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●去りゆく老雄たち
ブッシュ再選が決まって一週間ほどたったと思ったら、パレスチナ自治政府のアラファト議長が死んだね。
アラファトって、実力に比して世間のイメージが良すぎたかも知れないね。過分にカリスマ視されちゃった人だと思う。
昨年亡くなったエドワード・サイードは、一時、パレスチナ民族評議会の議員としてアラファトに助言したりしてたんだけど、結局、幻滅してやめちゃったんだよね。アラファト指導部は内部においてまったく非民主的で会計も不透明きわまりない、外部に対してもアメリカの政治過程を理解してないから有効な外交ができない、と。
三四歳年下の元々はクリスチャンでパリで贅沢三昧の妻と結婚したところに彼の限界が象徴されてる。
でも、かつて過激派だったアラファトだからこそ宥和路線をとることもできた。これからは下手をするとパレスチナも四分五裂して過激派のテロが激化しかねないと思うな。しかも、相手は、「おれに合うサイズの防弾チョッキなんてない」と大見得を切るシャロンだからねえ。
そういやアラファトが危篤状態になる少し前にキューバのカストロが転んで脚を骨折した。彼も七八歳だから、あれで入院が長引くとボケちゃうかも。
なにやら時代の節目が来てるって感じだな。
キューバやパレスチナが無理なことをやってきたのは事実とはいえ、今のアメリカやイスラエルみたいなゴリ押しでいいのかというと、とてもそうは思えない。最低限、アラファトとラビンの握手の段階まで戻ってやりなおせればいいんだけど、なかなか難しいね。
●「テロとの戦い」がヨーロッパでも?
オランダで映画監督のテオ・ファン・ゴッホがイスラム原理主義者と思われる連中に暗殺された。画家のゴッホの弟の血筋を引く人物で、イスラム批判を含む映画を撮ってたほか、TVなんかでもイスラム批判を繰り返してた--っていうか、日本でいうと「TVタックル」のハマコーみたいに、いわばトリックスターとして、イスラムのこともユダヤのことも同じようにボロクソに言ってたらしいんだけどね。ヨーロッパでも最もオープンだったオランダ社会でも、これで一気に反イスラムの機運が高まり、イスラムやアラブへの批判が声高に語られるようになった。これはけっこう大きな問題だと思うよ。
実は、かつて「続・憂国呆談」本誌版でも触れたように、オランダでは二年ほど前に極右政党代表のピム・フォルタインが暗殺される事件があった。このフォルタインってのは、フランスのル・ペンのような古い極右じゃない、いわばポストモダン極右だったんだよね。というのも、彼はゲイとしてカム・アウトしてたわけ。その点は、こないだ来日したパリ市長のベルトラン・ドラノエ(社会党のホープの一人)なんかと同じ。だけど、その後が違う。フォルタインによれば、西欧はゲイのようなマイノリティに対しても開かれた社会である、しかるにイスラムは不当なゲイ差別をやめない野蛮な社会であって許しがたい、と。それが極端な排外主義につながるわけよ。今度のファン・ゴッホ事件は、かつてのフォルタイン事件ともつながって、イスラムに対するプレモダンかつポストモダンな排除の意識を助長することになるんじゃないか。
ちなみに、その点で、マレーシアのマハティール元首相の後継者と目されながらソドミーの罪で長年刑に服してたアンワル・イブラヒム元副首相なんかは注目に値するかも。この事件は政治色が強くて、アジア通貨危機のときマハティールがソロスやIMFを非難したのに対し、アンワルはIMFとの協調を主張し、それで対立が深まったことが伏線にあるらしいんだけどね。実は、ネオコンの筆頭のポール・ウォルフォヴィッツ米国防副長官は、インドネシア大使だったことがあって、イスラム教徒の多いインドネシアやマレーシアでかなり政教分離が進んでることに注目してたわけ。最近でも、最高裁で逆転無罪判決を勝ち取ったあと病気治療のためドイツに滞在してたアンワルや、インドネシアのワヒド元大統領みたいなイスラム穏健派と会ってるんだよね。そういうモデルがイスラム圏全体にすぐ適用できるとは限らない。ただ、アンワルのような人物が復権するとすれば、それ自体はいい徴候だと思うな。

●日本型企業の崩壊
先日、三井住友銀行頭取の西川善文に会ったんだ。彼について『週刊ダイヤモンド』は厳しいこと書いてたけど、僕は異なる印象を抱いたな。UFJの件でも皆は敵対的な行為をする変わり者と見てるようだけど、あれはある種の義侠心もあるんじゃないか。統合してデカくしたい威張りたいということじゃなく、フェアでない東京三菱との動きは許せんという意識から始まってるんだと思う。実に恬淡としてて、あれほど私欲のない人はいないと誰もが言う側面もあるんだから。
本当にアメリカ型でルールに則った自由競争をやるっていうのなら西川の言ってるようにやるべきなんで、一方でアメリカ式とか言っておきながら実際は役所の裁量と談合で決めてる現状がおかしいんだ。UFJ信託との統合を先に約束してた住友信託が、UFJと三菱東京の信託部門の統合交渉差し止め仮処分を申請した件もそうだよ。あれは差し止め命令を出した地裁判断が正しいんで、高裁と最高裁の判断は法律論として変だと思う。最初のUFJ信託と住友信託の統合に関する基本合意書は法的に有効だけど、もはや実現の可能性がないから反古にせよなんて言うんだから(笑)。
住友信託は今度は本訴訟を東京地裁に起こした。それと連係して三井住友の西川もまだ諦めてない。いずれにせよ小泉や竹中はアメリカ式のフリをしてるだけで、むしろ西川なんかのほうが愚直にルールを守れと言ってるんだよね。
しかし一方でちょっとルールに則して透明化しようとしてみたら、次々と有価証券報告書の虚偽記載がバレてきちゃった(笑)。
西武鉄道から日本テレビまでね。プロ野球絡みの会社ばかり。まったくどうなってるんだよ。
球界の状況が経済界の状況を先取りしてるんだな。しかし、これまで何十年も有価証券報告書に嘘を書いてたなんて、近代資本主義の体をなしてないよ。そもそも監査役は何をしてたわけ? あるいは、ナベツネなんかが個人名で放送局や球団の株をもってたりする。税務署はそれを知ってて課税しなかったわけ? そもそも西武の問題も堤家の相続税逃れから来てるわけでしょ。
堤義明は長野県内でも随分とプリンスホテルを展開してるし、県内の名だたる企業も安閑としていられない可能性もある。
こうやって日本型企業が続々と崩壊していくわけだ。どこまでいくか、ちょっと見ものだね。
●最低限綱領での連係
来年二月〜三月に長野で開かれる「スペシャルオリンピックス冬季世界大会」(http://www.2005sowwg.com/)に関する会合で森喜朗に会ったんだ。
田中さんと森喜朗って、いまや三位一体改革の義務教育費の問題に関してはほぼ同意見なんだよね(笑)。
そうそう、世の中、ビックリだよね。で、実際会って話してみると森って世間で言われてるのと大違いなんだよ。その点でもビックリ(笑)。とにかく話の運び方が上手い。資金調達でモタついていたスペシャルオリンピックスについても、理事長の細川佳代子が「日本にはまだ障害者への差別意識があって」とか言うと、「細川さんはみんなに差別意識があると言うけど、私はそういうことではないと思う。接すれば誰もが感ずるんですよ。皆はわかっていないという言い方が逆に差別を生むんだ」とか「田中知事が言ったように、広い心を持って取り組みましょう」なぁんて、落としたり上げたり(笑)。

彼は幹事長で終わってりゃ優秀な幹事長として記憶されたはずだって以前から言われてたんだよね。気配りとかすごいらしいから。
で、「いやぁ、森さんは僕が苦手な小泉さんの後見人だから」って言ったら透かさず、「おれは後見人なんかじゃねぇよ」と微苦笑してたよ。
文教族のドンとしての面子があるから、義務教育関連費の国庫負担削減問題についてはホントに小泉に怒ってるんだと思うよ。それと、青木幹雄に対し「小泉は俺が言うことをきかせるから」って言ってたのに全然ダメで面目丸つぶれ、それで怒ってるってこともあるんじゃないかな。しかし田中さんが教育問題で森と一致せざるを得ないなんて!
ホントだよ。それに新しい公共事業の在り方に関しては亀井静香と意見が近くなっちゃってる。これってどういうこと? このあいだも亀井静香の派閥の「志帥会」で話をしたんだよね。終了後、若手議員だけでなく桜井新まで昂奮してた(苦笑)。君を誤解してたよだって。確かに郵政改革も医療改革も、小泉はオリックスの宮内義彦と組んで、亡国の理論だからね。
小泉みたいなやつが暴走すると、ある種、国権派と真の民権派が最低限綱領では一致しちゃうわけだ。たとえば、教育は国家の義務だというのは、森喜朗や石原慎太郎が言うとおりだし、公共事業の無駄をなくしつつ、しかし、地方でも安心して暮らせるインフラをつくるのが国家の義務だというのは、亀井静香の言うとおりであって、その点では一致せざるをえない。
小泉みたいなのは、いわば仮性包茎の保守なんだよ(笑)。真性の保守は教育にせよ災害復旧にせよもっと人を大事にするんだよ。
亀井なんて死刑廃止論者だしね。
そうなんだ。この点でも意見が一致。もう少し大人しくしてりゃ、岡田克也も自民党も賞味期限が過ぎて、棚ぼた式に政権を自分達が担当できると思い込んでる、徳川家康以上に困った存在な枝野幸男に代表される民主党の若手なんぞよりも、よっぽど義侠心がある。
田中さんや僕らがこういうことを言わなきゃいけないこと自体が怖い話なんだけどさ(笑)。とにかく小泉的な新保守派、アメリカで言えばネオコンが異常なんだよ。普通の保守ってのはブッシュ・シニアとかパウエルみたいな連中でしょ。ところが、知らぬ間にブッシュ・ジュニアみたいなのが台頭してきてる。それが世界的に連動してるから恐ろしい。小泉のみならず、オーストラリアのハワードも、イタリアのベルルスコーニもそうだしさ。やっぱりこれはメディアクラシー(メディア支配)のもたらした衆愚政治の一形態なんだろうな。
●民主主義者としての天皇
秋の園遊会で東京都教育委員の米長邦雄が「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させるというのが私の仕事でございます」と言ったら、天皇が「やはり、強制になるということでないことが望ましい」と返した、あれはなかなかのものだよね(笑)。
いやぁ、大変なものだと思うよ。
米長が天皇の言質を取ろうと思ってとつぜん言い出したことだろうから、あの応答はアドリブだろうし。
たぶんね。ただ天皇自身は、招待した人たちが何をやってるのか、事前に随分と勉強してきてるんだよ。その点でも大したもの。
しかし、米長は、主張を全否定されたに等しいにもかかわらず、「ははっ、ありがたいお言葉をいただきまして」とか何とか慌てて迎合してるんだから(笑)。
皇太子も色々と苦労してるけど、天皇ぐらいにならなきゃね。
だけど、一時は皇后の声が出なくなったり、天皇夫妻も大変な苦難を乗り越えてきたわけだからさ。
仰るとおり。その点をもっと、「讀賣」「産経」辺りはクローズアップすべきだよ、たとえ、護憲派の天皇夫妻とは馴染まない社是だとしても。でないと、自分達に都合の良い考えを述べてくれる天皇を望む、美濃部達吉とは別の意味での天皇機関説信奉者かと、社屋が襲撃に遭っちゃうよ。そうそう、長女の紀宮も婚約が決まったねぇ。
彼女がいなくなると皇后も寂しくなるんじゃないかなぁ。ともかく、「天皇家の人々に人権を」っていう年来の主張を繰り返しておきたいね。

●主張してほしくない建築
吹田の万博跡地にあった国立国際美術館が大阪の中之島に移転して新しくオープンしたんだけど、設計をシーザー・ペリに頼んじゃったんで、何やらバブル期のリゾートのようなというか、万博のようなというか、無意味にゴージャスなしろものができちゃった(http://www.nmao.go.jp/)。フランク・ゲーリーを思いっきりダサくしたような鉄のオブジェを除くと、全部地下にあるんだけどね。
へぇ。その点だけで捉えれば、直島で安藤忠雄がつくった地中美術館みたいだね(http://www.chichu.jp/)。
同じ地中でも直島のほうがはるかに上。いろいろ問題はあるにせよ、明確な主張をもった美術館建築だからさ。一方、シーザー・ペリに関して言えば、そもそも美術館の設計を彼に頼むこと自体がおかしいわけ(笑)。ニューヨークのワールド・ファイナンシャル・センターや初台のNTT本社の設計者で、ポストモダン資本主義のキンキラキンな表現は得意だけど、美術館ってのは全然別だからね。
そりゃそうだ。
開館記念展は「マルセル・デュシャンと二〇世紀美術」っていう結構いい企画なの。むろんフィラデルフィア美術館にある遺作なんかは動かせないわけだけど、むしろそれをヴィデオや3D写真でシミュレートするとか、デュシャンの影響を受けた後世の作品も加えるとか、なかなか面白いんだよね。マチスの孫でありデュシャンの義理の娘でもあるジャッキー・マチス・モニエなんかも、けっこう面白がってた。で、彼女に頼まれたから僕もレクチャーをしたんだけど、いかにもシーザー・ペリらしく館長室や会議室はメチャクチャ豪勢なのに、講堂は一二〇席くらいしかなくて、整理券はすぐなくなるし、立ち見は出るし、大変だったよ。
誰かと一緒にしゃべったの?
いや、一人。それがまた笑っちゃうことに「デュシャンに詳しい二〜三人で喋ったほうがいいんじゃない?」って言ったら、「いや予算が二万五〇〇〇円しかありませんので」と。それ、一人分でも安くない? まぁ僕は社会奉仕のつもりだからいいけど(笑)。
すごいね(笑)。
ハコモノにはめちゃくちゃにお金をかけるけど、ソフトにまわすお金はないわけだ。それと、独立法人化したために、集客の期待できる企画しかできなくなってきたわけ。たとえば、国立国際美術館はロバート・ラウシェンバーグの大作をもってるんで、「マルセル・デュシャンと二〇世紀美術」のあと、「ロバート・ラウシェンバーグと戦後アメリカ美術」なんてのをやれば最適なんじゃないかって言ったんだけど、「いや、次は中国国宝展です」って(笑)。それだったら他の博物館でいいじゃない?
そういえば、直島で安藤忠雄がすごくいいことを言ってたでしょ。予算難で建設の目処が立たない大阪市立近代美術館は、中之島にある三井住友銀行の大阪本店を借りちゃえばいい、と。ほんとは国際美術館もそこに一緒に入っちゃえばよかったんだ。
そうそう、西川善文とその話もしたんだよ。ところが大阪市側が、壊れたらどうするとか、危ないとか役人的な事ばっかり言ってるみたい。
とにかく大阪市は金がなくて、すでにコレクションはかなり買っちゃったにもかかわらず、建物を建てられないんでほとんど死蔵してる。それだったら安藤忠雄が言うように銀行でも何でも立派な建物をリノヴェーションして使わせてもらうのがいいよ。
そうだよね。実は僕も軽井沢で安藤忠雄に協力してもらえないかと思っていてさ。新幹線の軽井沢駅の北側って無味乾燥な感じ。歩道は整備されてるんだけど、旧軽まで結構殺風景なんだよね。何かと毀誉褒貶なプリンス側は兎も角、旧軽から駅の手前まで並木にして、カーメルの街並みのようにしていく。それで商店なんかもちゃんと選んでね。
あの北側はたしかに殺風景だけど、変に荒れてないから、便利さえよくして雰囲気を保てればすごくいいと思う。安藤忠雄は表参道の同潤会アパートのところの建て替えもやってるよ。
そういや美術館の話に戻ると、このあいだ谷口吉生とあるパーティで会ったんだ。彼の設計したニューヨーク近代美術館(MoMA)の改築が終わって最近オープンしたでしょ(http://www.moma.org/)。
他ならぬシーザー・ペリが一九八四年にやったMoMAの増築は評判が悪かった。そもそも五二階建てのアパートを併設して増設資金を賄おうっていう発想がポストモダン資本主義そのものなんだけどさ。その後でこんど谷口吉生が大規模な増改築をやったんだけど、ずいぶん評判がいいね。大阪の国際美術館も谷口吉生を選んだってよかったのに、ニューヨークで時代遅れになったシーザー・ペリを今ごろ選んでるんだから(笑)。とにかく、谷口吉生の場合は変に自己主張しないという意味で安心なんだよ。MoMAはオフィス街のど真ん中にあるからどっちみち過激なデザインはできないわけで、安全パイとして谷口吉生を選んだのは賢明だったと思う。しかも、シンプルなデザインのわりに、惜しみなくお金を使ってるからね。完成直後の建築を見たジョン・アップダイクが「ニューヨーカー」に書いてたよ、「チープなものが何ひとつない」建築で、「終業後の銀行の魅力」をもってるって。
彼の作品は、葛西臨海水族園とか悪くないよ。ちなみに妻の谷口久美は、ベルナール・アルノー率いるルイヴィトン・モエ・ヘネシーグループ傘下、フレッドの日本代表を務めてる。
谷口は美術館だって、豊田市美術館(http://www.museum.toyota.aichi.jp/)なんかはかなりいいよ。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(http://web.infoweb.ne.jp/MIMOCA/)だって、猪熊弦一郎の壁画さえなければ結構いい(笑)。先月のWeb版で触れた金沢21世紀美術館(http://www.kanazawa21.jp/)や、さっき言った国際美術館なんかに比べたら、はるかにまし。ほんと、建築家に下手な自己主張をされるくらいなら、職人に徹してくれたほうがずっとありがたいよね。谷口吉生のMoMAの禁欲的なデザインが例によって「禅」とか言われるのはどうかと思うけどさ。
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