記事一覧:連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』77

  • 第四章 解体か創造か  [第57回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第四章 解体か創造か [第57回] 

    2016年12月24日号  

    早めに陣取って正解だった。北村は、一部の記者が会見場に入れず抗議の声を上げているのを聞きながら、カメラとICレコーダーの準備をしていた。イチアイ(1I)(首都電力磐前第一原子力発電所)事故対策の前線基地であるJファームのプレスルームでは、毎日午前一〇時と午後五時に定例の記者会見がある。通常は、Jファームに泊まり込んで取材を続けている三〇人ほどの記者やカメラマンが出席する程度の会見なのに、今朝は殺気だっている。イチアイの串村所長が、事故後初めて記者会見に臨むからだ。

  • 第四章 解体か創造か  [第56回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第四章 解体か創造か [第56回] 

    2016年12月17日号  

    “人生もやまのぼりだし、事業もやまのぼりだ。大きな長い目で見ると、国家、民族も皆、山をのぼったり、おりたりだねえ。今の日本は、のぼったり、おりたり、ならまだいいが、高い頂上から谷底に転げ落ちたところだ。大ケガも仕方ない。まだ命があったのがめっけものよ。だからもう一度なんとか、この谷底から這い上がらぬ限り助からない。それも自力でだ、気力でだ、頑張りでだ──” 『電力の鬼 松永安左エ門自伝』を読んでいるうちに、秀樹は胸が熱くなった。

  • 第三章 破綻前夜  [第55回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜 [第55回] 

    2016年12月10日号  

    ある人物と会食した上での回答で良いと鷲津が言うので、芝野は鷲津と共に、溜池山王にある山王パークタワーに来た。会食会場は、聘珍樓(へいちんろう)だという。忘れられない想い出が色々ある店だった。買収合戦の関係者と対決したことも、内々の密談に使ったこともあった。それが今夜は、仇敵のような間柄の男とパートナーとして席に着こうとしている。

  • 第三章 破綻前夜  [第54回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜 [第54回] 

    2016年12月03日号  

    今日は早めに引き上げようと湯河が腰を上げた時、デスクの電話が鳴った。行政担当特別顧問の宮永の秘書からで、今すぐ、宮永の執務室に来て欲しいという。鋭い目つきの人権弁護士上がりの宮永が、一体何の用だろう。だが、民政党の実力者の呼び出しを無視するわけにはいかない。総理執務室から内廊下を歩いてすぐの所に、宮永の執務室はある。一度も訪れたことはないが、毎日大勢の官僚や政治家が、彼の部屋に呼びつけられているという噂は聞いた。

  • 第三章 破綻前夜[第53回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第53回] 

    2016年11月26日号  

    東京の街は、どこもくすんでいた。数日ぶりだったにもかかわらず、芝野は、震災の暗い影がより広がっているのを感じた。節電のせいだ。駅の構内は照明の大半を消している。春の日差しがあるとはいえ、施設全体に光は行き届かず、グレーの霞が漂っているように見える。ネオンや電光表示も止まっていて、街から色彩が消えてしまった。どこに行ってもエスカレーターは止まっていて、街が機能不全に陥った印象だ。

  • 第三章 破綻前夜[第52回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第52回] 

    2016年11月19日号  

    約束の時刻どおりに鷲津は、紀尾井町のホテルニューオータニの一室のドアをノックした。ドアを開けたのは、宮永当人だった。皺の深い顔の中で、小さな目だけが唯一自己主張している。「はじめまして、サムライ・キャピタルの鷲津政彦でございます」「わざわざどうも。腹を割って話をしたいと思いましてな」部屋にいるのは、宮永一人だけだった。こちらも一人である。

  • 第三章 破綻前夜[第51回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第51回] 

    2016年11月12日号  

    前夜遅くに東京に戻ってきた鷲津は、西新宿のホテル、パークハイアット東京にチェックインした。長時間、路面状態の悪い道路を移動して疲労困憊だった。その上、被災地の悲惨な現状を見た影響もあって、今朝はベッドから這い出すのが辛かったが、一〇時からの朝食ミーティングは外せなかった。

  • 第三章 破綻前夜[第50回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第50回] 

    2016年11月05日号  

    マンションのベランダで植木に水をやりながら芝野は、胸の内のざわつきをもてあましていた。ベトナムでの原発プラント交渉締結の喜びも束の間、東北地方で起きた大地震と津波によって発生した原発事故で、プラント建設は再び暗礁に乗り上げてしまった。ベトナム政府は、事故の詳細と原因、そして収束の目処を一刻も早く報告するようにとうるさく言うが、ハノイにいてはまともな情報収集もできない。仕方なく一時帰国したものの、東京の混乱は尋常ではなかった。頼りにしていた湯河とは会うことすら叶わず、一昨日自宅のある東大阪に戻ってきた。

  • 第三章 破綻前夜[第49回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第49回] 

    2016年10月29日号  

    「鷲津さん、ご無沙汰しています」磐前県下最大の避難所である磐城市のスポーツセンターで、鷲津が記者やリポーターからの囲み取材を受けていると、一人の男が親しげに近づいてきた。「暁光新聞の北村です」「これは、驚いた。ニューヨークではなかったんですか」「あそこは経済音痴には無縁の街ですからね。早々にお払い箱ですよ。それで一昨年から磐前県の花岡町にある通信局にいます」ニューヨークで会った時は、ストレス満載でいかにも不健康な印象だったのに、目の前の男は、その頃より若返って見える。

  • 第三章 破綻前夜[第48回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第48回]

    2016年10月22日号  

    瓦礫が山のように積み上がっている。ここにかつて何があったのかを想像することは難しい。火事の跡やヘドロ、さまざまなものが混ざった異臭はあまりにも凄まじく、気分が悪くなる。季節の変わり目の風は、容赦ない強さで砂塵と埃をまき散らしている。アンソニーがうるさく言うので、鷲津はヘルメットにゴーグル、マスクの完全装備だ。それでも、砂塵は痛みを感じるほど顔を強く打つ。

  • 第三章 破綻前夜[第47回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第47回]

    2016年10月15日号  

    鷲津を乗せたハイヤーは、ホテルニューオータニ大阪の車寄せに入った。一七階のスイートルーム・フロアで、前島が待っていた。鷲津は装着していた隠しマイクとイヤフォンを外して前島に渡した。廊下に人影はなかったが、二人とも一言も発しない。部屋に入ると、リンとサムが「お疲れ様でした」と声をかけてきた。

  • 第三章 破綻前夜[第46回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第46回]

    2016年10月08日号  

    今日はゆっくり休むようにと課長に言われていたのに、いても立ってもいられなくて、秀樹はホテルから会社に向かった。首都電力本社は、JR田町駅近くにある一〇階建てのビルだ。現在のビルが建設されたのは一九六三年で、当時は東京五輪を前に、東京中で建物のお色直しが進んでいた頃だった。

  • 第三章 破綻前夜[第45回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第45回]

    2016年10月01日号  

    みずきホールディングス(HD)社長である桂景太郎(かつら・けいたろう)との会談は、偶然が重なりさっそく実現した。──たまたま大阪に来とるし、興味もあるので今日の午後三時に、大阪本社まで来て欲しいと言うとった。くれぐれも失礼のないようにな。昨夜遅くまで痛飲したにもかかわらず、電話の向こうの飯島は元気そうだ。すぐにリンと作戦を練り、大阪に向かった。複数の都市銀行が一つになったこともあって、みずきHDは大阪にも本社を有していた。大阪城の真正面にある古めかしい大理石の七階建てのビルは、いまだに21世紀を迎えていないかのような風情を感じさせた。

  • 第三章 破綻前夜[第44回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第44回]

    2016年09月24日号  

    激しく夜泣きする娘の恵(めぐみ)を抱き上げると、北村はスポーツセンターの廊下に出た。だが、廊下にも大勢の被災者が横になっている。戸外へ向かった。ダウンコートで娘をくるんでいるから大丈夫だろう。西の空に月が沈もうとしている。今夜も星がきれいだ。この二年余り、東北の沿岸部を走り回り、自然の美しさを知った。漁船から見上げた星空などは、感動のあまり泣けてくるほどだった。

  • 第三章 破綻前夜[第43回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第43回]

    2016年09月17日号  

    「お月さんが、きれいに見えまっせ。表で飲みはったら、どうですか」ぽん太の誘いで、三人は庭に出た。三月ではあるが、今夜は肌寒い。鷲津がリンに寒くないかと尋ねると、ぽん太がすかさず、「椅子の上に、膝掛けがおますよって使(つこ)て下さい」と声をかけてきた。「汀亭」の庭は借景の趣向が自慢だ。

  • 第三章 破綻前夜[第42回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第42回]

    2016年09月10日号  

    「濱尾さんの趣味は、なんですか」簡単には諦めないリンが、無言でワインを飲む飯島に詰め寄った。「趣味かあ。囲碁やったかな。それと、毛針を飛ばして魚を捕る釣りも好きやと聞いてる」「フライフィッシングですか」「それや、それ。確か、日光の湯川によう通ってはるらしい」湯川の名前が出て、ある人物の顔が浮かんだ。リンも同様のようで冷笑を浮かべて鷲津を見ている。

  • 第三章 破綻前夜[第41回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第41回]

    2016年09月03日号  

    「濱尾っちゅう男は、上流階級出身で東大出のエリートのくせに、厄介な連中と関わることにも物怖じしない。世間では、財界総理などと呼んでるが、わしに言わせれば、あれこそまさしく閻魔大王や。しかもこの閻魔さん、見てくれはめっちゃ上品ときているから質(タチ)が悪いねん」飯島は、いきなり言いたい放題だ。

  • 第三章 破綻前夜[第40回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第40回]

    2016年08月27日号  

    プライベートジェットを駐機していたので、予定通りに屋久島を飛び立った。それから二時間余りでリアジェット75は、大阪の伊丹空港に到着した。手配しておいたハイヤーの運転手が到着口で鷲津とリンを出迎え、そのまま京都に向かう。飯島には、昨夜のうちに電話連絡をしていた。「俺はもう隠居の身や。仕事の話は聞かへんぞ」と釘を刺されたが、鷲津は「良い絵が手に入ったんですよ」と、飯島が最近凝っている浮世絵にかこつけた。

  • 第三章 破綻前夜[第39回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第39回]

    2016年08月13日号  

    室内には淀んだ空気が漂っていた。薄暗いのは節電のせいだが、こんなに淀んでいるのは、そこにいる人間が放つ重苦しいムードが原因だった。「湯河さんをお連れしました」森上は部屋の奥に陣取っている人物に声をかけた。首都電力会長の濱尾重臣だ。胸を張ってこちらを見つめている。その態度には、日本を滅亡させかねない大事故を起こした企業のトップとしての神妙さなど微塵もない。財界のドンにとっては、原子力発電所の事故すらさしたる問題ではないのだろうか。

  • 第三章 破綻前夜[第38回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第三章 破綻前夜[第38回]

    2016年08月06日号  

    鷲津の無茶な提案が飛び出しても、前島はすぐには答えずステーキを口に運んでいる。「違法ではないですが、難しくはあります」「最大の障害はなんだ?」「政府の後押しで首都電が回している奉加帳の対象は、首都電と取引のある銀行に限られています」つまり、部外者の参入を認めていないわけだな。「だが、拒絶もしていない」「と、思います」「政彦、サムライ・キャピタルが緊急融資に名乗り出たら、メディアが即行で鷲津、首都電買収かって騒ぐわよ」リンの懸念など承知の上だ。

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記者の目

  • 編集長 深澤 献

    改革不可避の「掛け持ち」編集長

    4月から本誌の編集長とダイヤモンド・オンラインの編集長を兼任しています。すると、「はやりの兼業・副業。働き方改革ですね」と言われることがしばしば。  でも、兼業・副業は給料が増えるから意義があるのであって、そうでないならただ忙しくなるだけです。そして私は、まさにそのパターン。仕事のサイクルは1週間単位と1日単位でまるで別。その上、編集部のあるフロアが別なので、階段の上り下りを1日に何度も繰り返しています(フロア統合は6月の予定)。  労働時間の短縮を旗印にした「働き方改革」ですが、生産性の向上策なしに労働時間だけ減らそうとしてもしわ寄せは労働者に及ぶだけ。今号の特集の問題提起を身をもって実感しています。

  • 副編集長 浅島亮子

    労基署、2年越しの大変身

    経済誌として初めて労働基準監督署の特集を組んだのは2014年秋のこと。今日ほど注目を浴びてはおらず、労基署はえたいの知れない存在として認識されていたと記憶しています。  当時、労働Gメンこと労働基準監督官に聞いてみたのです。「うちの会社って狙われますか?」。その答えは、「記者は違法性を証明するのが難しい職種。もっと優先して救済すべき労働者がいますしね」。  それから2年余り。今回も同じ質問をしてみました。注目の回答は、「われわれが保護すべきなのは全労働者です。で、おたくの勤務実態は……」。どっちが取材をしているんだか、メモを取り出すではないですか。やはり、労基署は着実にパワーアップしていると思うのです。

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