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トップ ■ 連載 第十回「続・憂国呆談」番外編Webスペシャル
 2003年4月号

憂国放談    ............... ■ まったく盛り上がらなかった今回の統一地方選挙。改革のカギを握るウルトラ無党派層の抱えるジレンマとは何か? “理念”が“利権”との戦いに勝つにはどうすればよいのか? 田中康夫と浅田彰が問題の本質を衝く!
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ウルトラ無党派層の深き悩み


●統一地方選のジレンマ

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浅田 彰 4月13日と27日にあった統一地方選は、全体に盛り上がらなかったね。長野でも田中さん個人への圧倒的な支持が、必ずしも県議選にはつながらなかった。

田中康夫 僕が応援した候補者は定数58人中の11人だったんだけど、当選したのは3人。

浅田 彰 ただ田中さんの場合、議会の反対勢力をエネルギー源にしてるところもあるから(笑)。

田中康夫 うん。何せ、このあいだの選挙も、政党、組合、団体、何れからも推薦を受けていない。連中は、僕を殺したくてムズムズしてた(笑)。
 改革派と呼ばれる県知事はね、たとえば鳥取県の片山善博知事の場合、最初の選挙から自民・民主両党の推薦を受けて当選してる。最初から与党がいたわけ。今回は共産まで候補擁立を見送って、オール与党で無投票再選。その彼は現職議員の半数近くと県議選用に写真を一緒に撮ってる。それでも独裁者と言われないんだから、人徳の違いかな(笑)。
 話を戻せば、結果的には長野県議会全体の4割強が入れ替わり、知事を「支持」する議員も倍増したんだよ。

浅田 彰 問題はこの選挙戦の後だよね。しかし、知事選は、東京、神奈川、北海道をはじめ、どこもパッとしなかった。

田中康夫 ただ福井は惜しかった。僅か数万票差で次点に終わった無党派の高木文堂は、前日までの予備調査では10ポイントくらいリードしてたんだから。恐らく前日の雨が止んでピーカン晴れになって、ウルトラ無党派層は高木リードと報じられたものだから、油断した。当選した西川一誠の陣営に集まった、というより集まらされた利権絡みの業者なんかは、生きるか死ぬかだと、しゃかりきに票集めをした。こういうバーバリアンに負けちゃうんだね、利権とは無縁の市民は。総務省出身で元副知事の西川には、自民、民主、公明、社民、連合までが相乗り。山崎拓なんてヘリコプターで応援に行ってた。典型的な組織選挙だよ。
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浅田 彰 福井は原子力政策を左右するという意味できわめて重要な場所だからね。

田中康夫 そう。脱原発を標榜する高木がもし当選していたら、僕のケースより大変なことだとも言えたわけでね。元外交官で僕とは20年来の友人でもある彼自身は知名度の高いタレントでもないしね。今回の福井では共産も候補を立てていたんだから、連合も対立女性候補を支援した2回目の僕の選挙よりもウルトラ無党派。

浅田 彰 脱原発っていうメッセージはかなり浸透したと思うけど。

田中康夫 もちろん彼もすぐに全部やめると言ってたわけじゃない。新規や更新は認めず徐々に新エネルギーを開発していこう、と。

浅田 彰 いち早く脱原発を決めたドイツも、すぐ全廃すると言ってるわけじゃなく、新設はせずにそのうちフェード・アウトするってかたちだもんね。
 そもそも、事故隠しがバレたおかげで、東京電力の原発すべてが現時点で止まってるわけで、関東地方も一時的に脱原発を実現してるわけだ(笑)。このまま夏場になると数日間停電もありうるって騒いで、運転再開への圧力を強めてるけど、玉村豊男がテレビで言ってたの、わずか数日の停電で脱原発が可能になるんだったらそれでよしとする市民も多いんじゃないかって。むろん、同時に代替エネルギーをどんどん開発していきゃいいわけだしね。

田中康夫 ドイツなんかでは、内陸部の普通の田畑の中にまでものすごい風力発電所がいくつも建ってる。旧東欧の原子力発電所から送電されている分もあるとは言え、着実に転換が進んでいるという感じがするよ。長野県も早期にバイオマス発電所を設けるんだ。と同時に、太陽光だけでなく風力、さらにはゴミ発電も行ないたいね。オリンピックの帳簿を「焼却」した問題に比べれば、理解されやすいダイオキシン問題だ(笑)。それと、県本庁舎の庭をね、発泡スチロールを溶かしてノリにしてしまう小型プラントとか、さまざまな実験を行なう場所に変身させようと考えている。迷惑施設は、地域住民ではなく僕を含む県職員と県議が、そのリスクを引き受ける。県議が議会棟へと訪れる回数が減ったりして(笑)。

浅田 彰 広瀬隆が「原発を新宿に」って言ってたけど、知事自らそういうことをやっちゃうわけだ、ただしもっぱらエコロジカルな路線で。


●市民運動の難しさ

浅田 彰 統一地方選をめぐっては、前三重県知事の北川正恭が「マニフェスト(選挙における具体的な約束)運動」を提唱したでしょ。
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田中康夫 あれは、どうなのかなと思う。政党だったらマニフェストを出すべきだよ。だけど地方は今、政党じゃないんだ。脱政党の時代。すると、本人がプロの政治家としての経験があったり、バックに知恵袋としての役人がついてたりしなければ、個人では、それもウルトラ無党派の新人では、そんなもの作れないってことになっちゃう。それに、マニフェストと表現するとカッコいいけど、早い話が公約と何処が違うのさ、って話でね(笑)。今までプロたちのつくった公約はお題目としての聞こえの良いウソだった。それに対抗するウルトラ無党派の市民の側から出るときに、シンクタンクでも頼まなければ、具体的数値設定のマニフェスト作成は難しい。多分、僕だって初回の選挙では無理だった。こんな公共事業は止めます、といった公約ではマニフェストではないと言いたいわけでしょ。つまり、現職や元役人にとって有利な話なんだよ。気をつけてかからなくちゃいけない。

浅田 彰  北川としては、自治体の長も経営者感覚でやれってことなんだろうね、達成度を数値化するとか。むろん、これまであまりに非効率な部分が多かったから、そうやって効率化する意味は大きい。でもやっぱり政治家はたんなる経営者じゃないんだから。

田中康夫 アメリカの、極めてショートリターンを求める株主総会と同じになっていっちゃう危険性もある。

浅田 彰 経営者が企業をリストラするのと、政治家が市民の声を反映しつつシステムを変えていくのとでは、全然違うからね。

田中康夫 まあ、何れにしても、今までは首相と同じく、誰が首長をやっても同じだと有権者は諦めていた。そんなことなくて、長野県のように、知事が変わればすべてが変わる、という期待を市民は抱きつつある。とは言え、人々の心を捉えるだけの言葉や雰囲気を持ったウルトラ無党派の候補者が、そうそう沢山、居るわけではないから、そこが課題だね。

浅田 彰 小学校校舎の保存問題で大野和三郎町長がリコールされた豊郷町でも、選挙では対立候補が2人も立ったもんだから、またあの前町長が再選されちゃった。わずか55票差。票数は、現校舎活用派の2候補を合わせれば、はるかに大野派よりも多いってのに。

田中康夫 結局は漁夫の利になっちゃうんだから。求められて、僕は次のコメントを出したんだ。「極めて僅差の結果とは言え、選挙は勝ってナンボの戦いだ。“利権”で集う人々は、だから候補者の一本化を必死に図る。理念と違って利権は分配可能でもある。他方、私利私欲とは無縁の“理念”で集う人々は、原理原則を振りかざして分裂をしがち。真に民意を反映した代表を誕生させるべく、小異を抱えながらも大同に就こうとする、良い意味でのウルトラ無党派層の成熟が望まれる」とね。

浅田 彰 それにしても、和歌山市で拘置所の中から立候補した旅田卓宗前市長が市議会議員にトップ当選するにいたっては、ちょっとすごいと思うよ。彼は汚職で逮捕されたんだけど、いつもこれ見よがしに掃除のボランティアなんかやってて、逮捕されたときもバキュームカーで汲み取りをやってる現場から作業着姿で逮捕されて行ったんだから、ほんとにすごいよ。

田中康夫 最後に、印象的だった記事を引用しておくよ。最初は、産経新聞長野版の4月17日付に掲載された一県民の意見。
「県議選では『だれが親田中候補か、よく分からないし、候補者本人が田中知事というわけでもない』と考えると、興味がうせた。しょせん県議。この四年間で大したこともやってないし、これからだって同じでしょ。投票する価値もないと思う」
 これは、なかなか言い得て妙だと思うよ。続いて、毎日新聞高知版4月18日付に掲載された高知県知事の橋本大二郎の発言。
「高知に限らず、『県議会=県民の代表』という重みが変わってきているのではないか。形の上では県民の代表ではあるが、当選議員が県民の声を反映する比率は、全国的にますます薄まってきていると感じた。議会を軽視するわけではないが、議会に対する比重と、県民の判断を仰ぐという仕組みを作り、それを生かしていくという比重が変わってこざるを得ない。(中略)41人の県議が必要かどうか、今の選挙区割りでいいのかということを、自分たちの利害得失にかかわる県議会で議論するのでは駄目だ。県民が直接考え、仕組みを作った制度で抜本的にやってみないと、なかなか関心は生まれないと思う」
 鋭いでしょ。議会はチェック機能だと言いながら、自分たちの給与や待遇はお手盛りなんだから。僕は、国会議員はもっと定数を減らして逆に待遇を保障すべき、県議会議員は選挙区をもっと広くして定数も給与も削減すべきだと思う。逆に、市町村会議員は、もっと定数を増やすべきなんだ。給与はヴォランティアに近い金額に抑えて。だって、定数を削減すると、所謂、従来の利権派の議員ばかりになっちゃう。小さな町村でも、ヴォランティア価格で20名の議員定数になれば、普通のおばちゃん、おばあちゃんも発言できるようになる。そういう形で民主主義の成熟を図らないと、県知事には田中康夫を選んでも、市民派で出てきた人は話し方も今ひとつなので、ついつい利権派で守旧派の現職を選んじゃう、みたいな感じになるんだね。
 それにしても、橋本大二郎という人は、ホントに龍太郎の兄弟なの? だって、次の発言もしているんだよ。
「非核港湾条例(外国艦船が入港する際、核兵器を搭載していないことを証明するよう求める条例)というものは、議会構成がどうだというよりも、国際情勢の動き、日米関係からいっても必要なものだと今も思い続けている」
 いやぁ、羊頭狗肉な改革派知事は多いけれど、彼は凄いよ。連携を深めようかと思ってるよ。
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●SARSは自然の摂理?

田中康夫 猛威をふるっている新型肺炎SARSは何なんだろうね? 最初はアルカイダかなんかの生物兵器かと思ったよ。

浅田 彰 新型のコロナ・ウイルスだってことらしいけど。

田中康夫 だけど不思議だよね。ああいう急に経済発展めざましい広州と、ちょっと落ち目な香港で発生するというのもさ。しかも戦争の最中というタイミングで。

浅田 彰 とにかく、中国が最初のうち情報を隠してたのは大問題だね。前に香港で新型インフルエンザ・ウイルスが出たとき、ニワトリからうつるっていうんで、ニワトリを一挙に処分して、なんとか乗り切った。なかなかよくやったと思うよ。ところが、今回、中国本土の広東なんかは動きが鈍い。

田中康夫 北京で患者が出たのまで黙っていたでしょ。香港を起点にしてるキャセイ航空とか危急存亡の話だよ。
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浅田 彰 これからは飛行機なんかの空調システムも強力な殺菌装置を組み込まないとダメだと思うよ。病原体もグローバルに広がっていく時代なんだから。

田中康夫 だけど、日本でも航空会社はマスクしてるんだけど、いまだに救命救急士とか消防士は常時マスクをするわけでもない。それでいて、病原体を外に漏らさない減圧の救急車がないからとか、バカなことを消防庁と厚生労働省の間で責任を押しつけあってる。愚かだよね。とりあえずいまの段階でできることは何かってことをちっとも考えない。ほんとに危機管理がないんだ。車なんかすぐに用意できるわけない。長野県は減圧カプセルを4つ購入したの。これで通常の救急車でも搬送可能。この他、万が一の場合の連絡と対応の手順も詳細に設けた。全国的にもトップレベルの準備ではあると思うよ。とは言え、第一号患者が日本でも確認されるや、冷静さを欠いたパニック報道で負の連鎖が始まるんだろうね。

浅田 彰 次に新型のインフルエンザ・ウイルスが発生したら、世界で1000万人単位の死者が出ると言われてる。第一次大戦の頃のスペイン風邪なんかもすごかったけど、当時は交通機関が限られてるから、まだそんなに広がらなかった。ところが今は一瞬にして世界中に広がっちゃうからさ。アルカイダがやらなくても、自然界が勝手にやるって感じだよね。

田中康夫 やっぱり自然摂理なのかな。戦争も少なくなって、世界中が長寿になって。

浅田 彰 ブラック・ユーモアで言えば、アメリカが戦争をやりまくってそれを防いでくれるかもしれないけど(笑)。

田中康夫 敬虔なキリスト教信者のブッシュは、そういうお告げを受けて、戦争好きなのかな(笑)。

(了)
次回更新は5月下旬の予定です!

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