記事一覧:野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く376

  • 円安・株高は海外投機家に利益を与えただけ

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安・株高は海外投機家に利益を与えただけ

    2013年6月29日号  

    株価や為替レートが激しく乱高下している。株式市場における株価変動の度合いは、「ボラティリティ」という指標で表される。東京証券取引所が計算する東証株価指数のボラティリティは、2012年末ごろまでは10%台だったが、13年1月末からは20%程度になり、さらに5月23日の週以降は40%程度にジャンプしている。ここで計算されているボラティリティは、東証株価指数の20日分の騰落率から算出したヒストリカルボラティリティである。ボラティリティとは、株価変化の標準偏差(分散の平方根)のことだ。極めて大ざっぱに言えば、最近の株価の変動幅は、12年末ごろに比べて4倍に拡大したと考えることができるわけだ。

  • 虚のアベノミクスは実に転換できるか?

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    虚のアベノミクスは 実に転換できるか?

    2013年6月22日号  

    安倍晋三内閣の経済政策の本質は、資産価格のバブルを利用して、経済活動が好転しているような錯覚を人々に与えることだ。実体経済の構造を改革しようとするものではない。「期待」が強調されるのは、そのためだ。現代世界では、実需に基づかない資金の国際間移動が自由化されているので、バブルは国境を越えて次から次へと伝播する。いわば、世界中にガソリンがまかれていて、マッチを擦ればたちどころに火が燃え上がる状態になっている。

  • 投機に翻弄される日本経済と金融市場

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    投機に翻弄される 日本経済と金融市場

    2013年6月15日号  

    4月4日の新金融政策発表の直後、株式市場は歓迎し、株価は上昇した。ただし、債券市場は乱高下した。5月になってからの金融市場で、二つの重要な異変が生じた。第1は、長期金利が高騰したことだ。常識的に考えれば、金融緩和の目的は金利を低下させることだから、これは、一見すると不思議な現象だ。第2は、株価が5月23日に暴落したことである。その後、本稿執筆時点までの間、株価は大きく変動している。

  • 円安で利益増加は賃金が下がるから

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安で利益増加は 賃金が下がるから

    2013年6月8日号  

    2013年3月期の上場企業の利益は前期に比べて増加した。しかし、これは、生産性の向上や新しい事業の開始など、企業活動の実態が変わったことによるのではない。増益の大きな理由は二つある。第1は、11年度の企業利益が東日本大震災などの影響で大きく落ち込んだことだ。12年度の増益は、それからの回復の結果に他ならない。第2の理由は、円安である。ここでは、後者の問題について考えよう。

  • トヨタ増益の主因は円安でなくエコカー

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    トヨタ増益の主因は 円安でなくエコカー

    2013年6月1日号  

    トヨタ自動車の2013年3月期の連結決算で、営業利益が前期比3.7倍の1兆3208億円となった。「これは円安のためである」と解説している報道が多い。しかし、円安は営業利益増加の主因ではない。これは、トヨタ自身が述べていることである。すなわち、同社決算短信の中で、営業利益増加額9652億円のうち、「為替変動の影響による利益増」は、1500億円(増益総額の15.5%)でしかないとしている。大きな要因として挙げられているのは、「営業面の努力」(6500億円の増)と「原価改善」(4500億円の増)だ。

  • 金利は上がる? 下がる?混乱する国債市場

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    金利は上がる? 下がる? 混乱する国債市場

    2013年5月25日号  

    今後の長期金利は下がるのか? それとも上がるのか? マーケットは混乱している。実際、日本銀行の発するメッセージは、長期金利の方向づけに関して、矛盾しているようにも見える。第1は、金融緩和によって長期金利が低下するというメッセージだ。そして第2は、物価上昇率が引き上げられることによって、長期金利が上昇するというメッセージだ。これらは正反対の方向なので、長期金利の将来見通しがつかなくなっても不思議ではない。

  • 物価目標達成なら経済は大混乱する

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    物価目標達成なら 経済は大混乱する

    2013年5月18日号  

    日本銀行は、消費者物価上昇率2%を2年以内に実現するとしている。その実現可能性に多くの疑問があるが、問題はそれだけではない。仮に実現すれば、今度は経済の別の面で深刻な問題が起こる危険性が高いのだ。

  • 無謀な金融緩和で国債リスクが増大

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    無謀な金融緩和で 国債リスクが増大

    2013年5月11日号  

    日本銀行の新しい金融緩和政策によって、これまでの日本の金融システムにあった安定性が攪乱された。株高と円安が進んでいるので、「市場は歓迎している」と一般には受け止められている。しかし、その裏で、巨大なリスクが膨らんでいるのだ。これまでの日本の状況は、次のようなものであった。日本の長期国債の代表銘柄である10年債の場合を考えると、銀行が買って7年間程度保有し、日銀に売る。金利低下(国債の流通価格上昇)が続いていたため、安く買った国債を高く売ることになり、売買益が発生する。金融機関の利益のかなりが、これによる。この状態が健全かどうかは別として、ある種の均衡状態が形成されていたのは事実である。

  • 円安・株バブルでは実体経済は改善せず

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安・株バブルでは 実体経済は改善せず

    2013年5月4日号  

    日本銀行が新しい金融政策を決定した。これによって、円安が進み、株価が上昇した。ここ数カ月の株価は、「円安なら株高」という思惑で上昇していた。為替レートは、当初はユーロ情勢の変化で円安になったのだが、日本政府がこれを歓迎したため、投機が起こって円安が加速した。今回の金融緩和によって、為替と株のバブルはさらに煽られたことになる。日本は、国際的投機資金のカジノと化した。しかし、バブルが拡大したからといって、実体経済が改善するわけではない。経済活動が攪乱される側面のほうが強い。

  • いまは歴史的な円安だが輸出は増えない

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    いまは歴史的な円安 だが輸出は増えない

    2013年4月20日号  

    3月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、大企業製造業の業況判断DIがマイナス8となった。ところが、これを伝える新聞の見出しは、「改善」というものであった。確かに数字は改善した。しかし、依然としてマイナスである。つまり、「景気がこれから悪化する」と考えている企業のほうが多いのだ。虚心坦懐にこの数字を見れば、「見通しは依然暗い」ということだ。新聞の見出しは、極めてミスリーディングである。

  • 賞与増額の効果は無視できるほど小

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    賞与増額の効果は 無視できるほど小

    2013年4月13日号  

    今年の春闘で、自動車や電機などの大手メーカーの年間一時金(ボーナス)の増額回答が相次いだことが、大きく報道された。これがきっかけとなって、所得増と消費増の好循環が生じるとの見方もある。本当にそうなるのだろうか?  それを判断するには、ボーナス増額が経済に与える影響を、大きさと持続性の両面から正確に把握する必要がある。

  • 円安下で深刻さを増す自動車産業の環境

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安下で深刻さを増す 自動車産業の環境

    2013年4月6日号  

    円安が追い風となって、自動車関連企業の採算が好転していると伝えられる。2013年3月期の決算が増益となることを背景として、春闘のボーナスも満額回答となった。これで日本経済が所得面から押し上げられることになると、報道されている。しかし、そうした傾向は、統計には表れていない。統計から見られるのは、まったく逆に、日本の自動車産業を取り巻く環境が深刻さを増していることだ。円安にもかかわらず輸出が減少し、他方、国内ではエコカー補助金の終了で販売台数が激減しているからだ。まず最初に、乗用車の輸出動向を見よう。アメリカに対する乗用車の輸出は、東日本大震災の直後に大幅に落ち込み、その後回復した。このため、12年5月には、台数で対前年比134%増、金額で135%増という目覚ましい伸びを実現した。しかし、それは、11年における落ち込みがあまりに大きかったことの反動にすぎない。

  • 実体経済から見れば株価は2割程度割高

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    実体経済から見れば 株価は2割程度割高

    2013年3月30日号  

    株価が上昇を続けているが、実体経済面では厳しい状況が続いている。最大の問題は、輸出数量が伸びないことだ。貿易統計によると、2月上中旬の輸出は、対前年比2.9%の減だ。2月中旬の為替レートは、この1年間に1ドル79.4円から93.4円にほぼ17.6%減価していることを考慮すると、輸出数量は、対前年比20%程度の減になっているはずである。1月には、輸出数量は5.9%の減、価格指数が13.1%の増で輸出額は6.4%の増になった。2月には、事態がそれより悪化しているわけだ。円安にもかかわらず、昨年秋以来の輸出の減に歯止めがかかっていないどころか、悪化している。 株価が上昇しているのは、「円安になれば日本の輸出が増えて国内生産が増える」という期待があるからだ。しかし、その期待は実現していない。輸出数量の減少を反映して、国内生産も低迷を続けている。1月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、前月比13.1%の減少となった。これは、2005年以降で2番目に大きな落ち込みだ。前年同月比では9.7%の減少だ。また、2月の工作機械の受注は、前年同月比21.5%の減となった。対前年比減は、10カ月連続している。

  • 実体経済は厳しいが株価だけが上昇する

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    実体経済は厳しいが 株価だけが上昇する

    2013年3月23日号  

    2月上旬の輸出額は1兆6109億円で、昨年の1兆8626億円に比べて、実に13.5%の減となった。1月の輸出額は4兆7985億円で、対前年比6.4%増となったのだが、再び減少したわけだ。なお2月上中旬では3兆4270億円となっている。円安が進んでいるため、輸出の価格指数は上昇している。円ドルレートは、2012年2月初めの1ドル77.65円から13年3月初めの93.28円になっているから、仮にドル建て価格が一定なら、価格指数は20%程度の上昇になっているはずだ。したがって、輸出額が13.5%も落ち込んだのは、数量指数が30%以上落ち込んだことを意味する。これは、極めて深刻な事態である(実際には、ドル建て価格も下落しているのかもしれない。それでも、深刻な事態であることに変わりはない)。

  • 大震災後、円安は収益悪化要因に

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    大震災後、円安は収益悪化要因に

    2013年3月16日号  

    円安は、素材型産業の収益を悪化させる。前回は、このことを個別企業について見た。この結論は、マクロ的にも確かめることができる。以下では、素材型産業の輸出額と、その産業が原料等で輸入している額の比較を行うことによって、円安の収益悪化効果を示すこととしよう。

  • 円安で原料価格が上昇企業利益が減少する

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安で原料価格が上昇 企業利益が減少する

    2013年3月9日号  

    前々回、「円安は、輸入原材料の円建て価格を引き上げるという点で、輸出産業の利益を圧迫する」と述べた。そして、輸出額に対する輸入額の比率は、日本全体で平均すると半分程度であるが、素材装置産業ではもっと大きいだろうと述べた。つまり、こうした産業では、円安が収益圧迫要因になっている可能性がある。以下では、そのことを、個別企業について具体的に検証してみよう。まず、住友化学を取り上げる。同社は、日本経済団体連合会会長・米倉弘昌氏の出身企業であるが、そのために取り上げるのではない。日本の大企業を代表する存在であるからだ。

  • 円安下で激減する12年の製造業利益

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    円安下で激減する 12年の製造業利益

    2013年3月2日号  

    「円安が日本企業の利益を増加させ、このため株価が上昇している」と報道されている。しかし、この説明は誤りである。前回、このように述べた。自動車産業利益増の原因は、第1には2011年に東日本大震災で生産が大きく落ち込んだことからの回復であり、第2には12年4~9月のエコカー支援策によって売り上げが増加したことだ。円安が進んだ12年秋以降には、輸出、生産、売上高は落ち込んでいる。13年1~3月期の見通しについても、円安による売り上げ増大効果は認められない。前回は、このことを輸出や生産指数の動向を見て結論付けた。以下では、直接に利益の推移を見ることによって、同じ結論を導出しよう。

  • 12年利益増の原因は円安でなく震災要因

    野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
    12年利益増の原因は 円安でなく震災要因

    2013年2月23日号  

    2012年12月期決算の利益が、対前期比で増加する企業が多いと報道されている。その原因は、円安であると説明されている。安倍晋三政権の金融緩和政策によって円安が進み、これが輸出関連企業の業績を好転させているというのだ。しかし、この説明は誤りだ。12年の利益が増加するのは、11年において東日本大震災による輸出減とタイ洪水による工場浸水という特殊事情があったからだ。

  • 日銀頼みの国債消化が行き詰まるとどうなる?

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    日銀頼みの国債消化が 行き詰まるとどうなる?

    2013年2月16日号  

    緊急経済対策で大型補正予算が組まれ、また2013年度予算の政府案が閣議決定された。公共事業は、補正予算から引き続いて増加している。民主党時代の「公共事業は全部駄目」という硬直的な政策からの転換は評価したい。

  • 日銀独立性の否定は戦時経済への逆戻り

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    日銀独立性の否定は 戦時経済への逆戻り

    2013年2月9日号  

    日本銀行総裁は、政府や市場とのコミュニケーションと対話を密にすべきだと言われる。その通りだ。ただし、「そして、政府と同じ目標を持ち、同じ政策を追求すべきである」という人が多いのだが、それは違う。政府との対話の結果、日銀が政府と異なる見解を持つことはあり得る。それが日銀の「独立性」である。

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記者の目

  • 編集委員 藤田章夫

    新NISAを追い風にする保険業界のしたたかさ

     新NISAが1月からスタートし、保険の販売には逆風かな?と思っていたら、「むしろ追い風になっていますよ」との声が多数。
     資産運用の相談に来た人に、「投資信託は資産が減ることもありますが、変額保険の死亡保険金額には最低保証があります」と言えば、「保険の方がいいか」となるようです。
     本来は、資産を運用したいのか保障が欲しいのか、目的に応じて使い分けたいところですが、これがかなり難しい。
     そこで、保険ジャーナリストの森田直子さんとファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに、保険と運用それぞれの立場から対談を行っていただきました。面白過ぎて、対談時間はあっという間に過ぎました。ぜひご一読ください。

  • 副編集長 名古屋和希

    “予定調和”の買収は今後減少?

     第一生命ホールディングスが3月に福利厚生代行のベネフィット・ワンを買収しました。この買収劇は異例の展開をたどりました。
     先に買収を表明したのは医療情報サイト運営のエムスリーでした。そこに第一生命が参戦したのです。結局、エムスリーよりも好条件を提示した第一生命が買収戦を制しました。大企業による対抗的な買収は極めて珍しいものです。
     従来、事業会社はイメージ悪化などを恐れ、「敵対的」な買収を控えてきました。ただ、近年はルール整備などを背景に「同意なき買収」が広がる機運が出ています。買収が活発になれば、企業・業界の新陳代謝も促せます。今後、“予定調和”の買収は減っていくかもしれません。

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表紙

特集保険vs新NISA 今「契約したい保険」は? 生保商品ベスト&ワーストランキング

保険とNISA、どちらに資金を振り向けるべきか──。新NISAをきっかけに投資熱が高まる中、多くの人が抱える悩みだ。そこで保険とNISAで迷ったときの考え方や保険の見直し方、保険のプロ29人が辛口採点した生命保険商品ランキングを、業界の深部…

特集2変局 岐路に立つNHK

NHKが大きな岐路に立たされている。今国会で放送法改正案が可決されれば、ネット視聴も受信料徴収の対象となる。一方で、今後、NHKの受信料収入は人口減やテレビ離れを背景に先細る可能性が高い。職員数1万人を誇る巨大公共放送機関は、「みなさまのN…