記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書206

  • 自由貿易に対立する関税同盟

    Book Reviews 知を磨く読書
    自由貿易に対立する関税同盟

    2018年09月29日号  

    岡本裕一朗著『人工知能に哲学を教えたら』は、AI(人工知能)の発達が人間の思想に与える影響について包括的に論じた意欲的な作品だ。〈現代では、書物としての『聖書』を読まなくても、インターネットでイエスの言動や思想を検索することは容易にできます〉というような箇所に聖書学者や神学者は、「聖書のテキストからイエスの言動を確定することはほぼ不可能なので、このようなアプローチはナンセンスだ」というような反応をするであろう。

  • 文化は操作可能な道具か

    Book Reviews 知を磨く読書
    文化は操作可能な道具か

    2018年09月22日号  

    斎藤哲也著『試験に出る哲学』は、大学入試センター試験(マークシート方式)の倫理の問題を用いて、社会人に哲学の基礎知識を付けることを試みた意欲的な作品だ。〈哲学の用語や概念をわかりやすく噛み砕いて説明する際、ブ厚い哲学事典よりも、倫理の教科書や参考書、用語集のほうが役立つことが多かったのだ。/が、倫理は入試科目としては脇役に追いやられている。

  • 孤独な作家にとっての憩い

    Book Reviews 知を磨く読書
    孤独な作家にとっての憩い

    2018年09月15日号  

    五木寛之著『七〇歳年下の君たちへ』は、灘高校の生徒と早稲田大学文化構想学部の学生と著者のやりとりをまとめたユニークな作品だ。灘高生に五木氏は、〈人間について言えば、僕は人間嫌いという一面もあるんです。一人でいるのが一番楽。それでいて、孤独なままでずっと生きていることは苦しい。/もしも自分にとって小説の意味があるとしたら、ただ小説というものを通じてのみ、見えない仲間とコミュニケートできるという感覚はあるんです。やっぱり一人ではキャッチボールはできないから、小説という投げたボールを受け止めてくれ、またこっちへ投げ返してくれる人はどこかにいるのだろうか、どうやら誰かがいてくれているようだ、という漠然とした感覚が読み手への思いとしてあります〉と言う。小説でもノンフィクションでも作家の仕事は基本的に孤独である。表現を通じて読者とコミュニケーションを取ることが作家にとって喜びであり、憩いでもある。

  • 野蛮な帝国への抵抗文学

    Book Reviews 知を磨く読書
    野蛮な帝国への抵抗文学

    2018年09月08日号  

    新庄耕著『カトク』は、厚生労働省内に設けられた過重労働撲滅特別対策班(通称、カトク)の活動を描いた小説だ。幾つものエピソードを通じ、日本で働き過ぎが文化として定着していることが分かる。〈どうして日本が大国になれたか。どうして世界から一目置かれたか。シンプルだよ。必死にやったんだ。家族のために国のために、寝る間も惜しんで一所懸命に働く。ものがなくとも文句を言わず、知恵をしぼり、皆で力をあわせる。そうやって耐えがたき状況を耐え、砂をかむような思いで皆が泥臭くやったからこそ、ここまでのしあがれたんだ〉というような、過去の栄光に縋る精神主義が諸悪の根源のように思える。

  • 不確実な社会に対応する

    Book Reviews 知を磨く読書
    不確実な社会に対応する

    2018年09月01日号  

    廣瀬陽子著『ロシアと中国』を読むと、中露関係の脆弱性がよく分かる。〈中露関係については、「蜜月は偽装されたものであり、その賞味期限はいつまでか」ということを常に考える必要がある。今後の動向を最も左右するのは、双方の損得勘定と国際状況、国内事情になる。特に、エネルギー価格とウクライナ情勢、制裁と報復措置の趨勢、およびロシアの経済状況が鍵となる。もちろん、中国の経済状況も重要な要素であろう。現在の中露の内政は、共に権威主義の上に成り立っている。国際関係以前に、国内の乱れこそ国家存亡の危機であり、国内システムの安定も極めて重要な要件となる〉という指摘はその通りだ。ロシアは、人口圧力と経済力によって中国にのみ込まれてしまうことを恐れている。

  • “日本語高”に資する作品

    Book Reviews 知を磨く読書
    “日本語高”に資する作品

    2018年08月25日号  

    池上彰著『池上彰の世界を知る学校』は、地政学に目配りをした優れた解説書だ。各国の地図を比較した上で、池上氏は、〈イランの地図には、イスラエルという国が描かれていません。(中略)イスラエルの国があるはずのところには「パレスティン」と表記されています。

  • あのテロ事件の一級の史料

    Book Reviews 知を磨く読書
    あのテロ事件の一級の史料

    2018年08月11日号  

    アンソニー・トゥー著『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』は、優秀で心優しき若者たちがなぜオウム真理教とその教祖に心酔し、化学兵器を用いたテロ事件を引き起こしたかがよく分かる一級の史料だ。〈私は6年間にわたって、彼と文通や面会をしてきた。彼を死刑囚としてでなく一人間として付き合ってきた。彼の今迄の犯罪を私は知っている。これらの罪は許されるものではない。しかし人間には誰にも明暗、または光と影がある。私は彼の「明」や「光」の片側だけと付き合っていたのかもしれない。彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し、私は一抹の哀悼を感じる〉とトゥー氏は述べる。偏見を排して接触したので、中川元死刑囚も公判では語らなかった事柄についても率直に述べたのだと思う。刑事裁判では、検察官も裁判官も犯罪事実の立証にだけ関心を持つ。オウム真理教事件の最大の問題は、思想であり、宗教的信条なのであるが、この点についての究明がなされないまま、関係者13人の死刑が執行されてしまったことに違和感を覚える。

  • 幕末期思想家の影響力の源泉

    Book Reviews 知を磨く読書
    幕末期思想家の影響力の源泉

    2018年08月04日号  

    小島英記著『評伝 横井小楠』は、幕末期に党派を超えて強い影響を与えた思想家、横井小楠の生涯と思想を読みやすくまとめた優れた作品だ。〈武士道が立つように交渉すれば、死罪になる前に自刃するのが最善の選択になる。しかし、小楠は「武士は棄れた」と開き直ったのです。

  • 欧米列強 血みどろの20世紀

    Book Reviews 知を磨く読書
    欧米列強 血みどろの20世紀

    2018年07月28日号  

    ブルンヒルデ・ポムゼル、トーレ・D・ハンゼン著『ゲッベルスと私』は、ナチス・ドイツのゲッベルス宣伝相の女性秘書だったポムゼル(1911~2017年)103歳での独白録だ。ナチスの戦争犯罪についてポムゼルは、〈自身の罪についての永遠の問いに対しては、私は早い時期に答えを出した。私には、何も罪はない。かけらも罪はない。だって、なんの罪があるというの? いいえ、私は自分に罪があるとは思わないわ。あの政権の実現に加担したという意味で、すべてのドイツ国民に咎があるというのなら、話は別よ。そういう意味では、私も含めみなに罪があった〉との認識を述べる。このような開き直りが本になり、さらに映画化されたこと自体が現下ドイツが病んでいることの証左だ。

  • 「日中関係が好転」の理由

    Book Reviews 知を磨く読書
    「日中関係が好転」の理由

    2018年07月21日号  

    近藤大介著『未来の中国年表』には、信ぴょう性の高い公開情報に基づく優れたオシント(公開情報インテリジェンス)が満載されている。例えば2017年の中国共産党第19回全国代表大会に関する分析だ。〈習近平主席は、2035年まで自らの政権を続けるつもりなのだろう。

  • 「小さな政府」だった室町幕府

    Book Reviews 知を磨く読書
    「小さな政府」だった室町幕府

    2018年07月14日号  

    久保田哲著『帝国議会』は、大日本帝国議会(国会)開設過程を実証的に分析した好著だ。国民の政治的熱狂から距離を置いた福沢諭吉の姿勢が興味深い。〈議会開設に対する福沢の「沈黙」は、彼なりの政治論であった。過度な政治熱は、やがて冷める。

  • 読解術の優れた参考書

    Book Reviews 知を磨く読書
    読解術の優れた参考書

    2018年07月07日号  

    池上彰著『知らないと恥をかく世界の大問題9』は、内外政事情の全体像を知るための最良の参考書だ。トランプ米政権がイラン核合意から離脱した件について、池上氏は〈イラン国内には、アフマディネジャド前大統領に代表される強硬派がいて、ロウハニ大統領のことを弱腰だと批判してきました。今回のアメリカの離脱で、再び批判が強まる可能性があり、核開発を再開させる恐れもあるわけです。/イスラエルはイランの核開発を許しませんから、武力を行使してでも阻止するという考え方です。また、イランと敵対するサウジアラビアも核武装に動く可能性もあるのです。イランをめぐる中東情勢は再びきな臭くなってきています〉とする。その通りと思う。イランとのビジネスは大きなリスクを伴うので、距離を置いた方がいい。

  • 外務省主流派による画策

    Book Reviews 知を磨く読書
    外務省主流派による画策

    2018年06月30日号  

    白井聡著『増補「戦後」の墓碑銘』では、〈(二〇一六年)二月に訪露した、安倍首相の側近中の側近である谷内正太郎国家安全保障局長は、パトルシェフ安全保障会議書記が、日ソ共同宣言を履行して二島を引き渡したならば「島に米軍基地は置かれるのか」と問い掛けたのに対し、「可能性はある」と答えたという。

  • 日本の政治エリートの本音

    Book Reviews 知を磨く読書
    日本の政治エリートの本音

    2018年06月23日号  

    青木美希著『地図から消される街』を読むと、日本政府が原子力発電を継続する理由が核抑止力の維持にあることがよく分かる。〈民主党政権で脱原発を議論していたときに、政治家や新聞、専門家が相次いで、核抑止力のためには原発や核燃料サイクルが必要、と訴えた。

  • 思考の「小島」を作る法

    Book Reviews 知を磨く読書
    思考の「小島」を作る法

    2018年06月16日号  

    千葉雅也著『メイキング・オブ・勉強の哲学』からは思考術について多くの事柄を学ぶことができる。例えば、ネットとアナログの関係について、千葉氏は、〈現代においては、現代社会と直結した接続過剰的なツールと、そこから逃れるためのツールを区別して使いこなすのがいいと考えています。/SNSは前者の最たるもので、情報収集のために欠かせませんが、しかし、おそらく何かを作り出そうと欲望するためには、そこから自分を切断する、別の場所で自分を「有限化」するための別のツールが必要だと思うんです。それはデジタルツールでもできる。Evernoteやアウトライナーで、思考の「小島」を作るのでもいい。あるいは、紙のノートのように、ネットから完全に切断されたアナログなものを使ってみるのでもいい。/接続過剰なデジタルツールを使うのをやめて孤独になれ、というのは無理です。接続過剰状態がもたらすメリットはあまりに大きい。だから、そのなかに「小島」を作るしかない〉と述べる。評者はまさにこの方法を用いており、大学ノートとEvernoteによって過剰接続から逃れる「小島」を作っている。

  • 日本の教育の問題を深く知る

    Book Reviews 知を磨く読書
    日本の教育の問題を深く知る

    2018年06月09日号  

    筒井康隆著『誰にもわかるハイデガー』を読むと、筒井氏が哲学者としても優れていることが分かる。〈なぜ人間だけが、死を了解できるのか。それは、自分の経験の有限性を、「無限性の欠如」として捉えることができるからである。とすると、またしても疑問にぶつかる。

  • 東京の問題を解決する商品

    Book Reviews 知を磨く読書
    東京の問題を解決する商品

    2018年06月02日号  

    田中利典著『よく生き、よく死ぬための仏教入門』を読むと吉野山(奈良県)で今も大きな影響力を持つ修験道の論理がよく分かる。〈日本人にとって聖なるものは、和御霊と荒御霊のふたつの形をもちます。日本の神さまはどちらかのタイプなのです。生命のバランスが整っている和御霊、勢いが前面に出ているのが荒御霊。蔵王権現さまは、そのふたつの魂を融合しています。忿怒の形相という姿かたちはいわゆる荒御霊ですが、肌の色は和御霊の慈悲を表します。「青黒は慈悲をあらわす」の慈悲です。蔵王権現さまのなかに、和御霊と荒御霊が両方とも示されている点からしても、いかにも日本らしい尊像なのです〉と田中氏が指摘する通り、蔵王権現に明治初期に行われた神仏分離令より前の日本的宗教性の特徴が表れている。

  • ロシアがよく分かる小説家

    Book Reviews 知を磨く読書
    ロシアがよく分かる小説家

    2018年05月26日号  

    竹内政明著『竹内政明の「編集手帳」傑作選』は、読売新聞の名コラムニストの文字通り傑作を集めている。〈古代日本では言葉に神秘的な霊力が宿ると信じられ、それを言霊と呼んだ。言葉を伝える文明の利器である携帯電話に、昔の人が「あくがれいづる魂」に例えた蛍の瞬く光景は、それなりにつじつまが合っているのかも知れない。/記事の切り抜きを取り出しては読み返している。JR福知山線の脱線事故で、無残につぶれた車両のドアを切断して救助隊員が車内に入った時、折り重なる遺体の傍らには携帯電話が散乱していたという。/あちこちで光がともり、呼び出し音が鳴る。切れても、すぐにまた鳴り出す。着信表示に「自宅」の文字が浮かんでいるものもあった。肉親を捜し求め、一刻も早く無事の声を聞きたい家族からの電話である〉。携帯電話に言葉という魂が宿っていることが伝わってくる。

  • うつ状態を克服する道

    Book Reviews 知を磨く読書
    うつ状態を克服する道

    2018年05月19日号  

    うつ病で苦しんでいる人は年々増えている。マット・ヘイグ著『#生きていく理由』では、〈男女を問わず、もしあなたがなんらかの精神衛生上の問題をかかえているのなら、あなたは、きわめて大きな、今もふくらみつづける集団の一員だ。抜きんでて優秀でタフな人々のなかにも、うつ病に苦しむ人が少なくない。政治家、宇宙飛行士、詩人、画家、哲学者、科学者、数学者(こと数学者には恐ろしく多い)、役者、ボクサー、平和活動家、戦争指導者など、おびただしい人々がそれぞれの病と闘ってきた。/男であれ女であれ、がんや心臓病になる、あるいは交通事故に遭うのと同じように、うつ病になる可能性はある。/だとすれば、僕らは何をするべきだろうか。まずは誰かに語ることだ。そしてその話を聞くことだ〉との指摘がなされているが、その通りと思う。うつを発症したと思う人は、とにかく語ることが重要だ。

  • 現代神学の父の「捨てる勇気」

    Book Reviews 知を磨く読書
    現代神学の父の「捨てる勇気」

    2018年05月12日号  

    NHKスペシャル取材班『睡眠負債』は、睡眠不足がはらむ危険に警鐘を鳴らす好著だ。日本人の睡眠時間が短い理由について、〈基本は日本が農耕文化であることが影響していると思います。農業においてはたくさん働けば雑草が少なくなり、作物も多く採れるという考えがあります。欧米は狩猟文化ですから、頭がよく働いていないと獲物が獲れませんし、そのためには休養が必要です。農耕文化ではそれほど神経を研ぎ澄ませなくてもよいという違いがあります。/農耕文化の国では概して睡眠時間が短めです。それと儒教の影響もあると思います。「蛍の光、窓の雪」ではありませんが、長時間起きて努力を重ねて自分を磨くことが大事といったような部分が、睡眠時間を削る方向に働いているのではないでしょうか〉と解説する。説得力がある。

タブレット・スマートフォンでも誌面がそのまま読める
週刊ダイヤモンド電子版も好評発売中!

「グローバル化時代の必須教養」10/25

記者の目

  • 編集部 相馬留美

    子どもの世界の方がキャッシュレス化している

     最近、ほとんど現金を持ち歩かなくなりました。とはいえ、無人レジで店員に商品を見せずに持ち帰るのはどこか後ろめたいものでした。
     しかし、ある取材先で「地デジやSuicaに文句を言う人が今ではいないように、キャッシュレスにも慣れますよ」と言われ、そうか、慣れかと、妙に納得したものです。
     子どもの世界でもキャッシュレス化が進んでいます。おもちゃのレジはカード決済に対応。レジのコインを部屋のどこかでなくしても、カードで決済してお店屋さんごっこを成立させているのです。キャッシュレスに慣れた彼らは、現実の無人レジもあまり気にならないよう。やっぱり「習うより慣れよ」が一番。特集から自分好みの決済を探してみてくださいね。

  • 編集長 深澤 献

    スマホ決済のときのポイントカードのモヤモヤ

     以前はよく、財布を持たずに会社に来てしまいました。特に危ないのが月曜日。週末の買い物で財布を使った後、通勤用のかばんに戻すのを忘れて出勤してしまうのです。仕方なく同僚から昼食代を借りる羽目に……。
     ところが最近は、スマホ決済とスマートウオッチの便利さを知り、キャッシュレス生活を満喫。逆に財布を忘れてきたことに気付かないまま一日過ごすこともあるほどです。
     一方で困るのは各種のポイントカード。「○○カードはお持ちですか?」と聞かれても、そういうのを持ち歩き、いちいち取り出すことから解放されたいから〝腕時計でチャリン〟なわけです。結局、利便性と引き換えにポイントは諦めるのですが、そのたびモヤモヤ感が残ります。

全国書店リストバナー 「学割」 定期購読なら約57%オフ!
読者アンケート 書籍10冊の中から、お好きな1冊が抽選で毎号5名様に当たる! いますぐ資料請求!