あなたのキャリアの命運分ける
会社・仕事選びの7大新メガトレンド
「戦後最長の景気回復期」を謳歌していた日本経済は、新型コロナウイルスの襲来で一変してしまった。
それに伴って、私たちが人生の多くの時間を過ごす「会社・仕事」の選び方も激変した。この変化に適応できるかどうかが、今後のキャリアの「天国と地獄」を分けるといっても過言ではない。
では、「今選ぶべき会社・業界・仕事」とは何か。転職・就職市場と企業人事に通じるプロたちの視座から、それを多角的に検証する。そこでまず押さえておきたいのが、現在の転職・就職市場で巻き起こっている「会社選び・仕事選び」の7大新メガトレンドだ。
(1)超売り手市場→買い手市場
コロナ以前は、転職・就職市場は超売り手市場だった。しかし、コロナ前後で採用企業側の求人数は激減。また、採用活動のフローにおいて、「書類通過率」「1次面接通過率」という採用企業の意思決定が介在する部分でハードルが上がっている。
(2)新・安定志向
コロナ以降、転職希望者が重視する条件のトップに「企業や事業の将来性」がランクイン。また、学生のトップ層では市場価値を高めるスキル・経験の獲得を重視する傾向が強まっているという。
単なる大企業志向では将来の不安が拭えない今、シビアに企業・事業の将来性を見極め、他社でも通用するビジネスパーソンになるための成長機会を重視する。そんな「新たな安定志向」を映した結果といえる。
(3)コロナ時代の働き方
コロナ禍を経て、在宅勤務の可否など「働き方重視」で会社・仕事を選ぶ働き手が急増。企業もコロナ問題の長期化を見据えて対応を迫られている。
(4)危機対応力に注目
コロナ禍という緊急事態において、対応の巧拙・スピード感で企業間格差が浮き彫りとなった。このことが働き手の転職熱に火を付けたり、会社選びの注目点になったりしている。
(5)デジタル人材の争奪戦激化
以前から必要に迫られていたデジタル化による変革が、コロナ禍によって待ったなしとなった。デジタル人材はいまだに売り手市場のままだ。
(6)ジョブ型雇用
コロナ禍に伴う大規模な在宅勤務導入で、何の仕事をすればいいのか分からない人や部下をうまくマネジメントできない上司が続出。そこで、各従業員の職務内容を明確に決めた上で雇用契約を結ぶ「ジョブ型雇用」の必要性が脚光を浴びている。
(7)OB・OG採用
ヤフーが、戦略立案や事業企画などの業務を対象に、100人規模の副業人材を募集するなど、働き方の多様化が進んでいる。この状況下で重要性が高まっているのが、「出戻り採用」を見据えたOB・OGのネットワーク化だという。
日立が「ジョブ型雇用」を
8年前に導入した理由
7大新メガトレンドの中で、多くの人にとってなじみのないのが六つ目の「ジョブ型雇用」だろう。そこで、2012年から段階的にジョブ型雇用の導入を進めてきた日立製作所を例にジョブ型を解説していこう。
多くの企業が採用している「メンバーシップ型雇用」では「適材適所」が基本で、ジョブ型は「適所適材」が基本となる。
どちらも似たようなものだと思うかもしれないが、背景にある考え方を理解すれば、全く違うことが分かってくる。
メンバーシップ型は起点となるのが従業員(人)だ。会社は人に仕事を割り振る考え方をする。そこには終身雇用という前提があり、ゼネラリストを育成するという大方針がある。社内で年に1度行われるジョブローテーションは、メンバーシップ型の雇用政策の代表的な慣習といえるだろう。
一方で、ジョブ型は起点となるのはあくまで仕事。会社はその仕事に最適なスキルと経験を持つ人材を任命する。その際、年齢や社歴は関係ない。もし社内に最適な人材が見つからなければ、外部からヘッドハントすることも厭わない。終身雇用や年功序列とは無縁の制度なのだ。
日立はこうした日本型雇用制度とは正反対ともいえる制度を全世界で運用している。しかし、同社は典型的な日本型レガシー企業だ。そんな同社が、なぜ真っ先にジョブ型へ移行する決断をしたのか。
きっかけは08年度、リーマンショックによって同社史上最大となる7873億円の最終赤字に転落したことだった。今まさにコロナ禍によって構造問題があぶり出された企業のように、日立も一気に今までの付けを払うことになった。
そこからの復活を目指す中で、日立はグローバル化を大きな柱とした。しかし、海外で事業を成功させるには、積極的に現地の人材を採用していかなくてはならない。そこで、雇用も海外のスタンダードであるジョブ型に転換する必要があったのだ。
日立では現在、全職種においてジョブディスクリプション(職務記述書)が整備されている。これはメンバーシップ型にはない、ジョブ型の特徴だ。
ジョブディスクリプションは基本的に誰でも見ることができ、その職種に就くために必要なスキルや経験が明記されている。メンバーシップ型にありがちな、仕事内容は職場の上司や先輩の仕事ぶりから何となく把握するという曖昧さは、ジョブ型にはない。
ジョブディスクリプションが明確になると、大きく三つの変化を誘発する。
一つ目の変化は、従業員が自身のキャリアを主体的に考えるようになること。メンバーシップ型では、会社都合のジョブローテーションによって、自身のキャリアが大きな影響を受ける。ゼネラリスト育成を主眼に置いた雇用慣習では、従業員は専門スキルを身に付けられないため、転職して飛躍しようにも難しい。
一方、ジョブ型では就きたい職種があればどのようなスキルや経験が必要なのかが分かるので、それに向かって努力すればいい。
二つ目の変化は、評価制度の運用がしやすくなることだ。多くの企業が、コロナ禍で急増した在宅勤務中の従業員の評価に苦慮している。職務内容やそれに対する評価基準が曖昧だったためだ。
しかし、ジョブディスクリプションがあれば、従業員に求めることが明確になっているため、オフィスでの仕事ぶりが見えなくても、上司は結果や成果物で部下を評価することができる。評価される従業員も納得がいくはずだ。
三つ目の変化が、海外人材の獲得がしやすくなることだ。ジョブ型が当たり前の海外では、職務内容が明確になっていなければ、人材マーケットでそもそも相手にされない。中畑英信・日立執行役専務兼CHRO(最高人事責任者)は「ポジションが明確なので海外の人材を外部から採用しやすくなった」と話す。
ジョブ型の導入が進むと、給与制度も大きく変わることになる。勤務年数や年齢などではなく、「仕事の内容」を基準に給与が変わるからだ。
これだけの変化を企業にも働き手にも求めるジョブ型の導入だが、日立だけでなく富士通やKDDI、資生堂といった日本を代表する大企業が、導入を決めたり、適用範囲を拡大したりしている。今がどれだけの激変期であるかが伝わる現象だといえるだろう。
例としてジョブ型雇用を詳しく取り上げたが、7大新メガトレンドはどれも同じくらい私たちの「今選ぶべき会社・業界・仕事」を激変させる可能性を秘めているのだ。
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