記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292

  • 「イスラーム国」は弱くない

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    「イスラーム国」は弱くない

    2014年10月18日号  

    9月22日、米軍がシリア領内に所在するイスラーム教スンニー派原理主義過激派「イスラーム国」の拠点を空爆した。米国の軍事行動にサウディアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、バハレーンが有志連合として加わった。

  • 猫を通して見える人間社会

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    猫を通して見える人間社会

    2014年10月11日号  

    犬と違って猫は人間にこびない。群れずに自由に活動する。そういう猫の神秘的な行動を動物行動学者の山根明弘氏が『ねこの秘密』で分かりやすく解明している。猫も人間も哺乳類ということでは同類だが、雄猫は、子育てを一切手伝わない。だから、雄猫の目的は、少しでも多くの子孫を残すことになる。雌猫は、出産と子育てに大きなエネルギーを割かなくてはならないので、どの雄猫の子をはらむのか、質を重視する。結局、自分の遺伝子をどう残していくかという基準で猫が行動していることがよく分かる。

  • 全共闘世代の核心に迫る

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    全共闘世代の核心に迫る

    2014年10月4日号  

    長らく品切れになっていた全共闘世代のバイブルであった高橋和巳氏の『邪宗門』(単行本初版1966年)が河出文庫から復刊された(解説は評者が書いた)。戦前、急速に力を付けた新宗教「ひのもと救霊会」は、国家権力に接近したが故に、国家から警戒され徹底した弾圧を受ける。その教団が、戦後、米占領軍に対して蜂起し、全滅するという破滅型の小説だ。

  • 極端な利潤追求は損をする

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    極端な利潤追求は損をする

    2014年9月27日号  

    社会は、人間と人間によって形成されている。企業が極端な利潤追求に走ると、社会からの搾取を強め、結果として信頼を落とし、損をする。カリスマ経営学者のリンダ・グラットン氏は『未来企業』で、〈企業がどれだけの関心を持って近隣とのつながりをどこまで強めようとしているかは、物理的なオフィスの設計に表れるだけでなく、従業員による地元への支援の仕方にも表れる〉と強調する。そして具体例として、ヤクルトを紹介する。

  • 最も効率的な読書中心の勉強法

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    最も効率的な読書中心の勉強法

    2014年9月20日号  

    勉強法のこつは、勉強の仕方が上手で、かつ実績を挙げている人の技法をまねることだ。東京大学法学部を首席で卒業し、財務省に2年勤務した後、現在は弁護士として活躍する山口真由氏の勉強法は参考になる点が多い。山口氏は読書を中心にして知識を身に付けることが効率的と考えている。その理由について『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』でこう説明する。

  • 民主党“失敗の本質”は独善主義

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    民主党“失敗の本質”は独善主義

    2014年9月13日号  

    多くの日本人が政治に対する関心を失っている。2009年の自民党から民主党への政権交代への期待が大き過ぎたことに対する反動と思う。民主党政権の功罪についてきちんと総括しておかないと、民主主義の基盤そのものが溶解してしまう危険がある。山口二郎・法政大学教授は『民主党政権とは何だったのか』で、〈自民党と比べて、民主党の政治家は秀才タイプが多いですね。官僚を批判しながらも、ある意味で官僚と似た発想をしてしまう。ベスト・アンド・ブライテストとして政策を作れば、他の人も理解してくれるし、実現して当然というような、ある意味で自己中心的な発想が民主党政権にはあったと思いますね。いろんな人がいろいろな利害関係を持っていて、それをさばくのが政治に他ならないという考えがあまりなかった〉と言う。的確な指摘と思う。

  • 誤解は多様性を確保する必要悪

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    誤解は多様性を確保する必要悪

    2014年9月6日号  

    仕事においても、生活においても、さまざまなストレスがある。そのほとんどが人間関係から生じる。特に誤解によってトラブルが生じることが多い。渋滞学の専門家である東京大学の西成活裕教授は、『誤解学』で〈誤解とは、単一化を避け多様性を確保する人間社会のメカニズムであり、必要悪とも言えるものであろう〉と指摘する。生物の進化の歴史を学ぶと、単一性は死滅をもたらす。誤解によって文化の多様性が確保されているので、人類は生き残ることができるのだ。

  • 存在感を強める未承認国家

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    存在感を強める未承認国家

    2014年8月30日号  

    国際情勢がきな臭くなっている。ウクライナ、イラク、パレスチナなどでの紛争は、実質的な戦争に拡大しつつある。その中で大きな意味を持つのが、主権国家として宣言しても、国際社会から認められない未承認国家だ。パレスチナやウクライナ東部のドネツク人民共和国、ハリコフ人民共和国などの未承認国家と国境を越えるテロ組織アルカイダ、イラクとシリアの一部地域を実効支配するが主権国家としての宣言をしない「イスラーム国」のような武装集団が国際社会の不安定要因になっている。

  • 陳腐化が早い“すぐ役立つ学問”

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    陳腐化が早い“すぐ役立つ学問”

    2014年8月23日号  

    幅広く正確な教養の伝授法について、池上彰氏の右に出る人はいない。『おとなの教養』で池上氏は、〈日本ではよく大学に対して、社会に出てすぐ役に立つ学問を教えてほしいと言われます。ところがアメリカは意外とそんなことがないのです。すぐに役に立つものを教えるのは専門学校で、いわゆるエリート大学は、「すぐに役に立たなくてもいいこと」を教えるのです。/すぐに役に立つことは、世の中に出て、すぐ役に立たなくなる。すぐには役に立たないことが、実は長い目で見ると、役に立つ。こういう考え方なのです〉と強調する。評者も同じ意見だ。

  • 反知性主義を克服する方法

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    反知性主義を克服する方法

    2014年8月9日号  

    最近、日本人と日本社会が劣化していると危機感を抱く人が増えている。政治学者の白井聡氏は、『日本劣化論』で反知性主義が劣化を端的に示す現象と考えこう述べる。〈もともと反知性主義に対抗するのが啓蒙主義とか教養主義だったんですが、それはすでに失効してしまっています。それらが崩壊したからこそ、反知性主義が跋扈してきている。(中略)反知性主義者に届く言葉はそもそもあるのか疑問です。というのは、反知性主義というのは、知性が不在だということではなくて、知性への憎悪ですから〉

  • 世界を破滅に陥れる言葉の魔力

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    世界を破滅に陥れる言葉の魔力

    2014年8月2日号  

    人間の特徴は、言葉を理解することだ。もっとも言葉には魔力がある。言葉の力を悪用することで、世界を破滅に陥れることもできる。アドルフ・ヒトラーがその例だ。政界登場からドイツ敗戦までのヒトラーの150万語の演説データを分析した『ヒトラー演説』で高田博行氏はこう指摘する。

  • 「集団的自衛権」確立の趣意

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    「集団的自衛権」確立の趣意

    2014年7月26日号  

    7月1日、安倍政権は憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定を行った。もっとも集団的自衛権の行使については、連立与党の公明党が反対していた。そのため閣議決定の内容自体は、個別的自衛権を若干拡大した程度の内容になっている。この内容なら、内閣法制局と外務省の頭の良い官僚は、個別的自衛権と警察権で、完璧な理屈を組み立てることができたと思う。

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記者の目

  • 編集委員 藤田章夫

    新NISAを追い風にする保険業界のしたたかさ

     新NISAが1月からスタートし、保険の販売には逆風かな?と思っていたら、「むしろ追い風になっていますよ」との声が多数。
     資産運用の相談に来た人に、「投資信託は資産が減ることもありますが、変額保険の死亡保険金額には最低保証があります」と言えば、「保険の方がいいか」となるようです。
     本来は、資産を運用したいのか保障が欲しいのか、目的に応じて使い分けたいところですが、これがかなり難しい。
     そこで、保険ジャーナリストの森田直子さんとファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに、保険と運用それぞれの立場から対談を行っていただきました。面白過ぎて、対談時間はあっという間に過ぎました。ぜひご一読ください。

  • 副編集長 名古屋和希

    “予定調和”の買収は今後減少?

     第一生命ホールディングスが3月に福利厚生代行のベネフィット・ワンを買収しました。この買収劇は異例の展開をたどりました。
     先に買収を表明したのは医療情報サイト運営のエムスリーでした。そこに第一生命が参戦したのです。結局、エムスリーよりも好条件を提示した第一生命が買収戦を制しました。大企業による対抗的な買収は極めて珍しいものです。
     従来、事業会社はイメージ悪化などを恐れ、「敵対的」な買収を控えてきました。ただ、近年はルール整備などを背景に「同意なき買収」が広がる機運が出ています。買収が活発になれば、企業・業界の新陳代謝も促せます。今後、“予定調和”の買収は減っていくかもしれません。

最新号の案内24年4月27日・5月4日合併特大号

表紙

特集保険vs新NISA 今「契約したい保険」は? 生保商品ベスト&ワーストランキング

保険とNISA、どちらに資金を振り向けるべきか──。新NISAをきっかけに投資熱が高まる中、多くの人が抱える悩みだ。そこで保険とNISAで迷ったときの考え方や保険の見直し方、保険のプロ29人が辛口採点した生命保険商品ランキングを、業界の深部…

特集2変局 岐路に立つNHK

NHKが大きな岐路に立たされている。今国会で放送法改正案が可決されれば、ネット視聴も受信料徴収の対象となる。一方で、今後、NHKの受信料収入は人口減やテレビ離れを背景に先細る可能性が高い。職員数1万人を誇る巨大公共放送機関は、「みなさまのN…