また、大丸松坂屋百貨店では11月中旬、アパレル大手のワールドの23ブランド商品をいつでも購入できるサービスを開始。自宅や指定した店舗で受け取れ、店舗で試着してから購入することもできる。

 三越伊勢丹ホールディングスも来年度には伊勢丹と三越のECサイトを統合し、品ぞろえも現在の5万品目から15万品目に増加。今年度は90億円を見込む売上高を15年度に200億円へ拡大する。

 流通各社のEC事業展開において、重要なキーワードが「オムニチャネル」だ。

 オムニチャネルとは、店舗とECサイトの継ぎ目をなくすことで、顧客とさまざまな接点(チャネル)を持ち、いつでもどこでも同様の買い物体験を提供するという考え方のこと。オムニチャネルによって顧客接点を広げることで、「〝振り向けばいつも店がある〟ということが可能になる」(大島誠・日本オラクル流通・サービス営業統括本部担当ディレクター)。

 セブン&アイ・ホールディングスはコンビニエンスストアから百貨店までグループ全社で取り扱う約300万商品をネットで購入できるようにすることを決めた。今後、約1000億円を投じて在庫情報を一元化するシステムを構築する。今夏には数十億円を投じて埼玉県に物流センターを稼働させた。

「オムニチャネルを軌道に乗せなければ、これからの成長はあり得ない」(鈴木敏文・セブン&アイ・ホールディングス会長)と危機感をあらわにする。

 また、イオンでは今年12月20日以降、店内端末を利用し、店舗で取り扱っていない商品を自宅や店頭で受け取ることができるサービスを開始する。将来はスマホを使って店外でも利用できるようになる。当面は総合スーパー約500店で展開予定だが、16年度までに食品スーパー約1100店と、コンビニのミニストップやミニスーパーのまいばすけっとなど約2500店で商品を受け取り可能にする予定だ。

 オムニチャネルによって、ネットやリアルを問わず、利便性の向上や楽しい買い物体験などを提供することができれば、ショールーミングに歯止めをかけることができるだろう。

 すでに成果を上げる事例も出始めている。

 セレクトショップ大手のユナイテッドアローズは09年以降、ネットと店舗の連携を高めた結果、昨年度はネット通販が売上高の約11%を占めた。ネット事業の強化は、ともすれば店舗の客を減らすと思われがちだが、同社で起きたのは逆の現象だった。

「ネット通販と店舗を併用している顧客に関しては、店舗での年間購入額が2.5倍に増えた」(相川慎太郎デジタルマーケティング部長)。ネットを活用して顧客との接点を増やせば、店舗での売り上げを拡大することも可能なのだ。

 流通各社がオムニチャネルを強化する一方、ネット企業は価格の安さのみならず、取扱品目の拡大や配送時間の短縮などをいっそう推し進めている。今後、ネットとリアルの争いが激しさを増すことになりそうだ。

収益力マップで明らか
超過利潤を得るSPA

『週刊ダイヤモンド』12月7日号は、今、小売り・流通企業で繰り広げられている熱い戦いを特集しました。

 セブン&アイとイオン、ローソンとファミリーマート、J.フロント リテイリングと三越伊勢丹、髙島屋……。「小売企業トップ50収益力・収益性マップ」(特集の最初のページ参照)では、長年の競争の結果、勝ち残ったこれらの企業が、かなり近い収益力・収益性にあることがわかります。

 一方、ユニクロを展開するファーストリテイリング、ニトリ、エービーシー・マートなどのSPA(製造小売り)は、同業他社に比べて、はるかに大きな収益力と収益性をもっています。

 同様の業態で同様のビジネスモデルの企業は一定の収益力に収れんするのに対して、新たなビジネスモデルとしてのSPAを極めた企業は、「超過利潤」を得ています。

 本特集では、これらの企業がなぜ強いのか、どの分野をさらに伸ばそうとしているのかという面を詳述するとともに、インターネット通販で急伸している楽天、アマゾン、ヤフー、スタートトゥデイなどのネット系企業の新たな戦略を分析しています。

 特に、ヤフーの「無料化」戦略や、アマゾンの「ビッグデータ」の活用法、楽天のコンサルタント力は、通販市場をさらに急激に拡大させるもので、その衝撃度を具体的に紹介しています。

 流通関係者が、より効率的にビジネスを展開し、自社の競争力を高めることを促進するだけでなく、一般の消費者が買い物をする際にも役に立つ情報が満載です。

 どうぞ書店でお手に取って、あるいはネットで概要をご覧になって、ご購読くださいますようお願い申し上げます。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 大坪亮)