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トップ ■ 連載 第七回「続・憂国呆談」番外編Webスペシャル
 2003年1月号

憂国放談    ............... ■ いよいよキナ臭くなってきたイラクおよび北朝鮮状勢。アメリカの本音と、日本の自主性なき追従ぶりを一刀両断! さらには、野党の迷走からガラス張り知事室の移転?問題、クローン人間、スーパーエディターの死まで、田中康夫と浅田彰の超過激トークがますます冴え渡る! 今月もWeb版は超特大版の大サービス!
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露骨なアメリカとお子ちゃま日本


●アメリカは鈍感? 敏感?

浅田 彰 アメリカはイラク攻撃の準備を着々と整えてるね。確かに、ラムズフェルド国防長官の強硬路線に対し、パウエル国務長官がかなり柔軟路線に引き寄せはした。真ん中のライス大統領補佐官ってのもなかなかのもので、目立たない形でパウエルを応援してる感じがする。そもそも彼女を引き立てたスコウクロフト元大統領補佐官もイラク攻撃には反対だしね。ともあれ、それで国連を間に立てることになり、国連のイラク査察が一応実行されてるわけだから、急に攻撃に移るのは難しいように見える。ところが、ブッシュはそれでも強引に戦争にもっていくつもりみたいだから、一体どうなってるんだか。むろん、イラク周辺諸国は言うまでもなく、フランスもドイツも現時点での開戦には明確に反対してる。でも、それで逆に国際協調主義のパウエルの顔がつぶれて、単独行動主義の連中が巻き返してきちゃったんだから、皮肉な話だよ。
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田中康夫 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長と国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長の報告は、灰色答申だったからね。1月末との話が3月にずれ込んだものの、依然としてブッシュはやる気らしい。それにしても、英米に続いて日本も敵国なのか、とイラクから呆れられる国って何なの? この間の「サンデープロジェクト」も与野党の幹事長が勢ぞろいしてたけど、言ってるレヴェルは長野県議会の議員と遜色ない(笑)。おまけに時間が延びて、僕は10分近くも割を食う羽目に(笑)。だけどね、シラクとシュレーダーが独仏友好条約40周年を記念して開いた高校生との対話集会の場で、「米政府から非難されても対イラク攻撃に反対する」と述べたら拍手喝采。逆にブレアは内政改革を語る筈の高校生との集会で演説を妨害される羽目に。日本でも世論調査では8割近くが反対してるのに、政府は従米・屈米。いっそ、ハワイに続く51番目の州になったら。

浅田 彰 シュレーダーは戦争不参加が選挙公約だったから当然として、シラクなんかは口先三寸で「大国」としての存在感を示してるんだから嫌らしいくらい巧妙ではある。他方、ブッシュのプードルと言われて、足元の労働党からも批判が集中してるブレアってのはいったい……。しかし、ブレアがちぎれんばかりに尻尾を振ってるとしたら、小泉の尻尾はもう振りちぎれてるって言われてるんだよね(笑)。
 それにしてもアメリカは露骨だなぁ。核開発はイラクより北朝鮮のほうが進んでるのに、二正面作戦を避けるため北朝鮮には外交で行くってんだから、ダブル・スタンダードそのもの。もちろん、ラムズフェルドの言うように二つ同時にやっつけるなんてことはきわめて困難だし。

田中康夫 考えてみれば、イラクも北朝鮮も、アメリカの発想はエネルギー問題だよね。何しろ連中は、世界最大の地球温暖化貢献国家(笑)。国内にも膨大な石油は埋蔵されているのに、他国の資源を先に使いたい。この点で、世界第二位の産油国イラクが言う事を聞かないのが気に食わない。で、フセインを退ければ、イスラエル右派に対して得点を稼げる。で、相対的に王室内が群雄割拠なサウジアラビアの発言力を削げる。既に明らかだけど、北朝鮮と違って、どうやらイラクは核開発をしていない。しかも、油田設備というインフラは整備されている。だから、攻撃しちゃおう、って判断だね。でも、独裁体制な北朝鮮とは違って、イラクのフセインは良い意味で官僚制度の上に乗っている。国民性もアジアに於けるヴェトナムと並んで個人に立脚している。だから、フセインだけが失脚しても、日本と違ってアメリカの属国になるかは疑問。逆に英語が喋れるからというだけで、アフガニスタンのカルザイのような人物を傀儡で置いてしまうと混乱するよ。虐げられてきたクルド系の人物を重用したりすれば、カンボジアのポルポトの二の舞にならないとも限らない。
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 他方で、北朝鮮の金正日が今、失脚したら国内はカオスとなって、僅かな距離の韓国へと難民が押し寄せてしまう。その合間に無政府状態の軍部が核を暴発させないとも限らない。このほうが日本にとっては大問題なんだよ。まあ、北が怖いと言いながら、全部で4隻しかないイージス艦をアメリカ様を御守りする為に中近東へと派遣しちゃう究極のヴォランティア国家だから(笑)、無理もないけど。盧武鉉の「太陽政策」に表向き、ブッシュも乗って、「核問題を解消すれば経済援助をする」と言い出したのも、こうした観点からだよね。前から我々は、日本がチョコレートとストレプトマイシンを貰った途端に親米になったように、毎日、北朝鮮の上空からお握りと韓国の放送局に周波数を合わせたラジオとハングル語の『月刊プレイボーイ』を空中散布すると効果的、と主張してきた。豊かさを知ると気付くんだよ。でね、統一教会が(世界基督教統一神霊協会と正式名称で記さないと、今や北朝鮮と言っても抗議を受けない時代に文句が来そうだけど)、アメリカのメジャーと組んで、北朝鮮沖合いの油田を開発しようとしている。これは未だイラクと違って商業化していない。だから、このプロジェクトがテイクオフするまでの間、お人よしなミツグ君の日本の資金で北朝鮮の経済復興を、というのがアメリカの腹の内ではないのかな。いずれにしても、今回の太陽政策は、これぞ米韓鮮のトライアングルが日本パッシングへと大きく舵を切った証。なのに、日本はギャーギャーと騒ぐだけ。そりゃ、二百歩譲っても北朝鮮はけしからんよ。だけど、その昔の三菱銀行北畠支店のソドムの籠城(1979年1月、大阪市住吉区の同支店に猟銃を持った男が押し入り、行員2名と警官2名を射殺のうえ人質を取って立て籠もった事件のこと。籠城から42時間後、犯人の梅川昭美は狙撃隊によって射殺された)だって、刺激しちゃ何をするか判らん、と日本の警察だって冷静に説得しようとした。今の「救う会」の連中は相手を追い込んでいるだけ。寧ろ、最悪の結果を望んでいるのか、蓮池のお兄さんよ、と諫言したくなるよ。一番冷静で大人なのは、横田めぐみさんの御両親だよ。なのに、その2人が平壌へ行きたいと願っているのに、阻止するお前さんたちにはどんな権限があるんだよ、って話でね。それこそ、金正日も真っ青な有無を言わさぬ強権だよ。マスコミもダラシがない。抜け駆け取材はしない、と柏崎でも即席記者クラブを作って、で、何をしてるかというと、カメラを2台出したNHKは協定違反だ、謝罪しろ、と息巻いて、新潟支局長が詫び文を提出する羽目に。ホントにさぁ、子供の学級会だよ。

浅田 彰 そういえば、今度アメリカの上院で共和党がマジョリティになったじゃない? で、共和党上院院内総務のトレント・ロットが、マジョリティ・リーダーになれるってんでノリノリだったわけ。その彼が、ストロム・サーモンド議員が100歳になって上院を引退する記念パーティで「昔サーモンドを大統領に選んでいたら、この国はこんなに問題がなかっただろう」って言っちゃったの。それだけでロットは院内総務をクビになった。なぜかといえば、1948年の大統領選挙に立候補したサーモンドが黒人差別政策を主体とする公約を掲げてたからなんだね。つまり、ロットの発言は黒人差別肯定だってことになる。でも、アメリカの政界やマス・メディアがそれだけ黒人差別問題に敏感だってのは、なかなかすごいと思うよ。この程度の発言で日本の自民党の幹事長とかがクビになると思う? 政権中枢のパウエルとライスがアフリカ系ってのも、一昔前じゃ考えられなかったことだし。

田中康夫 だって、日本は先月のWeb版(http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/200212/index.html)で紹介したようなとんでもない女性差別発言を石原慎太郎がしたって、クビどころか誰も何も書きもしない国だからね。その点、ロットはちょっと同情の余地はあるかもしれない。そういう場だからリップ・サービスで言ったんだろうに。

浅田 彰 まあ、南部の保守派のホンネが出ちゃったんだろうね。だいたい、共和党はリンカーンの党だから、南部は民主党が強かった。ところが、48年のトルーマンをはじめ、ケネディからジョンソンへと、民主党が黒人の公民権運動を支持するようになったんで、サーモンドの反乱に見られるような民主党離れが起き、そのあげくの果てに、いまや南部は共和党の大票田になってるわけよ。ブッシュだってそれに依存してるわけだからさ。
 ただ、共和党も転んでもただじゃ起きなくて、ロットの後任にビル・フリストを持ってきた。医療財閥の御曹司で、プリンストンとハーヴァードを出た心肺移植外科医。実際、前にサーモンドが議会でぶっ倒れたときも、蘇生術を施したりしてる(笑)。休暇にはアフリカで医療ヴォランティアに従事してるっていうしね。未来の大統領候補と言われる民主党のヒラリー・クリントンは医療制度改革が目玉でしょ。それへの当て馬としてはフリストが最適だってことじゃない? 2004年の選挙については、ゴアが不出馬を表明した一方、ヒラリーも出馬しないと言ってるけど、2008年はわかんないからね。


●止まらない野党のメルトダウン

浅田 彰 民主党から抜けた熊谷弘グループと党首に逃げられた保守党が合体して、年末に保守新党を結成したね。

田中康夫 やっぱり熊谷ももう一回大臣をやりたいのかな。彼が昔PHPから出した本なんかにはイギリス的社会民主主義を目指すってな内容が書いてあったけど、まったくのウソだったということだよね。
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浅田 彰  結局は政権与党に戻りたかっただけにしか見えないからね。まぁそれだけ野党第一党の民主党がだらしないとも言えるわけだけど。

田中康夫 年末に菅直人が都道府県会館の中の東京事務所に訪ねてきたんだ。で、朝日ニュースターの年末番組にも小沢一郎と一緒に出演してもらった。で、菅に言ったんだよ。民主党から若手が出ていったら困るなんて縮み思考の発想がそもそもおかしい。今の民主党はもうどうしようもないんだから、党首になった以上、自分のヴィジョンを明確に示して、それに従う連中を結集してブティック政党にしなきゃダメだってね。そして2人が組んで、小沢一郎が経済のハード・ランディングをやり、菅が環境や福祉や教育によるソフト・テイクオフをやる。2人でビジョンをきちんと出して、それに賛同する議員はそこでやればいいし、嫌な議員は出ていけばいいんだ。コアの部分さえしっかり固めておけば展望が開けるかもしれない。そう言ってるんだけど、どうも菅が煮え切らないんだな。

浅田 彰 鳩山由起夫がやろうとした自由党との合併構想が否定され、替わって自分が代表になったわけだから、動きようがないんだろうけどね。しかし、いつも言ってるように、自由民主党vs民主自由党では、似たような人たちがたまたま二つのグループに分かれてるってだけで意味がないから、むしろブティック的にきちんとしたコアをもって競い合うようにしないと。

田中康夫 なぜか、それができない。

浅田 彰 ただ、先月も言ったけど、小沢がこれだけかつての側近に次々と背かれるのは、やっぱりどこかに問題があるのかなという気もする。

田中康夫 そうかもしれない。菅も似たような部分があるしね。もはや小泉ではどうにもならないことがわかり、丸投げ批判を新聞が書くようになっても、それ以上の動きにはならない。

浅田 彰 むろん自民党にもコマはないんだけど、そのせいで小泉政権がもっちゃってる。その小泉も選挙を意識して公明党員の前で池田大作の写真を讃美してみせるし、熊谷もこれまでの公明党批判について平謝りだし、恥も外聞も無いってのはまさにこのこと。
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●ガラス張り知事室ついに移転?

田中康夫 長野県は40年間も県庁の役人出身者が県知事を務めてきたから、職員の、取り分け、今まで栄達してきた課長クラスは頭の中のOSの変換も儘ならなくて、県民ニーズと乖離し勝ち。そんななか今まで長野県では20くらいの市町村と交流職員というのをやってたの。で、今度からは120人ほどの県職員を1年単位で市町村に交流に出そうと思ってる。最初は「武者修行職員」と言ってたんだけど、よく考えると偉そうだから「丁稚奉公職員」にしようと思って(笑)。市町村の現場で、まさにゴミから下水から福祉から全部やるわけ。都道府県というのは国を向いているばかりで市町村を向いていない。たとえ市町村を向いていたって、市町村長と市町村議員と市町村という組織を向いているだけなんだ。そうじゃなく現場で直接市民に目を向けてもらおうと。本庁勤務の課長職にも経験してもらう。

浅田 彰 まさに「パプリック・サーヴァント」の「奉公」だね。

田中康夫 本庁舎には中途半端に人が多過ぎるから、残業をしてでも僕に説明するための書類作りばかりをしちゃうんだよね。本当に少なくなれば、もっと効率がよくなって自分たちでできない部分はアウトソーシングするようになる。僕は3000人いる長野県庁の職員を1000人体制にしなきゃいかんと思ってるんだ。

浅田 彰 過激だねえ。

田中康夫 同時に、知事室を塩尻の林業総合センターの建物にも設ける。今は県庁が長野市にあるから、南の下伊那郡なんかだと県の会議に出るのに3時間半もかかっちゃう。だからもう真ん中の塩尻に移そう、と。で、将来的に現在の県庁は後方事務支援センターという名前に変える。これは前から言ってることだけど、国土交通省に勤務というのは千曲川工事事務所の職員も含まれる。ところが、県庁勤務というのは本庁舎という建物の中の人のみを指すのね。現地機関の職員は県職の人と呼ばれてる。変でしょ。林業総合センターはアルプスと安曇野が一望できる丘陵地帯に在ってね、こんもりとした森の中なんだ。
 本当は全国の都道府県で唯一、村に県庁所在地がある県にしたいんだけどね。僕が開票速報を見守った朝日村のような場所にね。でも、財政再建団体に陥りかねない大借金県だから。で、林業総合センターで月に10日は勤務しようと。そこから松本や伊那、木曽、諏訪へと出動する。キャンプデービッドだね。こうした場所で県内各地から若い職員もやってきて議論する。
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浅田 彰 以前から言ってるけど、遷都論なんて言う前に、IT時代なんだから、後方支援センターさえどこかにあれば、47都道府県すべてを国会が回ったっていいんだよ。それと同じ意味で、知事室が森の中にあったっていいんだと思う。

田中康夫 テレビ電話を設ければ、日々の決済も部課長の顔を見ながら可能だしね。


●ついに誕生!?クローン人間

浅田 彰 スイスに本部がある新興宗教団体「ラエリアン・ムーヴメント」の設立した企業がクローン人間を誕生させたっていうニュースだけど、あれはウソだろうなぁ。

田中康夫 ウソだよね。だいたいブリジット・ボワセリエっていうあの女性博士は何なの? ちょっと怪しげな雰囲気。

浅田 彰 同じ新興宗教団体なら、オウムもこういうことに力を入れればよかったんじゃない? サリンなんかつくらずに麻原クローンをつくるとかさ(笑)。

田中康夫 でも、この団体、信者なのかどうかわからないけど日本人にも金を払っている人がいるらしい。日本人のクローンベビーが生まれたとかも言ってる。会見を聞いても眉唾ものだけど。

浅田 彰 地球上のすべての生物は宇宙人がクローン技術で作り上げたんだっていう教義を持ってるんでしょ(笑)。
 でも、クローンをつくったからといって違う環境で育てれば違う人間になるんだから、僕は本質的にはそれほど危惧してない。今だって、たとえば皮膚なんかは細胞から培養してるわけだし、臓器もクローン技術でつくれるようになったら便利だろうし。

田中康夫 クローン人間の脳なんかはどうなるのかな?

浅田 彰 脳だって神経回路網の配線は発達過程でできあがっていくんで、田中さんとまったく同じ生物学的素材でも、アメリカで育てば英語を母語とするアメリカ人になるわけでしょ。できあがった脳の配線ごとコピーするわけじゃないんだからさ。

田中康夫 なるほど。

浅田 彰 むしろ、もう少し現実的な話で言うと、目の虹彩のパターンや顔のパターンで人間のアイデンティティを識別する研究が進んできてて、スティーヴン・スピルバーグの「マイノリティ・リポート」なんかもそういう設定なんだけど、日本でももう成田や関空に顔認識装置が導入されてるらしいんだよね。知らない間にカメラで顔をチェックされるってのは、警察国家化とも関連して、あんまり気持ちのいい話じゃない。クローンの話なんかより、そういうバイオメトリクス技術の話なんかのほうが、緊急の問題になってくるんじゃないかな。


●スーパーエディター死す

浅田 彰 「スーパーエディター」こと安原顕が死んだね。肺癌で余命1ヶ月と告知されたことを公表して、最後までネット上で日記を書いたりしてた(http://www.bk1.co.jp/s/yasuken)。彼らしい死に方だったと思うよ。僕は、彼が中央公論社の出してた『海』っていう異色の文芸誌にいたときから付き合いがあって、『マリ・クレール』に異動させられてから「スキャンダラスな午後」っていう訳のわからないタイトルで音楽エッセーの連載を頼まれた、それが僕が音楽について書き始めたきっかけなんだよね。そしたら同時に田中さんの「たまらなく、アーベイン」っていう連載も始まってた。田中さんの連載はあとで本にまとまったけど、僕は怠惰だからほったらかしたまま。安原顕が生きてるあいだに本にしとけばよかったと思うよ。

田中康夫 実は年末の31日にね、彼の上野桜木の自宅にお見舞いに出掛けたんだ。大分、元気そうでね、開口一番、「康夫、お前、やってるなぁ」。でね、「お前さんは、物書きとしちゃクソだけど、知事としては「『脱ダム』宣言」だの不信任だのと見事なストーリーテラーだな」だって。彼とはデビュー直後からの付き合いだから、嬉しかったよ。1月26日の葬儀にも出掛けて、写真を見てたら涙が止まらなかったよ。社員だった彼が大江健三郎の批判を書いても、当時の中央公論社は編集者として護った。文藝春秋や新潮社、朝日新聞だったら、どうだったかな。批判こそは言論なのに、閉塞的な空気が漂う今の日本は困ったもんだぜ。(
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浅田 彰 それにしても、そういうとき大江健三郎が出版社なら出版社のトップに苦情を持ち込むのはよくないね。本人は世界から迫害されてるマイノリティのつもりらしいんだけど、実際は押しも押されもせぬ大作家なんだから、そんな人がトップに苦情を言ったら下の人間がどうなるかぐらい想像できそうなものなのに。『週刊朝日』で大江の連載が始まった、その少し前に「虫」っていう匿名書評子が大江の『憂い顔の童子』の批判を書いたら、直後にその書評欄の連載が打ち切られ、編集長も交替した、あれも変な話だよね。僕は『取り替え子』と『憂い顔の童子』は最近の傑作でものすごく面白いと思ってるんだけど、もし本当に大江の圧力があったとしたら許しがたいと思うよ。
 そういえば、さっき言った『たまらなく、アーベイン』を田中康夫の傑作の一つに挙げてる宮崎哲弥が、『論座』2月号の週刊誌時評で「続・憂国呆談」をベスト1にしてくれてる。それはわれわれが竹中改革をあえて支持せざるをえないって言ったからなんだね。彼は木村剛なんかとも近いわけだから。

田中康夫 なるほどね。

浅田 彰 まあマス・メディアはいまや総くずれって感じだけど、その中でも時評子諸氏には頑張ってほしいと思うよ。

(了)
次回更新は2月下旬の予定です!


*【付記】
田中康夫 いやぁ、中央公論社だけが例外だった訳ではなく、当時も大江健三郎氏からの抗議に結果として中公側が屈して、今後は二度と大江批判を行わないと、安原さんが「約束」する形で収まったらしい。多くのWEB版読者の皆さんからお問い合わせを頂戴しました。まあ、妙な形で、浅田・田中対談の読者が少なからず世の中には生息していると確認しちゃいました(笑)。


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