週刊ダイヤモンド 経済・金融・企業情報をタイムリーに伝えるビジネス誌。定期購読やバックナンバーの購入もできます。
トップ ■ 連載 第三十七回「続・憂国呆談」番外編Webスペシャル
 2005年10月号

憂国呆談    ............... ■ 田中康夫を巻き込んだ「朝日新聞」捏造記事事件。続発するハリケーンが浮き彫りにした超大国アメリカの深刻な矛盾。さらには後藤田正晴・中内功が日本に遺した功罪から、愛知万博の閉幕、横浜トリエンナーレ、文藝賞・新潮新人賞に至るまで、今月もWeb版は大充実!
...............


最低限の責任さえ放棄した国家


●「朝日新聞」捏造記事事件
photo


浅田 彰 田中さんの巻き込まれた「朝日」の捏造記事事件にはあきれたね。今回の解散総選挙での新党設立の動きのなかで、田中さんと亀井静香が会談したという記事が「朝日」に出た(8月21日朝刊および22日朝刊)。ところが、本当は東京で会ってたのに記事には「長野県内」と書かれてた。そこで田中さんが疑義を呈したことから、記者が直接取材もせず虚偽の取材メモをつくり、それに基づいて記事が書かれたことがわかったわけだ。

田中康夫 そう。で、捏造記事自体もひどいんだけど、その後の「朝日」の対応もお粗末の限り。たとえば、事件から一ヵ月近く経った9月15日朝刊に「検証・虚偽メモ問題」って3ページにわたる検証記事が載ったんだけど(http://www.asahi.com/information/release/index.html#memo)、それを書くに際して僕に何の取材もないわけ(苦笑)。社長の秋山耿太郎も編集担当常務の吉田慎一も知らない仲じゃないのに彼らからは電話一本ない。地域報道部と称する部署の人間が、僕の不在中を“見計らって”、ありきたりな文書を、それも最初に訂正を出した8月30日の前日に持ってきただけ。

浅田 彰 ええっ、それは信じがたいな。一方では前社長の箱島信一がこの問題で日本新聞協会会長まで辞任するってのに。

田中康夫 しかも、その3ページも費やして掲載された「検証記事」でとんでもないのが、記者がその虚偽取材メモをつくるきっかけになった本社からの電子メールを「『お願い』メール」って書いてること。これも虚偽(笑)。本社の政治部記者が、長野総局に宛てて亀井・田中会談に関する情報が欲しいとメールを出したんだけど、それは朝日内部では「行政連絡」って呼ばれてるの。つまり、本社が地方にこれを調べろっていうのは「お願い」なんかじゃなく「行政連絡」なんだよ(笑)。他社の記者もホントに朝日は官僚的だって笑ってるんだけどさ。

浅田 彰 朝日新聞って政府だったのか(笑)。

田中康夫 でね、その「行政連絡」を受け取り、結果的に虚偽メモをつくって懲戒解雇になっちゃった記者のNは、熱心な記者だったの。少し要領は悪いけど一生懸命記事を書くタイプでね。政治部出身の総局長に「田中から何か情報が取れたか」って聞かれて、咄嗟に「亀井さんと会ったって言ってました」と答えちゃったわけよ。そしたら「それでメモをまとめてくれ」と頼まれた。で、虚偽メモをつくっちゃうわけ。もちろんその行為自体は言語道断だけど、「取れました」と言わざるを得なかった精神的圧迫感としての「朝日」の空気が問題でね。彼としても、メモがそのまま本社政治部の記事に使われるとは思ってなかったみたい。当然、亀井番の記者の情報ともすり合わせるだろう、と。ところが実際には亀井側には当てなかったわけ。そういう意味では政治部の亀井担当を始めとする本社側こそ、処分されなきゃおかしいんだよね。そもそも彼個人の「虚偽メモ」事件ではなく、裏取りもしなかった社全体の「虚偽報道」事件でしょ。

浅田 彰 だから、田中さんは最初に朝日新聞に対し「校正というか訂正」をお願いしたいって、かなりソフトな言い方をしたわけだ。朝日新聞としては、当然、長野支局の記者だけじゃなく、政治部の記事の作り方を全体として検証すべきだよね。政治部のほうで、田中番の情報と亀井番の情報をつき合わせて確認したのか。そもそも、末端の記者のメモをもとに中央のアンカーが記事を書くっていうシステムは問題があるんじゃないか。ところが、長野支局の若い記者に責任を押し付けて終わりとは!

田中康夫 でしょ。こういう話を僕がしてたら、最初の記事から二ヵ月も経った一〇月二〇日に、ようやく「朝日」から事情説明をしたいと社長室長以下四人が知事室にやってきた。で、2時間にも亘って長々と話し合ったけど、まったく埒が明かなかったぜ(http://www.pref.nagano.jp/hisyo/press/asahi/memo.htm)。価値観の違いね。

浅田 彰 困ったもんだ。だけど「朝日」はNHK番組改変問題でもミソを付けてるでしょ。この手の問題ってボディ・ブローみたいに効いてくるんじゃないかな。

田中康夫 こうして戦前から戦中へと日本を持って行くのは、又しても「朝日」なんだと。他のメディアも他山の石にしなきゃ、明日は我が身だよ。その後、「産経」の大阪本社も、合成コウノトリ写真を掲載しちゃった。芸術的だ、と誉められた写真部の記者が合成だと言い出せなくて(苦笑)。似たような話はいっぱいあるんだから。長野県の政策アドヴァイザーを務める青山貞一・武蔵工業大学教授が一連の真相を的確に纏めているよ(http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col4631.html)。勝谷誠彦の10月22日の日記や(http://www.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=31174&log=20051022)、坂本衛の10月26日の日記(http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/index.html)にも詳しい。まあ、「被害者」の発言を封殺し続ける「朝日」に対して僕が月刊「文藝春秋」11月号に寄せたコメントを再録しておくね。

「驚くべきというか何というか、朝日新聞は今回の『検証記事』なるものを書くに際して、私に対する確認取材すらまったくされておられないんです。いわんや亀井さんにも恐らく取材していない。そして今日に至るも、私を知る秋山氏からも吉田氏からも何の連絡もなく、僕に対して誰も説明にも来ない。更に何故、この事件が起きたのか、西山君の責任、金本元総局長だけの責任に矮小化しておられるけれど、政治部或いは朝日新聞本体の編集担当者の責任はどうなのか。正に肝要なこうした部分に触れる記述が全くありません。手続き民主主義の官僚的な朝日新聞の体質をよく表しているのではないかと。『朝日新聞は潔いんだ』というパフォーマンスに過ぎないのではないかと深い疑念を感じざるを得ません」。

「何時・何処で・誰が・何を」の基本すら裏取りせずに「スクープ」が捏造されていく。しかも、検証記事も裏取り無しで出来上がってしまう。更には、それをお恥ずかしいと、頭を下げて、非を認めもしない。末期的だね。



●ハリケーン被害から見えるもの

浅田 彰 去年は日本が台風の当たり年だったけど、今年はカリブ海がハリケーンの当たり年だね。8月末の「カトリーナ」、9月の「リタ」、そして10月にも「ウィルマ」と、史上最大規模の大型ハリケーンが続々とアメリカを襲った。これも自然の揺らぎに過ぎないんで地球温暖化とは無関係だっていう専門家もいるけど、素人がそこをつなげて考えたとしても無理はない。巨大な雲の渦の衛星写真を見ると、映画「ザ・デイ・アフター・トゥモロー」を思い出すな。

田中康夫 そして、結果的に、弱肉強食型のブッシュ政権の負の側面が見事にあぶりだされちゃったよね。

浅田 彰 そう。「小さな政府」で弱者は放置するってことになると、最終的には国内に第三世界みたいなものができちゃう。その典型であるニューオーリンズの貧しい地区がカトリーナで水没して、クルマもないような貧しい人たちが大勢逃げ遅れちゃったわけだ。しかも銃を持ってるから略奪やレイプも頻発する。いわゆる先進国ではとても考えられないことだよ。ニューオーリンズなんて「水没したバクダッド」とさえ言われる惨状だったんだから。

田中康夫 まったくね。だいたい死者の数がわからないなんて、いったいどこの国の話なんだ。考えられない。FEMA(米連邦緊急事態管理局)なんて何の意味もなかったって話だよ。

浅田 彰 阪神淡路大震災のとき日本政府の対応が遅れたのに対し、アメリカにはFEMAっていう素晴らしい組織があるとか言ってたでしょ。あれは、カーター政権がつくったわけ。カーターは核戦争にどう対処するかも含め危機管理を重視してたから。で、それはクリントン政権ではプロ集団としてうまく機能してた。ところが現ブッシュ政権になって一気に形骸化する。FEMAの前長官であるジョセフ・オルボーは、もともと2000年大統領選時の全国選挙対策委員長で、FEMA長官ポストは明らかにご褒美人事なの。さらにカトリーナ被害が生じたときの長官マイケル・ブラウンなんて、学生時代にオルボーのルーム・メイトだっただけのヤツ(笑)。もともと競馬関係の仕事をやってたのにコネだけで登用された。それが何もできずにいるのに、最初ブッシュはブラウンに「すごい仕事をやってるじゃないか」なんて言ってたんだよ。さすがに後で更迭されたけど。

田中康夫 典型的なブッシュ利権一派だね。

浅田 彰 しかもFEMAは9・11のあとテロ対策を主眼とするDHS(国土安全保障省)の傘下に入れられちゃったから、以前のような権限もないんだ。むろん、災害に対処する一義的な責任は市や州にあるわけで、ニューオーリンズ市長はそこそこよくやったと思うけど、ルイジアナ州知事なんかは確かにもたもたしてた。でも、州をこえる大災害ともなれば、州軍やなんかをフェデラライズする、つまり連邦の指揮下に組み込むことが可能で、それをFEMAが統一的に動かすべきだったんだから。ところが、最初、ブッシュ政権は「どうせニューオーリンズ市長もルイジアナ州知事も民主党だしな」なんて他人事みたいな対応だったわけよ。
photo

田中康夫 ほとんど犯罪的だね。

浅田 彰 大規模なハリケーンが来たらニューオーリンズの堤防は決壊するから早急に補強しなきゃいけないってことは前から言われてた。ダメになったといわれるFEMAが去年やったシミュレーションでさえ、堤防が決壊したら10万人規模の市民が取り残されるってことがわかってた。実際、今回そのとおりのことが起きたわけだ。ところが、何の対策もとられてこなかったんだから。もはや国家が国民の生命・財産を守るっていう最低限の責任さえ放棄しちゃってる感じだね。

田中康夫 まったくだね。いい意味でのクラシカルな政府の役割、つまりプリミティヴに生命と財産を守るってことをしてないんだ。ところが、はるか彼方の外国にまで出かけていって戦争することにはカネを惜しまない。

浅田 彰 現地でも州軍の三分の一がイラクに行ってて、装備も手薄になってたのが、かなり響いたみたい。外に向かっては「強い国家」として振る舞うけど、内に向かっては「小さい政府」で弱者の面倒は見ない、と。

田中康夫 結局、泣きを見るのは常に弱い立場の人たち。「えんじゃないか選挙」で小泉ポピュリズム党に投票した面々も、明日は我が身かも知れないのに気付いていない。「増税」の文字をマニフェストに一言も記さず、武部勤が「2007年に消費税導入」と総選挙中にテレビで語ると、「07年は早過ぎる」と首相自ら否定しながら、ライオン宰相ならぬオオカミ少年が、しれっと増税を決定しても、怒りもしない聡明な国民ね。サッチャリズム的SMを嬉々として喜んでいるとしか思えません。同時に所得税を大幅減税する訳でもないのにね。

浅田 彰 しかし、ハリケーンの件でちょっと感動したのは、R&Bの神様と言われるファッツ・ドミノがニューオーリンズで被災して家に閉じ込められ、一週間くらいしてやっと生存が確認されたこと。そういえば、大昔のブルースには「水が出た、水が出た、水が出たぞ」みたいな歌もけっこうあって、その伝統を身をもって生きてるって感じ? ともあれ、一日も早くニューオーリンズが音楽の町として復興することを望みたいね。

田中康夫 まったくだ。

浅田 彰 しかし、2001年の同時多発テロを逆手にとってやりたい放題やってきたブッシュ政権も、カトリーナっていう4年後の非常事態を期に大きくつまずいた感じだね。イラクはなんとか憲法採択までこぎつけたものの治安回復まではほど遠くてついに米兵の死者が2000人を超えたし、この夏は息子がイラクで戦士したシンディ・シーハンっていう「反戦ママ」がテキサス州クローフォードのブッシュの牧場の外で面会を求めて座り込んだのをきっかけに反戦気運がぐっと高まった。イラクの大量破壊兵器の有無に関するCIAリーク疑惑に関して、正副大統領の補佐官で最大の腹心であるカール・ローヴとルイス・リビーが情報を漏らしたことが明るみに出て、起訴されたリビーは辞任に追い込まれた。同時に、共和党も、トム・ディーレイ下院院内総務が選挙資金問題で起訴されて辞任したし、ビル・フリスト上院院内総務もインサイダー取引疑惑を抱えてる。最高裁で保守派の故ウィリアム・レンキスト長官の代わりにジョン・ロバーツ長官を指名したのはうまくいったとして(しかし50歳で終身職についたわけだから在任期間が30年を超える可能性も!)、中間派のサンドラ・オコーナー判事が引退する後にハリエット・マイヤーズ大統領法律顧問を指名した、彼女は保守的だからリベラル派も反対するし、判事経験がなく本当に保守的な判断をするか(たとえば中絶に反対か)信頼できないってんで保守派からも支持されずに、結局、指名辞退って形に追い込まれた。日常的なところでも、イラク情勢やハリケーンと関連した石油価格高騰は、自動車大国アメリカにとっては大きいよ。あれやこれやで、ブッシュ政権はこれまでになく苦しい状況にあるといっていいんじゃないかな。


●中内功の功罪

浅田 彰 9月半ばに後藤田正晴が亡くなった。でも、ちょっと評価されすぎじゃない? 警察のトップとして大学紛争を弾圧し、「三角代理戦争」と呼ばれた1974年の徳島参議院選挙に出たときは警察出身にもかかわらずものすごい金権選挙で前代未聞の逮捕者を出したような人物だよ。それがいまや小泉とかに比べれば良識ある護憲派として惜しまれてるんだから。

田中康夫 いやはや恐ろしい話(苦笑)。他方、やはり9月半ばに83歳で亡くなったダイエー創業者の中内功に関して言えば、晩年の評価の低さは異常だったね。現在のダイエーが社葬をしないなんてのも信じられない話。それをしっかりやってこそ新たな経営がスタートできるはずなのに。
photo

浅田 彰 バブル期の放漫経営でダイエーを破綻させた責任者には違いないけれど、その前に日本にスーパーマーケットを定着させたパイオニアではあるわけだから、たしかにあのおとしめられ方は不当だと思う。

田中康夫 ほんとうにそう。僕は11月3日のお別れ会には神戸まで出掛ける心算だよ。中内の原点って、戦争体験なんだ。フィリピンの戦場で地獄のような飢餓を経験して、死ぬ前にスキ焼きを腹いっぱい食いたいと強烈に願った。その思いが、安い商品を豊富に提供する原動力になった。当時、出荷額の三倍で電気製品を売ってた松下に挑んだのも同じ哲学だよね。僕はそれはある段階までは正しかったと思う。そして彼はその哲学に従って細かいことまで全部指示したんだよね。中内はやっぱりお客のためっていう思いが強かったんだよ。でも、彼は晩年に「消費者が見えなくなった」と言ったわけ。それはまさに真実の吐露だと思う。高度成長期が終わり、モノが溢れる時代になると、彼にはお客が見えなくなる。そしてまさに慶應義塾大学の村田ゼミでアメリカ型のマーケティングを習ってきた息子に後を継がせた。また、安売りにこだわって、倉庫みたいなディスカウント・ストア「コーズ」をつくって失敗しちゃう。たしかにそういう失敗もあったけど、それにしたって晩年の評価は不当に低過ぎるよ。

浅田 彰 実際、1960年代で言えば日本を代表する経営者の一人でしょ。彼が唱えた「流通革命」って、著書である『わが安売り哲学』にもあるように、毛沢東思想の引用だったりするんだよね。人民が飢えているときに安い商品を大量に供給する、と。

田中康夫 彼の軌跡はまさに戦後の日本。だからこそ、今や日本が見えなくなってしまった。「主婦の店」として消費者を育てた。でも、その消費者が、良くも悪くも目が肥えて、良くも悪くも我が儘に個性化した。

浅田 彰 バブルを経て見えなくなったわけだ。

田中康夫 ところが「見えない日本」だってことを理解せず、小泉的なやり方で見えていると思うのは、社会のほうが中内よりも遅れてるってこと。いまだに大規模店舗をどんどんつくり、昔ながらの地元の個店を締め付けてるわけだからさ。僻地に回ってくる巡回お買い物バスもなくなったから、お年寄りまで車に乗って郊外スーパーに行かなきゃいけない。そういう意味じゃ、ダイエーの二の舞を今イオンがやってるともいえる。
 たとえば魚の切り身とかでも、スーパーに行くと全部が一律にでかくてアメリカ型でしょ。でも長野県庁のそばにある小さな魚屋が近所の高齢者に評判で、切り身を小さくして売ってくれる。しかもお客さんに「これがうまいよ」って直接話しかけるわけ。やっぱりそういうお店って大事だよ。だからこそ、頑張ってる個店に補助金を出すとか表彰するような仕組みが必要だと思う。今までは個人の商店には補助金は出せなかった。商店街に補助金を出してたわけ。あるいは商工会議所にお金を出してた。でも本当に対象にすべきなのは個店だよ。そうして、もう一回ヨーロッパ型の集落というかコモンズを再生していかなきゃ。まぁ小泉は商工会議所とかの基盤を壊して、気ままな今週のベストテン的に投票する層を自民党支持者にしたいみたいだから、それはそれで必要悪として大いに利用し、結果として個店を活性化させる方向にもっていけばいいと思うね。


浅田 彰 あと、大型店舗化の一方で、コンビニの時代でもある。イトーヨーカドーだって本体が苦戦してるのをセブン・イレブンで何とか支えてるわけだからさ。しかし、コンビニも、中国なんかに進出するのはいいとして、国内ではさすがに過当競争でしょ。本当に必要なのは、田中さんが言うように古い商店街みたいなネットワークだと思う。僕の住んでる京都は依然としてそういう部分が元気だからね。

田中康夫 そうなの。だから、今回の総選挙でまさかの当選をした比例代表東京ブロックの安井潤一郎なんて早稲田商店会の会長なんだから、そういうことをガンガン言っていかなきゃ。小泉に恩義なんか感じないで、通ったらこっちのもんなんだからさ(笑)。

浅田 彰 そういえば早稲田商店会は「選挙セール」といって、投票した人に割引サービスをしてたね(笑)。我々がこの対談で提案してた投票率に連動した割引と似たような発想。

田中康夫 いやぁ、自民党も長野県の入札改革や財政改革、ゼロベース予算を取り入れていくし、我々は大変なアイディア箱だ。パテント無しで提供しているんだから、若しかしたら我々は最大の自民党応援団?(爆笑)


●どうなる阪神?


田中康夫 浅田さんって阪神ファンなの?

浅田 彰 一応ね。

田中康夫 じゃあ今年はリーグ優勝して、喜ばしいじゃない(笑)。

浅田 彰 しかし、ロッテとの日本シリーズではやっぱり実力を遺憾なく発揮した(笑)。4連敗で、合計すると33対4って、ちょっとすごくない? まあ、ほとんど毎回オーダーを変えながら選手ひとりひとりの能力をうまく引き出すロッテのヴァレンタイン監督の戦術が見事に功を奏したってことなんだろうけど。

田中康夫 でも、一方で村上世彰の「村上ファンド」が阪神電鉄の株を買い占めるってどうなのかね。

浅田 彰 たしかに阪神電鉄は健全経営だよ。バブル期にも何もしてないから傷もない(笑)。大阪駅前の阪神百貨店をはじめ、けっこう土地もあるのに、簿価は大昔に取得したときのまま。だから、もっと積極的な経営で株価を上げる余地はあると思うけど、そんなにすごい投資対象とも思えないな。

田中康夫 となるとやっぱり球団だけか。確かに認知度とかブランド力っていう意味ではすごいからね。

浅田 彰 村上は灘中・灘高時代にずっと阪神電車で甲子園の前を通って通学してるからね。彼に言わせれば、せっかくこんなにブランド力があるんだから、もっと有効に使って稼げってことなんだろうけど。

田中康夫 阪神ファンは抵抗してるみたいだ。さて、どうなるかな。村上のことは僕も、彼が大学時代から知ってるけど、時々、マスコミに露出するような買い占めを行って、知名度を上げる作戦でしょ。その意味では阪神に関しては、最終的に成功しなくても既に村上にとっては「成功」でしょ。で、そこでワンサカ集まった資金で、手堅く利食える銘柄を幾つも扱う。こっちはマスコミも注目しないような銘柄でね。

浅田 彰 他方、楽天も最初の年に最下位になるのは当然「想定内」だったわけで、三年契約の田尾をクビにして野村を監督にするっていう三木谷のやり方は、ファンも喜ばないと思うな。しかし、もっと大きな問題は、楽天によるTBS株の大量取得。村上ファンドも一枚噛んでるし、フジテレビを買収しようとしたホリエモンが今度はTBSのホワイト・ナイトに名乗りをあげたりもしてる(笑)。野球の問題と同じく、背後にはオリックスの宮内の影もちらつくし、いったいどっちに転ぶか、これからも目の離せないところだね。

田中康夫 三木谷浩史は堀江貴文と違って自分は首尾良く勝利する、と思い込んでたんだろうね。ところが、奥田碩も渡邉恒雄も味方してくれるどころか、名誉ある撤退を求める「想定外」の展開。前述の坂本衛の日記(http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/whatsnew.html)にも詳しいけど、ネットとテレビの融合が画期的に可能なんだったら、とっくに実現しているよね。年商400億円弱の企業の株価総額が1兆円を超えているバブルな現状こそが日本全体として解決すべき問題なんで、ネット販売の旅行会社を始めとしてM&Aを相次いで実施しても、過大評価されている株価に三木谷は焦燥感を抱いていたんだと思う。でも、だったら、たとえば西友でもダイエーでも、バーチャルではなく消費者と対面販売で日銭を稼ぐリテール部門に進出すべきだった気がする。何れにしても、のらりくらりと時間を掛けられてしまうと、楽天は苦しい。副社長の国重惇史も、許永中との関係がマスメディアで取り沙汰されるのではないか、と囁かれてるから、これはこれで三木谷にとって辛いんじゃないかな。

浅田 彰 ちなみに、阪神の話に戻ると、リーグ優勝したとき戎橋から道頓堀に飛び込むのが危ないってんで、ものすごい防護壁を立てたんだけど(笑)、そもそも戎橋自体をああいう飛び込みができない形に架け替えつつあって、ついでに道頓堀の水辺に散歩道をつくったりもしてる、ああやって大阪を水都に戻すってのはいいんじゃないかな。それは安藤忠雄も言ってるんだけど、彼の設計した天保山のサントリーミュージアムだって、やっぱり彼が駅を設計したユニバーサルシティ(ユニバーサルスタジオの駅だからとはいえ「宇宙都市」「普遍都市」ってんだからすごい!)の傍らの船着場から船(女性だけで運行してる)に乗って行くとだんぜん感じがいいからね。こないだ大阪港の南のほうの名村造船所跡地で namura art meeting っていうイヴェントがあって、磯崎新や柄谷行人とシンポジウムをやった、そのときに中之島から船に乗って木津川を下り会場まで行ったんだけど、これも面白い体験だった。途中、道頓堀に通じる水門もあって、事前に申請しとけば船で戎橋のあたりまで行くことだってできるんだよね。木津側の河口近くにはもっと大きな水門があって、そこまで岸辺にずっとホームレスのテントが続いてるのが、水門の外に出るとパタッと途絶える、そのあたりも面白かったけど。そういえば、ソウルでも川の上の高速道路を撤去して川を甦らせるっていう計画がひとまず完成したでしょ。むろん、交通の問題もあるから全面的にやるのは難しいだろうけど、ああいう逆方向の開発、乱暴な開発によって失われたものを取り戻す開発ってのは、これからの大きな課題になるんじゃないかな。
 大阪の話に戻れば、戎橋を含む心斎橋筋も、そごうが新たに開店してちょっと賑わいを取り戻した感じ。隣の大丸とも協力して「心斎橋物語展」ってのをやってたけど、ヴァルター・ベンヤミンがパリのパッサージュ(アーケード)を研究したように、橋爪節也が当時の心斎橋筋商店街を研究した『モダン心斎橋コレクション』(国書刊行会)の成果が生かされてて、なかなか面白かった。大丸(1922−33年)はウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計したネオ・ゴシック様式の建物で、アール・デコ調の装飾が凝らされてるのに対し、そごう(1935年)は村野藤吾が設計したモダニズムの建物で、好対照を成してたわけ。商店街でも、宮武外骨の滑稽新聞社にいた三好米吉ってのが柳家書店ってのを開いて普門暁の「未来派手拭」なんてのを売り出すとか、三木楽器店で山田耕筰が作曲講座を開くとか、なかなか面白いことをやってるの。最近で言えば「セゾン文化」なんかにも通ずる感じ。たんに商業的再開発を目指すだけじゃなく、そういう文化的記憶を想起するってのは、意味のあることだと思うな。そういう意味では、建て替えを始めた梅田の阪急百貨店も伊東忠太のつくったコンコースを保存する形にすればよかったのに。


田中康夫 そういう話、凄く判るなぁ。でも、同様のことを山国の長野県で実現するのは無理だね。議員だけでなく地元マスコミや経済界の理解を超えてるだろうから。まあ、南信州に行けば「かんてんぱぱ」でお馴染みな伊那食品工業で会長を務める塚越寛だったり、あるいは北信でも小布施町へ行けば、小布施堂の市村次夫や町長を務める従兄弟の市村良三あたりが理解を示しそうだけど、県庁所在地では凡そ無理だね(苦笑)。良い意味でパトロネージュする為政者や経済人が居ないとね。その意味では、西武鉄道の株主としての権利を主張している堤清二には、もう一度、期待したいと思うよ。


●想定外だった愛知万博

浅田 彰 とうとう愛知万博が終わったね。

田中康夫 総入場者数は目標だった1500万人を上回り、2200万人を超えた。

浅田 彰 いやぁ、これに関してはさすがに想定外。まさか、こんなにバカが多いとは思わなかった(苦笑)──と思ったら、入場者の半分くらいが愛知県および中部地方の住民で、10回以上も行ったリピーターもけっこう多いらしい。

田中康夫 ホントに驚いた。やっぱりトヨタの力なのかな。

浅田 彰 それは大きいだろうね。

田中康夫 愛知の人々にとっては、かつてオリンピック誘致で失敗して、これまで何もビッグイヴェントがなかったわけだから、そのトラウマを晴らした。

浅田 彰 だから、愛知の、愛知による、愛知のための万博だったんでしょ(笑)。

田中康夫 あるいは、トヨタの、トヨタによる、トヨタのための万博だった、と。スペイン館を始めとして、想像以上に秀逸な内容のパヴィリオンもあったんだけど、全体のレヴェルも、そこまで達していたかどうかは判らない。

浅田 彰 だから、堺屋太一ですら言ってたよ、全国博ですらなく、まして万博ではない、と。まぁ彼は企画の途中で外されたから中立とは言えないかもしれないけど。

田中康夫 ディズニーランドとユニバーサルスタジオの中間に出現したテーマパークだったと。万博と言えば、同じような巨大イヴェントであるオリンピックを今度は東京都が誘致しようとしてるわけだ。2016年の夏季五輪まで石原慎太郎は都知事を務めるつもりなのかい(苦笑)。

浅田 彰 客観的に言えば、誘致するなら大阪にすべきだよ。だって、会場にすべく巨大な島を二つもつくっちゃって、使い道がないんだから(笑)。東京に呼ぶとなるとまた場所をつくんなきゃいけない。であれば、夢が叶うまで大阪が立候補し続けるってのはどう?


●横浜トリエンナーレのドタバタ

浅田 彰 横浜トリエンナーレ(http://www.yokohama2005.jp/jp/)が開幕したけど、実は前回から4年目なの。これじゃあクアドリエンナーレだって。普通、ああいうのは、終わってすぐに次回の企画が始まるはずでしょ。ところが、前回の総括会議すらなく、そのあとずっと何もやってなかったらしいの。で、結局一年遅らさざるをえないってことになって、去年の7月に磯崎新がディレクターに就任したわけ。磯崎は、現在の美術界は財団(ファウンデーション)が支えてるから、それぞれの財団のイチ押しのアーティストと建築家を組ませて競わせるっていう企画を立てた。それによって美術界の下部構造があぶりだされるだろうし、実利的にいえばそれぞれの財団が持参金つきで参加することによって少ない予算を膨らますことができるだろう、と。まあ、カネのあるところが勝つってことにもなりかねないし、この企画がどこまでうまくいったかは疑問なしとしないけど、大胆な企画には違いない。とはいえ、それぞれの財団の意思決定のためにも時間が足らないんで、どうせ1年延びたんだからもう1年先送りしようって言ったら、それは無理だってことで、結局、磯崎はディレクターを辞任した。で、去年の12月の時点で川俣正がディレクターになり、何とかこの秋のオープニングに漕ぎ着けたわけよ。川俣は工事現場みたいなインスタレーションで知られるアーティストだけど、時間がないことを逆手にとって港の倉庫とコンテナーを主体にした仮設展示方式はなかなか効果的だと思う。でも、倉庫の空間をうまく生かしたインゴ・ギュンターの作品とか、埠頭で撮影した松井智恵のヴィデオ・プロジェクションとか、いくつかの例外を除けば、これといって見るべき作品がない。かといって、アジア諸都市のビエンナーレで見られるような混沌とした熱気(僕はそういうのを評価するわけじゃないけど)もない。中途半端としか言いようがないな。とにかく、トリエンナーレをやるって国際的に宣言しちゃったんなら、もう次回の企画を進めるくらいのスピードで着々と準備しなきゃ。それができないんなら、そもそもトリエンナーレなんかやらないほうがよかったんだよ。


●文藝賞と新潮新人賞

浅田 彰 田中さん、選挙の直前に選考委員として、文藝賞の選考会にも参加したんだよね。

田中康夫 そう。三並夏っていう中学三年の女の子の「平成マシンガンズ」と20代前半の青山七恵の「窓の灯」を受賞作に選んだ。三並には文才があると思うよ。でも、これから高校受験もあるし、小さな町に取材が殺到したら大変だから、同じく文才が感じられる青山との2作同時受賞が望ましい。公表前に編集者が事前に会いに行って、きちんとメディア対策を家族と話し合え、と。

浅田 彰 田中さんがそういう細かいディレクションまでやってたわけだ。まあ、作品としてはまだまだ荒削りで、僕なら受賞作には選ばないけど、自分を含む中学生の世界をけっこう客観的に見れてるし、文章にもパワーがあるし、なかなかの才能ではあるね。とはいえ、これを凌駕しようと思ったら、次は小学六年生くらいを見つけてくるしかないわけだ。こうなるともう作文コンクールの世界(笑)。

田中康夫 まあ、全ては消費される社会だからね。その中からラディゲやサガンも生まれるかも知れない、と考えるしかないね。彼女が山の上ホテルでの授賞式で挨拶した言葉のマシンガンには、他の選考委員の高橋源一郎も斎藤美奈子も角田光代もシャッポを脱いでたよ。「初めまして、三並夏です。このような緊張を味わえることをとても嬉しく思います。今回文藝賞をいただいた作品は、私の思春期のある一時期を終えた後、直ぐに書きました。それまでの自分がどうしてあんなしょうもないことをしたんだろうとか、しょうもない考えを持っていたんだろということを考えたときにとても恥ずかしかったので、その感覚が鮮明に残っているうちに小説として、自分の経験としてではなく、その感覚を書きたいと思って描いた作品でした。これからもそのようなショックや壁に何度もぶつかり、恥ずかしいと経験することもあるのかもしれませんが、そのような気持になるたびに今日の日を思い出したいと思います。今日のこの引き締まった気持はずっと忘れません。言葉の魅力を模索し、この素晴らしい賞に寄り添って生きていくことに相応しい人間になれるように、務めていきたいと思います。選考委員の先生方、編集部の方々、本当にありがとうございました。そして、皆さま、ありがとうございました」。これだよ(笑)。で、こまっしゃくれているわけでもさめているわけでもない。淡々と喋ってるの。この挨拶だけでも、賞の価値はあると思うし、マスメディアの嵐を乗り越えてしまうんじゃないかと確信したよ。

浅田 彰 僕のほうは新潮新人賞の選考をやって、やっぱり中学生のイジメの問題を描いた「冷たい水の羊」っていう作品を新人賞に選んだわけ。個人的には特に推したいというほどじゃなかったんだけど、作者の田中慎弥ってのは山口の工業高校を出てから三二歳の今までずっと母親頼みの引きこもりみたいな生活をしてきたやつらしくて、一種、異様な執念がこもってるには違いない。作者の弱年化が進む一方、これからはこういう中年の引きこもり文学やニート文学ってのが出てくるかもよ。しかし、こんなことで大丈夫なのか、日本文学は?(笑)

(了)
次回更新は12月中旬の予定です!



続・憂国呆談の本誌版とWeb版をまとめた単行本『ニッポン解散──続・憂国呆談』(定価1800円+税)が、絶賛発売中です。
02年の田中康夫・長野県知事再選から、05年の解散総選挙・自民圧勝に至る激動 の3年間を、軽妙&クールに語り尽くした究極の対談集です。是非お読み下さい!