記事一覧:Book Reviews 書林探索140

  • アベノミクスの最大の成果はマネタイゼーションによる円安誘導

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    アベノミクスの最大の成果は マネタイゼーションによる円安誘導

    2013年7月27日号  

    1990年代前半のバブル崩壊後、急激な円高進展が日本のデフレ定着の要因となったことは、よく知られている。通常、バブルが崩壊すると、通貨は大幅に減価、それが輸出増をもたらし内需低迷を補う。しかし、日本では円高が進み、内需も外需も低迷した。そういえば、東日本大震災の直後に生じたのも円安ではなく、円高だった。本書は、危機が訪れるたびに増価する円の謎に迫ったものである。

  • 『国富論』以来の大問題に挑戦今後の世界を読む視点を提供

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    『国富論』以来の大問題に挑戦 今後の世界を読む視点を提供

    2013年7月20日号  

    ある国はなぜ繁栄し、また衰退するのか。本書はアダム・スミスの『国富論』以来、経済学者たちが格闘してきた大問題に挑戦した話題作である。著者は経済学者と政治学者のコンビ。すでに膨大な研究業績で知られる。本書の特徴は第一に、経済発展における政治体制の決定的重要性を指摘している点だ。経済発展の原動力は新規参入者による創造的破壊である。著者はエリートが他の国民にも機会を提供する仕組みを包括的制度と呼び、他の国民を収奪する制度と区別する。

  • ビッグデータをいかに使うか数理マーケティングの入門書

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    ビッグデータをいかに使うか 数理マーケティングの入門書

    2013年7月13日号  

    本書は、ビッグデータに代表される計量的アプローチをマーケティングに応用した事例の入門解説書である。著者は大学で計量経済学を専攻して、学生時代から大手広告代理店で数理マーケティングを20年以上経験し、現在では同社の数理マーケティング部門長を務める、まさにうってつけの経歴を持つ。

  • 日銀ウオッチャーが読み解く黒田緩和の効果と副作用

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    日銀ウオッチャーが読み解く 黒田緩和の効果と副作用

    2013年7月6日号  

    本書は日本銀行のOBであり、最も信頼されている日銀ウオッチャーの1人である井上哲也氏が、ここ数年の先進各国の金融緩和策を参照しながら、本年3月に着任した黒田東彦日銀総裁の唱える異次元の金融緩和策を、バランスを取りながら包括的かつ冷静に概観したもので、現状の金融政策を理解する上で、必読の一冊である。

  • 書物の性格を変えた16世紀ヴェネツィアの革命

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    書物の性格を変えた 16世紀ヴェネツィアの革命

    2013年6月29日号  

    グーテンベルクが1455年に42行聖書を印刷してから半世紀後のヴェネツィアでは、ヨーロッパ中で出版された本の半数が印刷されていた。16世紀の本は製本されずに売られ、買った人が自分で製本するものだった。本には背表紙はなく白い裁断面が見えるように並べられていた。客が本を見つけることは不可能で、書店主の役割は本の内容を説明し、目当ての本を書棚から見つけ出してくることだったという。

  • 豊富なデータや証言で論じる史上類のない金融緩和の功罪

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    豊富なデータや証言で論じる 史上類のない金融緩和の功罪

    2013年6月22日号  

    日本銀行など世界の主要な中央銀行がこれまで取ってきた史上類のない金融緩和策を比較し、そこに潜むリスクを整理した本である。世界同時緩和がどのように実現していったかを時代を追って解説すると同時に、豊富なデータ、各種のレポート、中央銀行関係者の証言などを多数紹介しながら、超金融緩和の功罪について丁寧に論じている。基本的なスタンスは日銀が長年取ってきた政策を擁護するものなので、リフレ派にとっては大いに不満の残る内容かもしれない。ただ、事実関係は正確に記述されており、リフレ政策への賛否にかかわらず、非伝統的金融政策に関する主要な論点を頭の中であらためて整理するには有益な本といえる。消費者物価指数の問題点など、経済統計の観点からの考察が加えられている点も興味深い。

  • EUとしての連携を可能にした「補完性原理」の幸運な誤解

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    EUとしての連携を可能にした 「補完性原理」の幸運な誤解

    2013年6月15日号  

    ヨーロッパの「統合は終わった」。本書は開口一番こう宣言する。確かに先の欧州通貨危機は、ユーロ導入以来最大の危機だった。それでも統一通貨制度の崩壊は何とか食い止めた様子だし、7月にはクロアチアが加盟してEUは28カ国になる。EUは依然として拡大と統合の途上にあるように見える。にもかかわらず、本書は欧州「統合」の物語は終わり、ポスト統合の段階に入っているという。その意味するところは何か。そしてポスト統合期のEUとはどのような存在か。

  • 平和と繁栄の前提が崩れ「いい人」が評価される贈与経済

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    平和と繁栄の前提が崩れ 「いい人」が評価される贈与経済

    2013年6月8日号  

    社会がどんどん「イワシ化」しているという。小さな魚ながら、巨大な群れとなって泳いでいる。どこにも中心はないが、その場その場のはやりにうまく身を任せている。深い教養も思考もないまま、自分の気持ち至上主義で、傷つけられたくない、人からとやかく言われたくないという性向を持つ。そんなイワシ同士がネットでつながって、リスクを避け互いにリアクションし合っているだけ。これからの日本の姿を描けないまま、どんどん社会はその根底においてバラバラになってきている。

  • 人類1万年の歴史から読み解く「グローバリゼーション」

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    人類1万年の歴史から読み解く 「グローバリゼーション」

    2013年6月1日号  

    18世紀まで経済成長は人類社会にとり、必ずしも自然なことではなかった。収穫逓減の法則が支配する農耕社会では、生産増が人口圧をもたらすマルサス的制約が働き、1人当たり所得を増やすことはできなかった。ペストなどで人口が大幅に減少すると、1人当たり所得が増え、その豊かさがルネサンスの原動力ともなった。人類がマルサス的制約から解放されたのは、19世紀以降、収穫一定の法則が支配する工業社会に移行し、1人当たり所得を増やすことが可能となったためである。

  • 随一の大恐慌研究家による現代の危機を読み解く手引き

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    随一の大恐慌研究家による 現代の危機を読み解く手引き

    2013年5月25日号  

    2000年に刊行された本書は、大恐慌研究の古典である。出版事情が厳しい中、本書が翻訳されたことは喜ばしい。今回の経済危機で世界的に大恐慌の意義が見直されている。もっとも日本では15年に及ぶデフレ不況のため、大恐慌への注目は一部でより早く集まっていたし、ほかならぬバーナンキ現連邦準備制度理事会(FRB)議長がプリンストン大学教授のころから、大恐慌研究を生かして日本のデフレ不況に政策提言を行っていた。

  • ITに奪われる人間の仕事構造転換とどう付き合うか

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    ITに奪われる人間の仕事 構造転換とどう付き合うか

    2013年5月18日号  

    本書は、MITのブリニョルフソン教授とマカフィー研究員により一昨年初秋に電子書籍として出版された。待ちに待たれた邦訳である。

  • 本来機能が失われた「説明責任」 「アカウンタビリティ」の必要性

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    本来機能が失われた「説明責任」 「アカウンタビリティ」の必要性

    2013年5月11日号  

    昨今、福島第1原発事故や企業の損失隠し、学校のいじめ問題など、国や企業、教育委員会が十分な説明責任を果たしていないということが議論になってきた。社会制度として、政治や企業が「説明責任」の確保・向上を図って、自らの決定や行動を透明化することが日本社会にとって必要だという風潮になってきている。

  • 覆される経営学の“常識”間違いを解き明かす痛快本

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    覆される経営学の“常識” 間違いを解き明かす痛快本

    2013年5月4日号  

    経営者は、自らのビジョンに基づき、綿密に計画を立て、着実な実行を求める。それができない経営者の下では企業は失敗し、長期的には生き残れないと多くの人々が思っている。しかし、著者は、経営戦略なんてものはないと喝破し、物事が実際にどのように動いているかを説明する。なぜかわからない慣習がある。なぜ新聞の紙面は大きいのか、なぜ製薬会社は営業活動に巨費を投じるのかと著者は問いかける。これらは欧米よりも日本でこそ深刻な問題だろう。日本の電車のほうが混んでいるのだから、大きい紙面はより不便なはずだ。答えは本書を読んでほしいが、問いかけの新鮮さに感心する。

  • 取っつきの悪い印象の経済学考え方を学ぶ「入り口」を提供

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    取っつきの悪い印象の経済学 考え方を学ぶ「入り口」を提供

    2013年4月20日号  

    本書は、一橋大学経済学部の教員32人によるオムニバス形式の経済学の入門書である。各教員が自分の専門分野に関して、その基礎概念や時事問題を手短に解説している。取り扱っている分野も、ミクロ、マクロ、統計学といった基礎理論から、財政、金融、国際経済、産業組織、医療経済学、経済史など応用分野まで幅広い。300ページ余りの本でカバーする分野としては欲張った感は否めないが、テーマごとに自己完結的であり、短編小説集的な読み物に仕上がっている。限られたページから、経済学の鳥瞰図を楽しむことは難しいかもしれないが、取り上げられたテーマに関して、「経済学ではこのように考えるのか」が、専門外の読者にも十分に理解できるように工夫されている。

  • 世界の食品の3分の1はごみへ途方もないムダをなくす試み

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    世界の食品の3分の1はごみへ 途方もないムダをなくす試み

    2013年4月13日号  

    経済学者はよくこんなことを口にする。寡占市場が一般化した工業分野では、文字通りに市場メカニズムが機能することは多分ないが、農業分野であれば今でもかなりの程度期待できるのではないか、と。この考えが正しいとすれば、農業では需要と供給がちょうど均衡して、ムダに廃棄しなければならないような、いわゆる過剰生産物は出てこないはずである。しかし本書を読むと、この考えがいかに間違っていたかがよくわかる。

  • 知的柔軟性を消し去る日本教育人材が海外で通用しない現実

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    知的柔軟性を消し去る日本教育 人材が海外で通用しない現実

    2013年4月6日号  

    現代における本物のエリートとは? 真に有為な人材、そして国を成長させるエリートを日本は輩出できているのか。著者は現代のエリートの持つべき能力は「システムを変える力」だと言う。「壊すだけではなく、時代に合った新しいシステムを創造し、構築していく力」だ。

  • 変化するのは資産価格ばかりリフレ政策の帰結は国債暴落

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    変化するのは資産価格ばかり リフレ政策の帰結は国債暴落

    2013年3月30日号  

    安倍晋三首相は果敢に財政金融政策を進めている。日本銀行の正副総裁にも積極緩和を進める人物を選んだ。しかし、よくよく考えると、GDPの2倍を超える国の借金を抱え低成長にあえぐ日本の財政破綻確率は低いといえない。本来なら「インフレ、円安、高い長期金利」となっても不思議ではない。しかし、最近でこそ過度な円高は修正されたが、長らく「デフレ、円高、低い長期金利」が続いてきた。

  • 経済史興隆の立役者の業績制度の変化で読み解く人類史

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    経済史興隆の立役者の業績 制度の変化で読み解く人類史

    2013年3月23日号  

    多くの人にとって経済史は、細かい事実の収集や、あるいは反証できない命題の集積と思われているかもしれない。いや、さすがに本誌の読者には経済史が現在、経済学でも最も研究の盛んな分野の一つであることは周知のことかもしれない。本書は、経済史興隆の立役者、1993年ノーベル経済学賞受賞者ダグラス・C・ノースの業績を凝縮したものだ。以前『文明史の経済学』として刊行されながら絶版になっていたものの新訳である。

  • 「速い思考」と「遅い思考」で解き明かされる人間の不合理

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    「速い思考」と「遅い思考」で 解き明かされる人間の不合理

    2013年3月16日号  

    「行動経済学」でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの一般向け近著で、「ニューヨークタイムズ」紙や「エコノミスト」誌などにより2011年の最良書に選ばれている。長年の共同研究者であったトヴェルスキーと共に著者が切り開いてきた認知心理学と社会心理学の新たな発展を踏まえ、脳の働きが今日どのように捉えられているかを紹介することを目的として、直感的思考の驚嘆すべき能力とその欠陥、および対処法を解説している。

  • ケインズとハイエク二大巨頭の対立軸と共通項

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    ケインズとハイエク 二大巨頭の対立軸と共通項

    2013年3月9日号  

    リーマンショック以後、世界恐慌の危機が迫ったときに先進各国政府は躊躇なく金融緩和と財政拡大のケインズ政策を採用した。これは、1970年代以後、ハイエクを思想的支柱としてサッチャーやレーガンが採用してきた反ケインズ政策の時代の流れを逆転させる契機になった。それによって世界経済は大恐慌に陥るという最悪の事態は回避できたが、各国政府の債務残高は平時としては異常な水準にまで拡大し、財政破綻の危険性は払拭されていない。いったんケインズ政策に手を染めると、実体経済の回復とは別に、政府支出に依存して、麻薬のように容易にそこから抜け出せなくなるという構図が見え始めている。

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記者の目

  • 編集部 鈴木洋子

    20年前に見た業界再編の後の未来、こうなるとは予想してなかった

     2001年から04年まで、当編集部で記者として最初に担当した業界が半導体業界でした。当時は日本中が最初の大再編のさなか。日本の半導体はこれで本当に復活するのか?と、じりじりしながら取材し記事を書く毎日でした。日本の半導体の再生を信じてさまざまな活動をしていた東北大学の故大見忠弘教授や故坂本幸雄・元エルピーダメモリ社長にはとりわけお世話になりました。
     月日は流れ、日本企業がほとんどいなくなってしまった後、まさかこんな形で半導体の特集に関わる日が来るとは思っていませんでした。「日の丸半導体最後の挑戦」というタイトルは無数に使った気がしますが、今度こそ挑戦が本当に花開くことを、心から祈っています。

  • 副編集長 鈴木崇久

    人事からの呼び出しに早とちりは禁物?

    「お伝えしたいことがあるので時間をください」と、ある年の3月に人事から呼び出されたことがあります。3月といえば異動の内示の季節。「編集部から出るのか」と覚悟を決めて応接室に向かったところ、全くの別件で逆に衝撃を受けました。
    「紛らわしい時期なんだから用件を先に伝えてくれればいいのに」「センチメンタルになった時間を返してほしい」などと思いながら、部屋を後にしたことを覚えています。
     そんな経験から何年もたちましたが、今度こそ14年半過ごした編集部を離れることになりました。最近は記事執筆の機会が減って、読者の皆さまにとって影が薄い存在でしたが、この場を借りて今までのお礼をお伝えできれば幸いです。

最新号の案内2024年4月20日号

表紙

特集高成長&高年収企業がぞろぞろ! 半導体 160社図鑑 これから買える株!

株式市場で大きな支持を集め、日経平均株価の最高値更新を支えた半導体関連銘柄。高成長で好業績であるだけではなく、高い年収を誇る企業も多い。ただし、玉石混交で、大手の中にも変調を来しそうな企業がある。一方で、今はあまり知られていない隠れたお宝銘…

特集2日銀「次の一手」は? 金利ショック 襲来

日本銀行がついに異次元緩和に別れを告げた。マイナス金利解除の決断を受け、市場の関心は早くも日銀の「次の一手」に移っている。17年ぶりの利上げで日本経済と今後の金融政策はどう変わるのか。「金利ショック」襲来の影響と課題を徹底検証する。