記事一覧:連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』97

  • 第六章 伸るか反るか[第97回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第97回]

    2017年10月21日号  

    「任意同行なら断る。村上さん、それで突っぱねてくれ」サムが強い口調で命令したが、村上は動かなかった。「サムの指示に従ってくれ」鷲津がそう言うと、村上は覚悟を決めたように唇を強く結んで部屋を出た。「サム、さっき財務省の仕業だと言ったが、俺には濱尾の悪あがきに思えるが」「それも可能性の一つだな。いずれにしても、今すぐホテルを脱出しよう」

  • 第六章 伸るか反るか[第96回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第96回]

    2017年10月14日号  

    鷲津は首都電力の経営権を奪取できるだけの株数を取得していた。それで、俺は呼ばれたわけか。ある程度予想していたことではあるが、北村は腹をくくった。「凄いな。どうすれば、首都電力なんていう巨大企業を買えるんです」「簡単です。証券会社に、金に糸目は付けないから買い漁れ! と叫ぶだけですよ」「首都電株を一三%保有したと記者会見されたのが、四月一二日ですよ。あれから僅か一週間足らずで三七%余りを買い集められたわけでしょ。凄まじい勢いだ」鷲津は肩をすくめただけだ。

  • 第六章 伸るか反るか[第95回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第95回]

    2017年10月07日号  

    午前三時半から始まった首都電力の門脇社長の緊急記者会見は、僅か一〇分で終了した。既に配達に回った暁光新聞朝刊一面に掲載された濱尾会長への独占インタビューの内容を、「事実無根」と断じるためだけの会見だった。未明にライバル社にとんでもないスクープ記事を飛ばされて怒り心頭の記者たちが門脇に詰め寄った。だが、当初から記者のリアクションを予想していた首都電は、警備員と社員がスクラムを組んで門脇を守った。

  • 第六章 伸るか反るか[第94回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第94回]

    2017年09月30日号  

    遅い夕食を摂っていると、鷲津の携帯電話が振動した。ディスプレイには“暁光新聞 北村”とある。会食相手に断って、個室の外で応答した。「濱尾会長は、奥羽、名古屋と首都電力を統合する話を進めています。ご存じでしたか」ふざけたデマを。「初めて聞きますね」電話の向こうで北村が、鷲津の言葉の真偽を測っている。「大株主としてのご意見を伺いたいのですが」「ナンセンスでしょう。というより、もし私が奥羽や名古屋電力の株主だったら、統合を進める経営陣に対して、株主代表訴訟を起こします」

  • 第六章 伸るか反るか[第93回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第93回]

    2017年09月23日号  

    首都圏電気事業会社経営危機対策審議室(首電対)の会議の後、湯河は、何人かの首都電力経営陣と会った。同社が求めている再生スキームについてヒアリングしてこいという生駒の命だ。首都電の意思は明確だった。事故に関連して発生する損害賠償については、可能な限り国家負担とし、政府は再生に向けて公的資金を投入し、首都電を徹底支援する──。その傲岸不遜さには呆れ返ったが、今日は喧嘩をふっかける日ではないと自重した。

  • 第六章 伸るか反るか[第92回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか[第92回]

    2017年09月16日号  

    北村は、首都電力会長室長に電話を入れた。慇懃な口調の男が応答し、「本日の午後五時で如何でしょうか」と、挨拶もそこそこに切り出した。財界総理として多忙を極めると言われている濱尾が、連絡した数時間後に会うなんてどういうことだ。それほど急いで話したいことがあるのだろうか。「午後四時に、御社に迎えの車を遣ります。それにご乗車下さい」「カメラマンが同行してもよろしいでしょうか」「北村様、お一人でお願い致します」交渉の余地なしだと相手に悟らせる口調の強さだった。

  • 第六章 伸るか反るか  [第91回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第91回] 

    2017年09月09日号  

    チェックアウトを済ませた時、秀樹の携帯電話が鳴った。首都電力広報室第三課の稲葉課長からだ。「YouTubeに、あなたと萩本さんが、磐前市民と小競り合いをしている映像がアップされているんだけど、どういうこと?」「見ていないので、分かりません」「それに、午前中に予定していたサッカー教室に、萩本さんが来なかったと抗議も来ている」 なんてこった。秀樹は仕方なく丁寧に説明した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第90回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第90回] 

    2017年09月02日号  

    「少し休憩しませんか」この中で誰よりも休息を嫌いそうな延岡が言った。会議が始まって約一時間半、関係省庁の主張が出揃い、停滞気味だったので湯河も応じた。坂木と絹田、生駒はさっさと部屋を出てしまった。「湯河さん、ちょっといいですか」湯河の返事を待たずに延岡は出入口に向かった。廊下に出ると、会話が聞こえない程度の距離を置いて三人が電話している。湯河は、廊下を歩く延岡に続いた。財務省の参事官は、自販機で缶コーヒーを二本買うと、廊下の突き当たりの扉を開いて非常階段に出た。

  • 第六章 伸るか反るか  [第89回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第89回] 

    2017年08月26日号  

    首都電力の国有化を審議する「首都圏電気事業会社経営危機対策審議室(首電対)」は、メディアの目を避けるために、内閣府内に設けられた。湯河は、宮永大臣の強い希望もあって、イチアイ対室長との兼務で室長に着任した。指揮を執るのは、資源エネルギー庁長官の生駒で、この日も関係省庁から集められたメンバーとの顔合わせに同席した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第88回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第88回] 

    2017年08月12日号  

    秀樹はドアミラーで、後を追いかけてくる車輌がないのを確認してからドライバーに誰何した。差し出された名刺には「NPO法人 サムライ・ジャパン・エイド(SJA) 代表理事 アンソニー・ケネディ」とあった。「磐前県に特化して、被災者にきめ細かい支援活動を続けて下さっている団体ですか」組織の存在だけでなく、活動内容やケネディへのインタビューも、新聞記事で読んだのを思い出した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第87回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第87回] 

    2017年08月05日号  

    窓から差し込む朝日があまりに眩しくて、秀樹はベッドから飛び起きた。寝坊してしまった! あかねとの朝のランニング時刻まで、あと一八分しかない。昨晩、同期と盛り上がって久しぶりに深酒をしたせいだ。案の定二日酔いで、立ち上がると激しい頭痛が襲ってくる。即行でシャワーを浴びてロビーに向かった。ロビーフロアに下りると入念にストレッチをするあかねの影が見えた。

  • 第五章 激震  [第86回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第86回] 

    2017年07月29日号  

    サムと堀の三人で打ち合わせした鷲津は、別室で待機していたアンソニーを呼んだ。アンソニーが現れると、相模湾を一望できる離れに向かった。岬の突端にある離れは、海側が全面ガラス張りで、まるで海上に浮かんでいるような感覚になる。満月の光を受けて輝く海を眺めながら、鷲津はラガブーリンの封を切った。

  • 第五章 激震  [第85回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第85回] 

    2017年07月22日号  

    河口湖近くの東海林邸を出た車は、熱海を目指した。鷲津が所有する温泉旅館でサムと堀が待っている。リンは、まもなく成田から飛び立つ便でワシントンDCに向かう。原子力発電所の事故に対しての米国関係者の考えを探り、今後の資金調達について算段してくる。東海林邸を辞するのは、骨が折れた。ぜひ泊まってくれと、しつこく引き止められ、「どうしても今日中にやらなければならない重要案件がある」と言っているのに、東海林はなかなか納得しなかった。

  • 第五章 激震  [第84回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第84回] 

    2017年07月15日号  

    気まずいはずの晩餐は、思いがけず和やかなムードで始まった。晩餐用の長テーブルの大半が空席という寂しい状況だったが、東海林の上機嫌が、それを吹き飛ばした。テーブルに着いているのは、六人だ。主賓席に鷲津が、正面にホスト役の東海林が陣取った。東海林の両側には、着物姿の粋な女将風の女性とブロンド美人が座っている。ブロンドの隣には前島がいる。そして、鷲津から一席空けた右側に、濱尾が愛想笑いを浮かべて座っていた。

  • 第五章 激震  [第83回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第83回] 

    2017年07月08日号  

    東海林と向き合う時は、挑発しないこと──。リンとサムから注意されていたのに、俺は爺さんの機嫌を損ねたかも知れない。先程までの親しげな表情は消え、東海林は鷲津を睨み付けてきた。東海林の顔は、シミと皺の芸術のようだった。それが人生で刻んできた東海林の軌跡なのだろう。

  • 第五章 激震  [第82回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第82回] 

    2017年07月01日号  

    鷲津を乗せた年代物のトヨタ・センチュリーは、首都高を抜けて中央道に入った。東海林完爾(しょうじ・かんじ)代議士が河口湖の近くに所有する別宅に向かっているようだ。東海林との面談は、鷲津が赤坂に所有する料亭「ぽん太」で行われる予定だった。ところが、東海林の秘書から「本日、東海林は東京へ行けない。迎えを出すのでそれにご乗車戴きたい」という半ば強制的な変更が告げられた。

  • 第五章 激震  [第81回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第81回] 

    2017年06月24日号  

    「湯河君、ちょっといいかね」廊下を歩く湯河を、背後から生駒が呼び止めた。湯河が振り向くと、生駒は「ついて来い」と言って非常階段の方に向かった。そこから一フロア下りると、生駒は会議室の札を「使用中」に変えて、中に入った。窓が一つしかない部屋は薄暗い。それでも生駒は明かりを点けなかった。震災以降、庁舎内はギリギリのレベルまで節電しているためだ。

  • 第五章 激震  [第80回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第80回] 

    2017年06月17日号  

    内閣府に出勤する途中で、湯河は資源エネルギー庁長官秘書から“本省の大臣室にお越し戴きたい”というメールを受けた。おそらくは、鷲津が首都電力株大量保有を発表した件に関してだろうと察した。

  • 第五章 激震  [第79回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第79回] 

    2017年06月10日号  

    早朝の柔らかい日差しの中、秀樹は首都電力が保有する合宿所の駐車場で、入念なストレッチをしていた。昨夜は早めに寝たのだが、些細な音にでも過敏に反応してベッドから飛び降りてしまう。そのため、徹夜した朝のように体がだるい。体がほぐれるにつれ、頭が徐々に働き出した。そろそろかなと思った時、通用口が静かに開き、黒ずくめのウインドアップを着た姿の人影が現れた。この人物を待っていた。そして、人影はそのまま走り出した。秀樹も続いた。

  • 第五章 激震  [第78回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第78回] 

    2017年06月03日号  

    朝刊最終版の締め切り時間が迫っている。北村としては、一刻も早く原稿を片付けてビールを飲みたい気分なのだが、編集局次長の志摩が陣頭指揮を執る首都電買収取材班のミーティングが終わらない。「俺が求めているのは、噂話や見込みじゃない。ファクトに裏付けられた目が覚めるような原稿だ」志摩はそう怒鳴るが、記者たちの反応は鈍かった。誰も彼もが疲れているのだ。

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記者の目

  • 編集長 深澤 献

    電気自動車は欲しいけれど……

    もう20年以上前の話ですが、高速道路を運転中、急にエンジンが止まり、慌てて路肩に緊急停車したことがあります。原因はダイナモ(発電機)の故障。JAFの救援を受けました。  次の高速出口までけん引してもらったのですが、車って〝停電〟すると不便ですね。当時は珍しいデジタル表示だったスピードメーターは真っ暗なまま。ステアリングもブレーキもパワーアシストがないから重いのなんの、運転しにくいことこの上ない。  極め付きは料金所。けん引されていても料金を払うのは仕方ないとしても、電気がないとパワーウインドーが開かない。ドアを開け、一度外に出るしかありませんでした。電気自動車、欲しいけど壊れたときが心配です。

  • 副編集長 浅島亮子

    中国で説明できるEVシフト

    電気自動車(EV)シフトの波は3者がつくりました。①自国の自動車産業を世界一にしたい中国、②ディーゼル不正をEVで挽回したい独フォルクスワーゲン(VW)、③ベンチャーを卒業したい米テスラがそうです。  では次の展開はどうなるか。VWもテスラも照準を定めているのは中国です。ちなみに、テスラの筆頭株主は中国ITジャイアントのテンセント。自動運転や人工知能など新技術を持つベンチャーに多数投資している企業です。  結局、産業界で起きるゲームチェンジが中国で説明できてしまうことに、今更ながら恐れを覚えます。過去最悪販売を記録した3カ月前の「中国特集」をどう反省すれば興味を持っていただけるのか、悩みは深いです。

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