管理職に情報を集め、管理職を至上としていることが多い日本の伝統的大企業では特に、役職定年で喪失感を覚える人が多い」と調査を行った藤澤理恵主任研究員は指摘する。

旧態依然の役職定年制度がある一方で
シニア活用に積極的な企業も多数

『週刊ダイヤモンド』10月8日・15日合併号の第一特集は「役職定年の悲哀」です。

 55歳で年収が3割減になり、部下がいなくなり、決済権限もなくなるーー。こうした制度が、いわゆる役職定年ですが、これまであまり語られることはありませんでした。それ故、「自分の会社にも制度はあると聞くけれど、実態はよくわからないですね」という声が少なくありません。

 こうした制度は昔からありますが、時代は大きく変化しています。国は企業に定年延長を求め、年金の支給開始年齢はどんどん後ろ倒しになっています。また、就職氷河期層がシニアの年齢に差し掛かってきたことで、そもそも問題となっていた人手不足に拍車を掛けています。

 つまり、旧態依然とした役職定年制度を導入している企業がある一方で、シニアを積極的に活用しようという企業が増え始めているのです。

 そこで本特集では、主要な15業界の実態を解明すべく、アンケートや業界担当記者たちが徹底的に取材しました。その結果、64社の「50代のリアル」が浮き彫りとなりました。同じ業界であっても、会社によってその制度はじつにさまざまです。役職定年を意識し始める層だけでなく、意識したことがない層であっても、いずれは直面することになる問題です。

 本特集が、自身の将来を見つめ直したり、考えたりする一助となれば幸いです。