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トップ ■ 連載 第二十回「続・憂国呆談」番外編Webスペシャル
 2004年4月号

憂国放談    ............... ■ 9・11とスペインのテロ事件を結ぶオカルト話、そして長嶋茂雄、磯崎新、中東の大富豪、果ては田中康夫の遠距離通勤問題まで、今回もジャンルを超えて語り呆ける!
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真っ当な国や文化を導けるリーダーとは?


●9・11をめぐるオカルト話
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田中康夫 本誌でも触れた米大統領選は、いまのところブッシュvsケリーでいい勝負してるみたいだけど、米国では投票するためには選挙人登録をしないといけないでしょ。それを考えると、ケリーや民主党の支持層には無党派や他国からの新参者が多くて、実際に登録するかどうかわからない。だから、現段階で二歩くらいリードしてないと苦しいんだよね。

浅田 彰 スペインの選挙で、なぜ野党が勝ったかというと、何よりみんなが投票に行ったからなの。直前の犠牲者追悼とテロ反対のデモには全国で1000万人以上が参加したっていうし、選挙の投票率は前回より8%も上がって77%を超えた。若い無党派層が普通に戦争反対の陣営に入れたら、それがたまたま社会労働党だっただけともいえる。だから、アメリカでも状況が緊迫して登録率・投票率が上がればケリーにいく可能性もあるね。

田中康夫 韓国だって台湾だって、投票率は高い。若者も含めてね。日本と米国だけだぜ、低いのは。で、与えられた憲法だから変えねば、とか言ってる連中に限って、投票率が低い方が都合が良いから、デンマークのように投票を義務付ける具体的手立てを取ろうとしない。
 そういえば浅田さんのビン・ラディン10月拘束説はどう(笑)? アルカイダのナンバー2であるアイマン・ザワヒリが包囲されたという情報も流れてるし、全体的にちょっと早すぎない?


浅田 彰 そうだよ、9月以降じゃないと大統領選までに忘れられちゃうよ(笑)。アルカイダといえばちょっとオカルト系の話があってさ。2年半前の9月11日にテロがあったでしょ。それで、このあいだのスペインのテロが3月11日なんだけど、この間隔がちょうど911日離れてるんだって(笑)。

田中康夫 えーーっ、そうなの。恐ろしい(苦笑)。じゃあ、次の911日後に選挙が近いところとかが危ないんじゃないの。2006年9月頃ってことか。日本は大丈夫かね。今度は311日後、或いは逆にして119日後、113日後とか。それだと丁度、参院選の真っ最中。

浅田 彰 あと、アルカイダ系と称するアブ・ハフス・アル・マスリ旅団ってのが、スペインのテロ後に日本を筆頭にテロの予告をしたでしょ。日本、アメリカ、イタリア、イギリス……っていう順番もすごいけど、あの声明を読んだらおかしくてさ。我々はブッシュの勝利を願っている、なぜなら彼のおかげで抑圧されたイスラムの民が目覚めたからだ、ケリーと民主党が勝ったらもっと巧妙に弾圧してくるだろう、と(笑)。

田中康夫 だから、ケリーたちはいかんと。矛盾しているけれど、真理でもある。判りやすさが大事なんだよ、仮令、矮小化されようとも、多くの人々に愚かさや恐ろしさを把握して貰わなくては始まらない。勘性が鈍ってる人々が多いからね。

浅田 彰 まぁアブ・ハフス・アル・マスリ旅団はアメリカの大停電のときも我々がやったと言ったようなところだから眉唾なんだけど、言ってることはわりとポイントを突いてるかもね。たしかに、ブッシュ政権の迷走ぶりがこのところどんどん暴露されてきてる。テロ対策のトップだったリチャード・クラークの暴露証言はかなり効いたよ。クリントン政権は、アルカイダをやっつけられなかったものの、その脅威を認識していろいろ対策を講じようとはしていた。ブッシュ政権は、クリントン政権を全否定したいこともあって、クラークの度重なる進言にもかかわらず、「9・11」までアルカイダの問題を無視し、「9・11」が起きたとたんテロリストとイラクの関係を立証しろと言い出した、と。議会での証言の冒頭で、クラークが「9・11」の遺族と国民に率直に謝罪したのもよかった。遺族は感動してたよ、初めて政府関係者から謝罪の言葉を聞いたって。実際、ワールド・トレード・センターは前にも爆弾テロにあってるし、その後の一連のテロがアルカイダによるものだってこともわかってたし、その他もろもろのことを考えあわせると、政府が一丸となって対処してれば防ぎ得た事件だった気もする。クラークが言ってるわけ、飛行機が突っ込んだ直後にFBIから電話で乗客名簿にアルカイダのメンバーの名前があると伝えてきたのを聞いて愕然とした、わかってたのにそんなやつが飛行機に乗れたこと自体が大問題じゃないか、と。戦争の口実のためにあえてやらせたっていう陰謀説もあながち否定できないようなお話──むろん僕は安易に陰謀説につくつもりはないけどね。
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田中康夫 我々が言ってる判りやすさとは、そうした内容ではないんだと強調しておきたい。

浅田 彰 そういえば、2002年4月に田中さんに飛び入り参加してもらった東京でのスーザン・ソンタグを囲む共同討議の記録が彼女の他のエッセーと共に一冊にまとまったんだけど(『良心の領界』NTT出版)、読み返してみてますますアクチュアルだと思ったな。彼女は内戦下のサラエヴォにいた人だから、ミロシェヴィッチの「民族浄化」と称するジェノサイドを食い止めるにはNATOの軍事介入も必要だった、ただ、それはあくまで「軍事介入」なんで「人道的介入」なんていう美辞麗句は認めないって立場なんだよね。現場を重んずる文学者らしいリアリズムっていうかな。その彼女がイラクに関しては明確に戦争反対の立場を表明してる。実際、アメリカの知識人にはそういう人が多いんだよ。早い時期にそういうアメリカの知識人と対話するってことでは、意味のあるシンポジウムだったと思う。われわれのほか、磯崎新、姜尚中、それに木幡和枝っていうメンバーもかなり異例だしね。ともあれ、田中康夫のような人物が政治に身を投じたことに日本の可能性を見るってのがソンタグの最後の言葉でしょ。もはや田中康夫への期待は国際的なものなんだ。

田中康夫 ところが、「信毎」改め「新米」や「朝日」改め「浅卑」は県議会と歩調を合わせて、連日の田中批判。「拙速」過ぎる、もっと「手続」を大事に、なあんて拘ってるけど、それって「迅速」な改革が嫌だから。具体的な条例や施策の中味を議論し始めると、「信州の美しく豊かな風景を育成する条例」や「信州ふるさとの森林づくり条例」も、彼らは否定は出来ない。だから、「拙速」だと「手続論」を繰り返して、継続審議という名の実質廃案に持ち込もうとする。で、それを「新米」や「浅卑」が支援する。こうしたマスメディアの姿勢は「『脱ダム』宣言」の時も同じね。「方法論」の議論にすらなっていない。後世の歴史家が見たら、嗤うと思うよ。

浅田 彰 他国と比べてもお粗末な話。ちなみに、去年フランスのドミニク・ド・ヴィルパン外相が大部の詩論を出したのを話題にしたことがあるけど、去る11月にも、外相になってからの国連なんかでの演説をすべてまとめた上に、イラク戦争関連の一連の安保理決議、それに、スーザン・ソンタグ以下、カルロス・フエンテス、ノーマン・メイラー、アントニオ・タブッキ、マリオ・バルガス・リョサといった世界中の文化人たちのエッセーを添えた、これまた650ページを超える本を出してるの。題して『別の世界』(Un autre monde[L'Herne])。むろん常識を超えるものじゃないし、むしろ文化面でフランスのヘゲモニーを強化しようって意図が見え見えとはいえ、わが日本の外相にはとてもマネのできない芸当だね。フランスは、スペインに続き、地方選挙で保守派の与党が大敗したんで、大幅な内閣改造があって、ジャック・シラク大統領の後を狙う野心家のニコラ・サルコジが内相から財務相に横滑りしてジャン=ピエール・ラファラン首相以上に目立つ内閣の看板になり、ド・ヴィルパンは元々狙ってた内相に横滑りしたから、ちょっとドン・キホーテ的でありながらダンディなあの姿が外交の舞台で見られなくなるのは、ちょっと寂しいね。

田中康夫 本職が詩人だからね、ド・ヴィルパンは。今回、国民教育大臣を退いたリュック・フェリーも哲学者。日本では考えられない智性だね。

浅田 彰 ただまあ、フェリーってのは、ルイ・アルチュセールやジャック・デリダなんかのいわゆるポスト構造主義を『68年の思想』(アラン・ルノーとの共著、法政大学出版局)と呼んで批判し、その種の「反人間主義」に対して古き良きヨーロッパの「人間主義」を復活しようっていう、わりに反動的なやつなんだけどね。あえて日本と対応させれば、全共闘世代の竹田青嗣なんかをぐっと優等生的にしたって感じ? で、大臣になって強引に「教育改革」を進めようとしたら、教師や学生の抵抗で問題続出、あえなくクビってことになっちゃった。いや、やっぱりフランスの「市民的不服従」の伝統はバカにできないよ。ストだけじゃなく、バカロレア(大学入学資格試験)の採点で全部満点をつけよう、そうでなくてもやたら甘く採点しよう、なんて運動が広がったりして、実際、去年のバカロレアの平均点はかつてなく高かったわけ(笑)。石原慎太郎の都立大学つぶしを先頭とする「教育改革」が強行されようとしてる日本でも、見習うべきところは見習わなくっちゃ。


●オリンピックで泣いた人々

田中康夫 長嶋茂雄が倒れちゃったけど、やっぱりストレスだろうなぁ。オリンピックの野球で勝たなきゃと、みんながプレッシャーをかけて。マスメディアにも責任があるよ。

浅田 彰 あんな70歳近い人にオリンピックの監督なんて無理だよ。連日、日本中の選手を見て歩かせるなんて。

田中康夫 しかも讀賣もあんなに働かせてさ。人がいいんだね長嶋も。やたらと営業やってあげて。

浅田 彰 どうやら家族は四散してて、倒れたときも発見が遅れたんでしょ。

田中康夫 運転手は朝9時から来てたけど、11時くらいまでずっと外で待ってたんだってね。だから一人で寝てたんだよ。
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浅田 彰 オリンピックでも名誉顧問みたいな形で遇しときゃよかったのに。

田中康夫 まぁ元気に快復してくれる事を願うよ。

浅田 彰 オリンピックといえば、女子マラソンの代表選考も、素人考えでは、やっぱり高橋尚子を入れた方がよかったと思うな。

田中康夫 瀬古利彦が言ってたよ。半年前なんかに走って決まっても、本番への調整はできない、だから最後の名古屋国際を評価に入れること自体がおかしい、と。名古屋を入れてなければ、高橋で問題なかったわけだし。

浅田 彰 これまでの選考が恣意的に過ぎるってんで、代表選考レースをいくつか決めて、そこで選手を選ぶことにした。ところが、その上位入賞者のうち、オリンピックでメダルの取れそうな選手を選ぶっていう文言がまだ入ってて、それで高橋尚子側が油断しちゃったわけよ。
 あとオリンピックではU−23のサッカー代表がようやく予選を通過。それはまぁいいとして、ワールド・カップ日本代表チームのほうは、合宿中に無断外出したとかで8人の選手が代表から外されちゃった(笑)。大久保嘉人なんてオリンピック予選通過の功労者なのに。

田中康夫 焼肉屋からキャバクラに流れたってんでしょ? 別にいいじゃん。

浅田 彰 そうだよ、もう20歳過ぎてるんだからさ。監督のジーコはなに考えてるんだか。

田中康夫 おかしいよね、彼は。偏狭な国粋主義。国の代表なんだからとか言っちゃって。もちろん前日にキャバクラ行ってて成績も悪かったなら、一刀両断に落っことすというのも当然の選択だよ。だけど、成績がよけりゃ何も問題ないよ。

浅田 彰 ジーコは選手としては優秀だったけど、監督としてはダメじゃない? いつも気難しいオバサンみたいに暗い顔して、小言ばっかり言って(笑)。あれじゃチームの雰囲気が暗くなるだけだよ。やっぱり真のラテン系でいかなきゃ。ロナウジーニョのドリブルなんて、運動の歓びそのものじゃない? ああいう歓びこそサッカーの本質だと思う。
 しかし、ギリシアもラテン系なのかどうか、オリンピック施設の工事はどうも間に合いそうにないね。いいじゃない、古代オリンピックの競技場でやれるものだけやったら。ホントにマラトンからアテネまで走るとかさ(笑)。



●実のあるメセナ活動とは?

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浅田 彰 京都の醍醐寺で5月まで「カルティエ宝飾デザイン展(http://www.daigoji.or.jp/info/cartier/index.html)」というのをやってる。デザイナーのエットーレ・ソットサスが展示品を選び、自らディスプレイも手がけた展覧会で、なかなかきれいだよ。黒いケースが並んでて、手前のガラスがほとんど見えないように巧妙に照明してある。お花見がてらに行くといいんじゃない?

田中康夫 明日、足を伸ばそうと思ってるんだ。大赤字の京都市営地下鉄東西線に乗って、自治体に貢献しながら(笑)。日本では醍醐寺でしかやらないんでしょ。おもしろいよね。

浅田 彰 六本木ヒルズとかじゃなく醍醐寺こそプレスティジャスだ、と。一種の見識だよね。カルティエは、「世紀の恋」でウィンザー公と結婚したシンプソン夫人なんかの持ってた宝飾をオークションで買い戻して、自分たちが20世紀につくってきた作品のかなりいい部分をしっかりコレクションしてるわけ。ソットサスがそれを宝石の価値じゃなくデザインの良し悪しで選んで展示する、と。

田中康夫 海外のブランドってのは、そういうあたりけっこう考えてる。

浅田 彰 前向きな方だと、ロレックスがやってるプログラムもなかなかいいんだよ。たとえばバレエだと、有望な若手の振付家を1人選んで、1年間ウィリアム・フォーサイスの下で指導を受けられるようにする、と。それを毎年5つくらいの分野でやる(http://www.rolexmentorprotege.com/)。

田中康夫 マン・ツー・マンでやるわけだ。なかなか贅沢なパトロネージュ。

浅田 彰 ただの新人賞でもなく、フォーサイスみたいな大家にポンとあげるだけの賞でもない。むろん両者に賞金も出るんだろうけど、若手に大家の下での貴重な研修の機会を提供するのが主眼ってのはいいじゃない? ちなみに、フォーサイスのフランクフルト・バレエ団は最近まで存続の危機に立たされてたの。1980年代にはドイツでもアメリカ人を芸術監督に呼んで莫大な予算を自由に使わせることができたし、それでフランクフルト・バレエ団は世界一先端的な試みを展開して世界的な評価を受けるにいたった。でも、1990年代になると、ご多分に漏れず財政緊縮ってことになって、あんな英語を使うわけのわからない前衛バレエにこんなに公費を注ぎ込むとは何ごとか、と。で、フォーサイスもそれだったら今シーズン限りで辞任する、と。それが最近やっと解決に到達した。異例のことだけどフランクフルト&ザクセン州とドレスデン&ヘッセン州が共同でサポートする新しいカンパニー(フランクフルトとドレスデンに本拠を置き、フランクフルト・バレエ団の32人のうち18人は新しいカンパニーにも加わる)が創立され、これまでの年600万ドルよりは落ちるものの5年にわたって年480万ドルの予算が確保される、と。別のところで新しいカンパニーをつくるのに比べれば、ある程度は今のカンパニーの発展的解消による新展開って感じだろうし、とにかく、あの奇蹟のようなチーム・ワークが失われることを思えば、望ましい解決だと思う。ロレックスといい、ドイツの自治体といい、こうやって最先端の実験を支援していこうってのは、いろいろ問題があるとしても、やっぱり大したもんだと思うよ。
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田中康夫 日本企業の場合は、メセナといってもバブルのときだけで、全然続かなかったからね。それとは大違い。

浅田 彰 ただ、日本でも頑張ってるところはあってさ。たとえばエルメスも銀座のメゾンエルメスでいろんな展覧会をやってる。このあいだは杉本博司が自分の写真と骨董コレクションを合わせた展覧会をやってた。自分の写した永遠の海景を、鎌倉時代の多宝塔の中に仕込んだ球形のレンズから覗くとか、ずっと時間をテーマにしてきた写真家らしい展示なの。僕は彼のミニマリスティックな写真は骨董抜きでも十分に作品として自律性をもつんだから無用な遊びをする必要はないって考えなんだけど、一分の隙もなく構成された見事な展覧会だったとは思うよ。今は、一転して軽い学芸会風の展示だけど、ジョン・ケスラーがポール・オースターの『幽霊たち』を基にした展覧会をやってるの。本のページや関連する図像をバーッと床に貼って、その上を動く小さなロボットが撮影したセンテンスなんかがヴィデオに映し出される。他方、ケスラーやオースター自身から型取りされたフィギュアが小説のいくつかのシーンを表現してる。背後に何の謎も隠れてないフラットな世界での(反)探偵小説みたいなものを、文字通り小説のすべてを平面に貼った展示で表現するって感じで、あっけらかんとしたところがかえって面白いよ。僕が1984年頃にブルックリンのケスラーのスタジオを訪ねたとき、彼はブレードランナー風まわり灯篭みたいなオブジェをつくってたんだけど、ちょうどその頃ブルックリンでオースターが『幽霊たち』をはじめとする初期の作品を書いてたんだね。その後、それぞれの妻がたまたま姉妹だったことからケスラーとオースターが出会って、こういう作品が生まれたわけ。

田中康夫 メゾンエルメスって、銀座に建てたガラスのビルの中にあるんだよね。あそこは映画なんかもやってる。

浅田 彰 同じガラスの建築でも、銀座のエルメスはレンゾ・ピアノのデザインで、シンプルかつ小ぎれいにできてるのに対し、表参道のプラダのビルは、ヘルツォーク&ド・ムーロンが変形ガラス・ブロックでむちゃくちゃなデザインをやってて、現時点ではそっちの方が派手で人目を引くんだろうけど、数年もたって飽きられたら目も当てられない結果になると思うよ。

田中康夫 近隣の住人から、ガラスで反射した光に苦情が寄せられて、苦慮しているみたいだ、プラダも。

浅田 彰 建築といえば、磯崎新がカタールで進めているプロジェクトが面白くてさ。シェイク・サウド・アル・サーニの家をつくってるんだけど、それがたまたまカタールの文化関係のボスなんで、1960年代に磯崎新が構想してた「空中都市」を図書館として建てるとか、すごいことになってきてる。1970年万博のお祭り広場を最後にマニエリスムに転回し、ポストモダン建築のパイオニアとも言われた磯崎新が、晩年になっていっそうの老熟と洗練に向かうかと思いきや、カタールや中国で大きな仕事ができるようになったこともあって、ある意味で「爆発」しつつあるわけよ。『GA DOCUMENT 77』の磯崎新特集で近作を見ると、ちょっとびっくりする。それ以外にも、彼がジャン・ヌーヴェルをはじめとする知り合いをどんどん推薦して、カタールの首都ドーハの湾岸にすごい建築が立ち並ぶことになりそうだよ。

田中康夫 モダンなビルの展覧会みたいになるのかな。

浅田 彰 アラブ首長国連邦のドバイがすでにそんな感じだけど、カタールはその前衛デザイン版って感じかな。

田中康夫 面白い国だよね。アメリカ軍の司令部を置かせる一方で、あの衛星放送アル=ジャジーラだからなぁ(笑)。

浅田 彰 池内恵が「アル=ジャジーラとカタールのグローバル戦略」(『アラブ政治の今を読む』中央公論新社)で分析してるように、サウジアラビアとアメリカの間できわどい綱渡りをするためにそういう両面作戦をうまくやってるんだね。だから、アル=ジャジーラはサウジアラビアなんかの民主化の遅れは公然と批判する一方、カタール自体の体制については触れないわけだけど(笑)。ともかく、磯崎新のクライアントも王族で、首長(エミール)のハマド・アル・サーニの親戚なんだね。いろいろ話を聞いてると、群雄割拠の中で生き延びようとする姿がほとんど戦国時代の大名みたい。で、その大名が磯崎新を千利休や小堀遠州みたいなアドヴァイザー役にしてるってわけ。『en-taxi』5号で磯崎新や福田和也と竹生島や安土城址に行ったときもそんな話をしてたんだけどさ。

田中康夫 興味深い見方だね。でもさホントの話、そういうまともな王制のところでしか良い国や文化は実現できないのかも(笑)。

浅田 彰 しかし、そのカタールのプリンスさえ入手できなかったエジプトの銀の神像ってのが信楽のMIHO美術館にあって、来日したプリンスはその像だけじーっと凝視したあげく物も言わずに帰ったらしいよ。世界救世教が熱海にMOA美術館をつくったけど、世界救世教から分立した神慈秀明会は、日本美術ではもうあのレヴェルのものは集められないってんで、エジプトその他、世界の古代美術を集め、ルーヴル美術館のピラミッドで知られるI・M・ペイに美術館を建てさせたの。まあカタールのプリンスに勝つのは日本の新興宗教くらいのものか(笑)。でも、そのプリンスもなかなかの人物でさ。やっぱりI・M・ペイの設計でイスラム美術館を建設する(2006年開館予定)一方、個人的には、20世紀の最高の家具を収集するとか、ゴクラクチョウみたいな絶滅危惧種を収集するとか、確かにいまさら二流の絵なんか集めるよりそのほうがずっと面白い。現代のデザイナーやアーティストのインテリア・デザインによる一連の部屋も磯崎新のコーディネーションの下に計画されてて、それこそソットサスのデザインする部屋なんてのもあるわけ。バブル時代にバカ高い値段で二流三流の絵ばっかりつかまされた日本の企業人とは頭もセンスも全然違うよ。

田中康夫 そう考えると日本でも愚かな政治家に任せるより、今の天皇や美智子皇后みたいな方に権限を持たせたほうがマシじゃないかとさえ思えてくるよ。


●遠距離通勤者としての田中康夫

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浅田 彰 先月のWeb版でも触れた田中さんの住民票二重登録問題だけど、また動きがあったね。県内の住民グループ5人が、泰阜村の選挙管理委員会を相手取って、登録取り消しを求める行政訴訟を起こした。

田中康夫 うん。あのグループには自民党県連の青年部長も加わっていて、長野市長の鷲沢正一とも知己なんだと思うよ。コンペをした訳でもないんだろうに、何故か伊東豊男に豪壮なオペラハウスを建築させた松本市の有賀正は、余りにハコモノ至上主義だと市民から愛想を尽かされて、チェルノブイリでの5年半に亘る甲状腺癌の人々への治療や手術の活動が「プロジェクトX」でも特集された、僕が衛生部長にスカウトして2年間務めて貰った菅谷昭に大敗しちゃった。反田中の市長コンビだった有賀が落選して、今や田中に物申せるのは鷲沢だけだと「新米」や「浅卑」は持ち上げてる(苦笑)。で、保守派が支持母体の鷲沢自身も、田中を追い落とさねば、と重要課題に掲げてるのかな(笑)。そんなわけで長野市は、泰阜村との協議が不調に終わったとして、県の市町村課に住所決定の判断をしてくれという文書を提出した。ところが、その決定を下すのは知事なんだ(笑)。つまり田中康夫の住所を知事・田中康夫が決定する、と(笑)。長野市は、仮に僕が泰阜村だと判断した場合、地裁に提訴すると言われてる。

浅田 彰 でも、最近は泰阜村から県庁に通ってるそうじゃない(笑)。

田中康夫 そうなんだ。片道2時間半、高速バスに乗ってね(笑)。僕を含めて9世帯の泰阜村の唐笠からタクシーで飯田に出て、朝5時25分発のバスに乗ると長野には8時に着く。夕方は17時40分発と18時40分の長野発があるから20時〜21時には飯田に戻れる。そのうち50ccバイクを買って飯田のバスターミナルまで走ろうかと(笑)。

浅田 彰 いやぁすごいね(笑)。

田中康夫 バスの中で「南信州」や「信州日報」という飯田・下伊那地区の新聞や、その飯伊地区では「新米」より部数が多い「中日新聞」も含めて全紙を読んで、メールを送受信して、原稿書いて、その日の指示事項をメモとして打って、更に睡眠も取れる。リクライニングだし、快適だよ。そもそも、両親は軽井沢に住んでいて、そこから新幹線で登庁することもあったし、今までだって東京での打ち合わせや審議会、「陳情」なんぞで週に2〜3日は東京泊まり。去年5月に塩尻に設けた林業総合センター内の知事分室での勤務もあるしね。泰阜村に週3日、東京に2日、軽井沢か松本で1日。長野に自費で借りてるマンションは、荷物置き場兼、精々が週に1度あるかないかの素泊まり場所になってるよ。

浅田 彰 まるでこの事態を想定してリスク・ヘッジしてたみたいだね(笑)。でも、たしかにネットワーク時代なんだから、県庁自体が分散したっていい。もっと泰阜村に近いところに県の施設があったっていいわけだ。

田中康夫 そうなんだ。信州・長野県は南北に長いのに北に偏ってるからね。だから県南と東にも知事室分々室をつくろうと思ってる。何れにせよ、これだけ人が移動する時代に、旧来型の住民基本台帳法で市民の行動を補足しきれるのか、という大命題が存在して居るんだよ。単身赴任者や学生、国会議員と、大きな問題提起でしょ。この問題は、次回、更に詳しく述べよう。

浅田 彰 前から言うように、首都移転とか言うけど、むしろ首都分散っていうか、これだけITネットワーク化も進んだんだから、それこそ国会が全国を巡回したっていいわけだ。県だって同じこと。情報ネットワークさえちゃんとあれば、知事がどこで仕事をしてたっていい。それこそ「どこでも知事室」でさ(笑)。

田中康夫 それをやろうと思ってる。経済効果だってあるだろうし。

浅田 彰 往復で5時間バスに乗ったら、相当本も読めるね。原稿も書けるし、東京都知事に対抗して作家復帰ってのはどう(笑)?

田中康夫 アハハ、最高だよね。それに夜遅くまで不毛な会議をしなくなる。「ちょっと家が遠いんで」と(笑)、長野市での夜の宴席も極力出ない。

浅田 彰 夜の宴席に出ないってとこだけは、小泉首相と共通だね。彼は依然として赤坂プリンスホテルの「ポトマック」で秘書官と夕食だよ。

田中康夫 好きだよね。あの店ほとんどファミレスだってのに(笑)。この間は赤坂の「じゃんがらラーメン」にも行ってたし。

浅田 彰 料亭での腹の探り合い政治をやめたわけだから、そこだけはエライとも言える。ただ、そういう汚れ仕事はすべて飯島勲秘書官なんかが引き受けてるわけで、結局は同じことだけど。

田中康夫 あと、絶対プレゼントもらわないというから、あれは驚くね。

浅田 彰 前衆院議員の高市早苗なんかがヴァレンタイン・チョコを持っていったら突っ返したらしい。エライよ(笑)。

田中康夫 たしかにね。まぁ先月のWeb版で言ったように公明党のチョコはもらってるわけだけど(笑)。

(了)
次回更新は5月中旬の予定です!



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