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トップ ■ 連載 第二十五回「続・憂国呆談」番外編Webスペシャル
 2004年9・10月号

憂国放談    ............... ■ この国に蔓延する無責任とは? 三位一体改革、オリンピック騒ぎなどを俎上に、田中康夫と浅田彰がその正体に迫る! さらにはUFJ問題、温泉疑惑など今回は内容テンコ盛り!
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日本を取り巻く無責任の体系


●公教育費の負担は誰がする?
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浅田 彰 「三位一体の改革(国と地方の税財政改革)」だけど、首相から具体案を求められていた全国知事会が、自ら補助金の削減案を決めたね。

田中康夫 総額で3.2兆円削ろうって案なんだけど、問題は、そこに公立中学校の教職員給与に対する国庫負担金8500億円を含めてること。当初の案では小学校分も入れた約2.5兆円を削ろうとしてた。これだと、残り7000億円程度なら各省庁で痛み分けできる。始めに枠組みありきの安易な発想の按分論。本質論じゃない。でも、僕や石原慎太郎の反対に遭ったんで、取り敢えず中学校の分だけにしとこう、と(苦笑)。で、何故、中学だけなの、と会長の梶原拓に聞いたら、中高一貫校もあるので税源移譲に馴染みやすいだって。なんじゃ、そりゃ(笑)。

浅田 彰 8月18日・19日に開催された知事会は、かなりモメたみたいだね。

田中康夫 当然だよ。義務教育費を各自治体の負担にすれば、必ず地方ごとに財政状況で格差が出ちゃう。日本は資源国家じゃなくて「人財」国家なんだから、読み書き算盤という基本のところが地域で変わっちゃうのはマズい。そりゃ、自民党員も共産党員も、誰も今の教育の現状に満足はしてないよ。でもだからといって地方に税源を移せば解決するわけじゃない。実際、税源移譲されて以降、学校図書館費は何と8割近い自治体で削られてるんだ。未来の子どもの情操教育よりもハコモノ優先の厳然たる事実が既に存在する。現に長野県は起債制限比率ワースト2でも公共事業等を削減して、小学4年生まで30人規模学級を実現している。要はやる気の問題。なのに、税源移譲しないと教育は充実しない、なあんてホザいた知事が大半だったのには驚いた。アホな案に最後まで反対したのは群馬、山梨、三重、広島、愛媛、大分、長野の7人の知事だけだよ。

浅田 彰 東京都の石原慎太郎も反対だったはずなのに最後に賛成に回った。日和ったのかな(笑)?

田中康夫 いやぁ、石原は間違えたと言ってる(笑)。つまり、知事会全体での賛否はもう大勢が決まって変えられそうにないから、少数意見も明記した上で小泉に出すべきだという議論になってて、それに関する賛成の決だと思ったんだ、と。まぁ実際のところはよくわからないけど(笑)。
 でも石原は、義務教育や生活保護は、実施主体がだれであれ国家が財源保障すべきだと以前から明言してて、その点ではおよそ憲法観や国家観の異なる僕と意見が一致してる。


浅田 彰 すべての国民に健康で文化的な生活を保障することは憲法で規定された国家の義務なんで、その原則を守るっていう最低線では一致せざるをえないってことかな。だいたい公教育ってのはフランス革命のときに打ち出されるわけ。公教育と国民皆兵で均質な国民を形成しよう、と。だから石原みたいな国家主義者がそれにこだわるのは当然なんだよね。ところが小泉改革はそれさえ不要というラディカルな立場なんだから(笑)。新自由主義で極限まで行っちゃえば、教育も防衛も民営化しろってことになるんだけどね。

田中康夫 全国知事会議の前日に、強いて言えば保守派に属するジャーナリストの櫻井よしこや丸紅元会長で東京都教育委員の鳥海巌、他方、リベラル派に属すると思しきエコノミストの森永卓郎、京都大学教授の佐和隆光、国際基督教大学教授の藤田英典の5人が「日本の義務教育を守る緊急共同提言」を出して、僕も賛同立会人として参加した。ホントにこの問題については右も左もなく、真っ当な人間は危機感を抱いてるんだ。

浅田 彰 国家は費用を出さない、その代わり地方の都合で六・三制さえ五・四制に変えていいなんて、事実上、国家が公教育を放棄したに等しい。教育の自由化・地方分権化を進めるっていうと聞こえはいいけど、実際には、子どもを塾にやる余裕のある人とない人、都市と地方の格差が開く一方だよ。
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田中康夫 ホントだよ。だから、イギリスのトニー・ブレアは就任時、1にも2にも3にも教育だ、と宣言して、国家が全額保証する形にした。アメリカもビル・クリントンが一般教書で、明日のアメリカをつくるために公立小学校低学年は18人学級に、と宣言した。なのに日本は、周回遅れの悲劇を歩もうとしている。優秀なトスカーナの農村の青年が刻苦勉励して官僚になれたフィレンツェの興亡も、その次の代は世襲的になってしまったから淀んでしまった。東大がナンボのものかは知らないけど、卒業生の子弟が中高一貫校から大挙して入学する今の現状は、社会の固定化に繋がって宜しくないよ。
それと、三位一体改革ってのは、時代的に役目を終えた補助金をやめて地方に税源移譲し、そのうえで地方交付税を見直すというものだった。ところが、地方交付税の見直しだけが前年度比マイナス12%という形で先行された。で、税源移譲をどうするんだって時に、小泉は、そんなに税源がほしけりゃ代わりに補助金削減案を地方が作ってこいって丸投げしたわけ。すると、宮城の浅野史郎や神奈川の松沢成文は、投げられたボールは投げ返さなきゃ、と真顔になる。でも、それがトンデモなフォークボールならあっかんべぇする手だってある。僕は、国も同時に叩き台を作ってこいと知事会は言うべきだと思う。ところが、国の下部機関になっちゃってるんだな。歴代の総務事務次官か消防庁長官の経験者が事務総長だし、早い話が総務省の外郭団体と化している。だいたい、補助金を3.2兆円削減すりゃ税源移譲3兆円の見返りがあると連中は思ってるけど、早くも財務省は移譲できるのは最大でも1.9兆円だと言ってる。公共事業は建設国債で先に半分は負担しているんだから、という論法。とまれ、国は人員削減も含めて何ら努力するつもりもなく、交付税借り換え特会と称して負担し切れなくなった赤字国債の負担を地方に押し付けているのに、知事たちはこれが千載一遇のチャンス、乾坤一擲だなんて幻想を抱いてるわけ(苦笑)。


浅田 彰 でもまぁ、知事ってのはさすがにそれぞれ一家言もってるし、そうやってとことん意見をぶつけ合い、最後には個々人が挙手して多数決で決めるってだけでも、国会よりずっとマシなんじゃない(笑)。たしかに、ここ数年でずいぶん民主化したことは認めるよ。

田中康夫 そうかなぁ。今や全国の知事は、自治省・総務省出身者が全体の4割近い。で、一番発言力が弱くて、集票能力にも結び付かない文部科学省の予算枠を、税源移譲と共に全国の自治体を牛耳る総務省の管轄下に移せると踏んだんだね。でも、一枚上手は財務省だった。というのも今回、公共事業も税源移譲の中に加えた。これは大変なパンドラの箱を、本来は公共事業派が大半を占める筈の集団が、自ら開けてしまったんだ。詰まり、公共事業費を縮減しても結構です、と地方6団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)は宣言したようなものなんだ。どうやら、そのことに遅まきながら気付いたらしく、このままでは災害復旧の予算も全廃に近い状態になっちゃう、と署名を始めている。国土交通省が書いたと思われる文面でね。不思議なものだ、と密かに僕と意見交換した財務省の高官が言ってたよ。8月19日の全国知事会で、一体、何人の知事が、税源移譲には馴染まない建設国債を財源として賄われている公共事業が、河川関係の補助金を始めとして9割近く削減される流れを自ら作り出した、と自覚して挙手したんだろうか、と。彼が言うには、理解していたのは1人か2人。まっ、その中の1人が僕らしいんだけどね(笑)。凄いでしょ、「『脱ダム』宣言」の田中康夫が公共事業の急激な削減を齎すエセ三位一体に反対し、他の皆々様が大賛成して、後から青くなってるなんて。何れにせよ、本来は徹底した規制緩和──それは宮内義彦が画策しているような医療の株式会社化に伴う保険会社の繁栄ではなくてね──を行い、それに伴って無意味な補助金のリストを具体的に作成し、その分の税源移譲を行う形にしないと。

浅田 彰 いや、民主化したってのは知事会の議論の進め方のことなんで、議論の中身は田中さんの言うとおりお寒いものだったと思うよ。「改革」っていう中身のない看板に踊らされて「いまこそ千載一遇のチャンス」なんて言ってた知事連中は、中央政府の財政負担の軽減を狙う財務省の策略にまんまとひっかかっただけ。むしろ、田中さんが慎重な対応を求めてるのは、実に賢明だと思うな。


●UFJをめぐるさや当て

浅田 彰 UFJをめぐる問題も混迷してるね。UFJ信託銀行との経営統合を先に約束してた住友信託銀行が、UFJホールディングスと三菱東京フィナンシャル・グループの統合に反発し、7月半ばに両行の交渉差し止めを求めて仮処分申請を起こした。さらに、7月末には三井住友フィナンシャルグループがUFJに統合を申し入れた。

田中康夫 いやぁ、三井住友の西川善文も、住友信託の高橋温もなかなかの戦略で参戦した。彼らの主張は実に真っ当。だって、住友信託は先に統合を約束して基本合意書も交わしてたんだから。

浅田 彰 ところが、住友信託が求めた仮処分申請に対し、一審の東京地裁は交渉の差し止め命令を出したものの、その後、高裁、最高裁ともに同命令を取り消した。とりあえずUFJと三菱東京の交渉は法的に認められたわけだ。ただ、高裁の裁定はひどかった。UFJ信託と住友信託が交わした基本合意書は仮のものだから法的にさしたる拘束力をもたないっていうんなら仕方ないよ。ところが、基本合意は法的に有効だけど、ことここに至っては実現の可能性がないから反古にしなさい、と(笑)。そんなの法律家が言うべきことじゃないよ。最高裁もそれを追認したわけだ。

田中康夫 まったくだ。住友信託は、次は損害賠償請求を起こす可能性もあるみたい。一方、三井住友は、統合比率を一対一にする「対等統合」をUFJに提案したり、株式公開買い付け(TOB)を仕掛けることを匂わせたり、しぶとかった。

浅田 彰 UFJホールディングスは、三井住友による敵対的買収への対抗策として三菱東京FGを引受先とするUFJ銀行の7000億円の増資を実施した。なかなかすごいことになってきたよね。日本も竹中平蔵チェンチェイが言うようにアメリカ式の競争社会でいこうっていうなら、当然こういう話になってくる。三井住友側もここで座視してたら永遠に二番手に甘んじることになるから、徹底的にやろうって腹でしょ。

田中康夫 どっちにしたってUFJは敗戦国なんだから、そこがいかに自分を高く売るかってことだね。まぁUFJの株主としては、今の条件なら三井住友を選んでほしいだろうな。そうしなきゃ株主代表訴訟になるんじゃない? 形勢不利な三井住友としても、UFJの株主を味方にできるかどうかがカギでしょ。現在は、UFJホールディングスの株主総会で東京三菱との統合が否決される可能性に賭ける程度しかない、と「日経ビジネス」は絵解きしてる(苦笑)。西川と高橋がタッグを組んだら、まだまだ先は判らない気もするね。
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浅田 彰 UFJはその一方で、ダイエー再建問題を三井住友やみずほとともに抱えてもいるわけで、ホント大変だね。銀行団や産業再生機構も交えた三つ巴の争いから、まだまだ目が離せない。


●スポーツに見る無責任

浅田 彰 8月に中国で開かれたサッカー・アジアカップで、日本に対するむちゃくちゃなブーイングがあった。日本大使館の車両の窓ガラスが割られたり、日の丸が焼かれたりもした。重慶での順々決勝から北京での決勝まで、だんだん反日行動がひどくなったわけだけど、重慶といえば日中戦争のときに日本が空爆しまくったところで、そりゃあ多少ブーイングされても仕方ない。戦争なんかすりゃ当然そうなるんだよ。その上で言えば、激しい貧富の差や、経済的な自由と政治的な一党独裁の矛盾を、反日イデオロギーでガス抜きしようとする中国のやりかたはよくない。まあ、こんど党の中央軍事委員会主席もやめて完全に引退した江沢民は、経済の自由化をどんどん進める一方、反日教育なんかでガス抜きをしてたのに対し、後継者の胡錦涛は、経済をやや引き締める一方、反日教育みたいなことは控える方向でいくみたいだから、少しずつ変わっていく可能性はあるけどね。とにかく、そうやって火をつけられるような国民感情が中国にあることは事実だし、歴史的経緯を考えれば日本がそれにまったく責任がないとはとても言えない。ところが、これ見よがしに靖国参拝を続けてる小泉は、来年も行くって明言しちゃったし、まさしく火に油を注ぐようなもの。こんども温家宝首相との会談を申し入れて断られてるんだから、ほんとは外交上の大失態なんだよ。

田中康夫 だいたい、スポーツくらいネーション・ステートの概念で戦ってるものはないわけでしょ。となればアジアカップ騒ぎのような事態を招く可能性は常にあるんだよ。それがイヤなら国旗掲揚をやめなさいって話でさ。ただし、今回の騒動の背景には、沿岸州だけが繁栄し、内陸部は貧しい中国で、腐敗した一部の官僚や経営者が暴利を貪っている現状に対する反発がある。その背後にいる日本資本や欧米資本への反発でもある。その点を踏まえた上で、富士ゼロックスの小林陽太郎は首相の靖国参拝の自粛を求めているのに、日本経団連でも大半の面々は、そこまで考えが及んでない。温家宝(ウェン・チア・パオ)首相も胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席も、その辺りを考えて、軌道修正しているんだから、もっと勘性を磨いて欲しいよ、日本の経済界も。

浅田 彰 逆に言えば、ヨーロッパなんかではフーリガンが暴れてああいう殺伐とした雰囲気になることは珍しくないんで、あの雰囲気のなかで日本代表の選手は成長したし、よく頑張って優勝したと思うよ。アテネ・オリンピックに出た日本のU22のサッカー・チームなんかは、その辺がまるでひ弱。

田中康夫 アテネ・オリンピックと言えば、新聞なんて一般紙までがスポーツ紙みたいに一面トップ扱いだった。何なのあの異常な盛り上がりは? 考えられないよ。

浅田 彰 TVも真夜中に20%近い視聴率だったっていうんだからすごい話。放映権料がむちゃくちゃに高くなって、これだけ払ったんだからガンガン放映しなきゃってことになって、それにつられて見ちゃう人がいる、と。もちろん日本選手の成績が良かったこともあるにせよ、完全にマス・メディアによるフレーム・アップだと思う。潜在的な需要がそこそこあるのは事実だけど、むしろ供給が需要を生み出してるって感じ。結局、オリンピックって何に役立ったかといえば、大型テレビとDVDレコーダーの販促イベントだから(笑)。
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田中康夫 あと、オイオイと思ったのが「長嶋JAPAN」って存在。なんなのアレ。病気で倒れてる長嶋に対しても、中畑に対しても失礼だろうよって。

浅田 彰 ベンチに飾る日章旗にまで「長嶋JAPAN」とプリントされてて、麻痺の残る手で「3」って書かれてた。それで3位に終わったって説も(笑)。

田中康夫 神聖な日の丸に対して何をする、と右翼は怒らなきゃ(笑)。

浅田 彰 そりゃサッカーでも「ジーコ・ジャパン」と呼んだりはするけど、旗にまでプリントはしないでしょ。

田中康夫 現地には行けないけどあくまでも監督は長嶋だなんて、責任の所在が曖昧になるだけ。じゃあ銅メダルに終わった責任はだれにあるの? 長嶋にあるのかよ。それとも中畑? でも、中畑は監督代理っていう肩書すらついてなかったんでしょ。

浅田 彰 いや、ヘッド・コーチだと試合中に抗議権がないんで、形だけは監督に登録したみたい。でも日本代表の広報は「チーム内ではあくまでも監督は長嶋さん」だと言ってた。

田中康夫 ますますわけがわからん(笑)。

浅田 彰 だから、「長嶋天皇制」とはよく言ったもので、これこそまさに「無責任の体系」(丸山真男)としての天皇制なんだよ。

田中康夫 ほんとだよね。中心がないんだ。

浅田 彰 もちろん、彼が病気になったことは気の毒だし、早く回復してほしいけど、普通はそれだったら監督を交代すりゃ済むだけのことじゃない?

田中康夫 まったくそのとおり。

浅田 彰 とにかく、オリンピックに大して興味のないわれわれからすると、マス・メディアの報道がほとんどオリンピック一色になって、重要なトピックスがぜんぜん話題にならなかったのは、大問題だと思うね。前から言うように、せっかくアテネに戻ったんだから、今後は原点に戻って、毎回アテネで地味にやり続けるのが、スポーツ界にとってもいちばんいいんだと思う。しかし、次回は北京だから、ナショナリズムの高揚もあって、ものすごい騒ぎになると思うな。今から思いやられるよ。
 あと、ドーピング問題も難しいところだね。今回はかなりテストが厳しくなったんでドーピングが下火になったようだけど、その分、記録が伸びなくなった。ベン・ジョンソンやフローレンス・ジョイナーみたいなのは当分出てこないでしょう。とすると、スポーツも、パワーより技術の勝負ってことになるのかもしれない。
 それは野球でも同じで、大リーグでも、筋肉増強剤でものすごい体をつくってホームランを量産するマーク・マグワイアみたいなパワー・ヒッターの時代が終わるのかもしれない。バリー・ボンズも今年はなんとなく縮んだような感じだし(笑)。その意味で、84年ぶりにシーズン安打数の記録を塗り替えたイチローは、アメリカの野球に歴史的なパラダイム変換をもたらしつつあるとさえ言えるかもしれないね。実際、イチローのおかげで、ホームランだけの野球なんて大味でつまらないってことをアメリカ人が思い出したわけだ。イチローは前に小泉が国民栄誉賞を贈るっていうのを断ってるんだけど、当然だよ、日本の枠なんかはるかに超えたところでやってるんだもん。
 ただ、ドーピングに関して言うと、いままでのような薬は使いにくくなったけど、遺伝子操作でものすごい筋肉のアスリートをつくるなんてことも可能になってきたし、これはいまの検査にひっかからないから、長期的にはまだまだ問題だね。むしろ、前から言うとおり、ドーピングでも何でもありのオリンピックを別にやったらいいような気がする。国単位じゃなく製薬会社単位で競うとか(笑)。見世物としては絶対面白いと思うよ。
 というか、これも前から言うとおり、オリンピックよりパラリンピックのほうが面白くなってきた。そこでも普通のドーピング検査は厳しくなってるけど、そもそもものすごい義足なんかを使うわけで、もはやサイボーグに近い。ハンディキャップを負った人こそが超人になるって感じかな。普通のオリンピックが壁に突き当たるとして、パラリンピックなんかのほうがこれからは可能性があるかもしれないね。


田中康夫 かと思うと、韓国では芸能人やスポーツ選手が兵役を逃れる為に逆ドーピング。世が世なら日本でも、小泉孝太郎が該当したかも知れん(笑)。

浅田 彰 ヴェトナム戦争時代のブッシュもね。


●広がる入浴剤疑惑

浅田 彰 長野県の白骨温泉から火がついた「入浴剤」問題だけど、今や全国に飛び火した感があるね。田中さんの白骨突撃もTVで放映されたし(笑)。

田中康夫 最初に入浴剤の使用が発覚したあと、まだ他にもあるって密告が殺到してね。メディアにも届いていたのに、連中は風評被害を恐れて、様子見していた(苦笑)。恐らく何処かが抜いたら、県は何をやっている、と非難する心算だったんだと思うよ。ともかく、極めて具体的な情報が寄せられた一番大きな旅館に調査に行った。すると若女将が「どうぞ見て下さい。ヴィデオも撮って構いませんよ」って言うわけよ。で、ボイラー室に行ったら、源泉からの湯をそのまま流す「かけ流し式」のはずなのに「除毛器」なぁんて装置が三つもある。これ何って訊くと「源泉から流れてきた葉っぱとか動物の毛を除くんです」と。で、中を見たら人の毛がいっぱいある(笑)。
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浅田 彰 どう考えても、かけ流しじゃなくて、お湯を使い回す循環式なわけだ。

田中康夫 さらに、密告にあったカラオケ室の横のドアを開けてほしいと頼んだら、「いや、ここは古い道具しか入ってない」とか「カギがない」とか言い出してね。

浅田 彰 怪しい(笑)。

田中康夫 夜8時になれば守衛がカギを持ってくるって言うから、じゃあ職員が待ちましょう、と。ここからは職員の証言なんだけど、若女将に誘われてカラオケ室で話をしてたら、ドアのほうでコソコソしてるスタッフがいて、物を取り出してる。「何ですか」と確認したらやっぱりそれが入浴剤だったわけ。ところがホテル側は、外にいたマスコミには「自主的に提出しました」「使ったのは去年11月のTV撮影のとき、どうしてもと言われて入れた一回きりです」と。ところが、入浴剤の製造番号を調べたら、今年4月の製造日になってる。こちらとしては、要請のあったTBSに、その部分だけヴィデオを渡したわけ。すると他のマスコミは「そこまでやっていいのか!」と言い出す。ところが、新聞もテレビも、全社がヴィデオを持ち帰ったんだよね(苦笑)。

浅田 彰 情けない話だけど、他のところじゃ水道水を沸かして温泉と偽称してたりもする始末だから、草津温泉の入浴剤を使ってた白骨はまだマシかも(笑)。

田中康夫 なんだかねぇ。ただ、この件は温泉法がいかにデタラメかということでもあるんだ。たとえば昔は冷泉とか鉱泉と言ってたものも、今はすべて「温泉」なの。沸かしてたっていいし、さらに言えば温泉の源泉がスポイトで一滴入ってれば、残り99%が井戸水であっても温泉と名乗れる。そして、一度でも温泉として登録されりゃ10年間は行政は検査しなくてもいい。廃業するときも廃業届けを出さなくてもいい。もう、大変なザル法なんだよ。
 だから長野県では今度、14項目からなる表示基準をつくろう、と。これは全国でも最初。


浅田 彰 ここで迅速かつ適切な対応ができれば、逆にブランド・イメージを上げるチャンスでしょ。

田中康夫 そのとおり。ピンチはチャンスなんだよ。災い転じて福と成すって感じにしたいよね。名実共に観光県として復活しないとね。

浅田 彰 ちなみに、前も言ったけど、熊野にある那智の瀧って、もともと三筋流れ落ちてなきゃいけない、ところが杉ばっかり植林したせいで上流の保水力が落ちて水量が足りなくなったんで、向かって右の一筋はホースで水を足してることが多いの(笑)。あれは滝が御神体ってことになってるんだよ。「世界遺産」に登録されたってのに、そんないい加減なことでいいのか。幸か不幸か、この夏は台風ラッシュでものすごい水量だったから、おそろしいほどの勢いで流れ落ちる滝の姿を見ることができたけど、あれは本ものだったんだろうな。そういえば、その近くの雲取温泉の露天風呂も、近年お湯が白濁しなくなってたのに、紀伊半島で地震が起きてからまた白濁したって言ってた。そもそも温泉の恵みってのは噴火や地震の災害と背中合わせなんだね。それはともかく、今年は日本周辺でもカリブ海でも強力な台風が次々に発生して猛威を振るった。温暖化で台風が増え、風や雨も強まるっていうから、この傾向が続いたらたいへんだねえ。


●生きにくい国

田中康夫 去年1年間の自殺者が過去最高の3万4427人だって。人口10万人当たりの自殺率は約27人で、欧米先進各国と比べると2倍近いらしい。ほんとにこの国はとんでもないことになってきてる。

浅田 彰 阪神淡路大震災でさえ死者は約6500人だし、年間の交通事故の死者も1万人を切るくらいでしょ。信じられない数だね。

田中康夫 しかも、経済的な理由で命を絶つ働き盛りの中高年男性が目立って増えてるんだ。そういや今夏の休暇で訪れたイタリアのリゾート地ポジターノでさえ、女性はヴァカンスを満喫してるのに、男性はプールサイドとかでもパソコン叩いてる連中が多いんだよ(笑)。男って悲しいよなぁ。

浅田 彰 モバイル・コンピュータが発達してヴァカンスという概念がなくなってきちゃったんだね。

田中康夫 そういう僕自身も向こうで原稿を書き、携帯電話に接続して職員からの1日100通以上のメールを読んで、返信するのに毎日2時間近く掛けていたわけだけどさ(笑)。

浅田 彰 しかし、自殺といえば、自宅マンションの9階から転落して飛び降り自殺じゃないかと一部で報じられた窪塚洋介が復活したじゃない?

田中康夫 そうそう、いやぁよく生きてたね、窪塚。

浅田 彰 TVのインタヴューに車椅子で登場して、結構ちゃんとしゃべってたよ。

田中康夫 だって事故の直後は、脳ミソが出ちゃったとか、骨盤がぐしゃぐしゃとか、トンデモな噂が飛び交ってたからなぁ。

浅田 彰 それどころか、最近は、退院して、自分で運転したり歩いたりしてる写真まである。

田中康夫 まぁとにかく9階から落ちて生きてた人間は珍しいよ。これを機に一皮むけちゃったりして。

浅田 彰 それはどうかなぁ(笑)。でもまあ、出世作の「池袋ウエストゲートパーク」でも、刺されて重傷を負いながら車椅子で復活する役だったわけで、まさにそれを実生活で実践してみせたって感じ。すごいやつだ。

田中康夫 窪塚は蘇ったけど、その一方で7月の終わりに中島らもが死んじゃったね。

浅田 彰 酔っぱらって階段から落ち、頭を打って死んだ。残念ではあるけど、彼らしい死に方だったと言えるかもしれない。

田中康夫 しかも、ちゃんと死の3日前に最後の「DECO-CHIN」って短編を書き終えてたんでしょ。

浅田 彰 なかなか過激な遺作ではあるんだけど、村上龍の「イビサ」なんかと比べると、かつての村上龍がいかにブリリアントだったか再認識させられるって感じは否めないな。
 僕は「ニューアカ」ブームの頃に一度だけらもと対談したことがあってさ。らもの連れてた男が本当に精神科に出入りしてるようなやつだったんで、「スキゾ」とかいう話に興奮して叫びだして、僕が慌てて調子を合わせたってなことが、らものエッセイに書いてあるんだけど、僕は対談の中身もそういう事件も全然覚えてない。ただ、こっちはいつもどおり単身だったのに、らもは広告業界や演劇業界によくあるように仲間をぞろぞろ連れてきてた、それであんまり印象がよくなかった記憶はあるな。でも、それ以後、あいつの書くものは面白く読んでたし、関西ローカルであいつのろれつのまわらない語りが放送されたりするとつい引き込まれちゃうんだよね。あの語りをもう聞けないと思うと寂しいな。無頼派を演じながら実は真っ当なモラルを語るっていう芸風は、今度『介護入門』で芥川賞をとったモブ・ノリオなんかも引き継ごうとしてるみたいだけど、まだまだ修行が足らないのでは?



●磯崎新と語る

浅田 彰 ところで、こないだは直島に安藤忠雄の建築を見に行ったから(http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/200408/index.html)、こんどは対談後、軽井沢の磯崎新の別荘に行っていろいろ話したわけだ。あそこは広い斜面にいくつかの建物が散在しててなかなか面白い。

田中康夫 三笠の一廓にあって、趣がある。

浅田 彰 それに、いちばん上のほうの土地を故・辻邦生に譲った、その代金を全部ワイン購入に充てたっていうくらいだから、ワイン・セラーがなかなかのもの。彼はリオハに凝ってるから、最初はスペインの Opus 1 を目指す Roda 氈iCirsionの場合もある)で、これも悪くなかったけど、次に出てきた磯崎新用の特製ボックスに入ったベガ・シシリアはさすが。田中さんのおみやげの小布施ワイナリーが醸造してるカルヴァドスも予想以上によかったよ。
 それにしても、磯崎新は政治的勘も鋭くて面白いね。サウジアラビアとアメリカの間で綱渡りをしてるカタールでいろいろ仕事をしてることは以前この対談でも触れたけど(http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/200404/index.html)、こんどはアガ・カーンがカザフスタン・キルギスタン・タジキスタンをネットしてつくる大学のマスター・プランを引き受けた、と。アガ・カーンといえば、ものすごい馬をそろえてロンシャンの競馬を支配してるような、ヨーロッパ社交界のスターでしょ。でも、もともとはイスマイリ派の族長なんだよね。昔、ハシッシュを使って暗殺者を養成したといわれるアサシン教団もそこに入ってるわけだから、けっこうすごい連中なんだ。それが中央アジア各国に大学ネットワークをつくって、若者がイスラム原理主義に流れるのを防ごう、と。でも、アメリカから見れば、それ自体がイスラム原理主義の温床にならない保証はないわけで、けっこう神経をとがらせてるんじゃないかな。ともかく、磯崎新がカタールや中央アジアに連れて行った若手の建築家がアメリカに入国しようとしたら、パスポートに変なスタンプがいっぱいあるせいか、怪しまれて別室に連れ込まれ丸裸にされて尋問されたらしい。そういうこともあって、磯崎新自身は当分アメリカに行くつもりがないみたいだね。いまのアメリカじゃ、大手設計事務所に看板としてかつがれる程度の仕事しかできない(ワールド・トレード・センター跡地のマスタープランのコンペに勝利したダニエル・リベスキンドが、個々の建築については大手設計事務所に実務を牛耳られてほとんど何もできないでいるように)。それなら無理にアメリカまで行くこともない、と。むろん彼は、中国やイスラム諸国だけじゃなく、たとえばミラノでリベスキンドやザハ・ハディドとのコラボレーションをやってたりはする(ここでもユダヤ人とイラク人の間を取り持つことができるのは磯崎新くらいじゃないか)けれど、それも含め、長期的に見ればすごくおもしろい選択だったってことになるかもしれないよ。

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(了)
次回更新は11月中旬の予定です!



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