『週刊ダイヤモンド』5月2日・9日合併号の第1特集は「全部解決! 実家の片づけ・相続・空き家」です。いつ起こるか分からない相続は常に早めに対策を考える必要がありますが、そんな事態を象徴するように、突然やってきた新型コロナウイルスの流行がその前後で「相続」に大きな明暗をもたらしています。なぜ、一見無関係なコロナが相続に影響を与えるのでしょうか。

コロナショックが相続にも影響

 いま親が亡くなって相続を受ける人は、〝コロナショック〟のせいで大変なことになるでしょうね」。ある税理士はそうつぶやく。

 新型コロナウイルスの猛威が止まらない。主要な先進国の経済は軒並み急減速。国内でも、すでに消費活動の減退や企業の業績不振などによって、経済は大きなダメージを受けている。

 だが、一見無関係そうなコロナが、なぜ「相続」に大きな影響を与えるのだろうか。

路線価と時価の差が直撃

 それは、コロナがいま不動産市場に多大な影響を及ぼしているからだ。

「3月以降、明らかに土地の値段が下がっている。デベロッパーの仕入れ意欲が薄れていることもあって、入札にかけても以前のような値が付かない」と、ある不動産関係者は言う。

 もともと過熱気味だった不動産市場。それがここにきて、企業活動の停滞や景気の悪化もあり、調整を余儀なくされているのだ。

 こうして土地の市場価格が下がることで、相続には主に二つの影響が出る。

 一つは相続税の相対的な〝負担増〟だ。

 そもそも、相続の中心は、家や土地などの不動産だ。その相続税評価額は、建物であれば固定資産税評価額で、土地であれば主に「路線価」によって決められる。

 路線価は、国税庁が毎年7月に発表しているが、その価格は、同年の3月に国土交通省によって公表される「公示地価」の約8割が目安となっている。

 問題となるのは、この公示地価が基準にしているのが「1月1日」時点の市場価格だということなのだ。

 つまるところ、今年の3月に公表された公示地価は、コロナショックによる景気減速を織り込んでおらず、その価格を反映して7月に発表される路線価も相場に合わないものになる可能性が高い。

 実際、すでに発表された今年の公示地価は、全国の住宅地で3年連続、商業地では5年連続で上昇し、いずれも上昇基調を強めているとされているが、すでに市況は変化している。

 路線価と、実際の市場価格が離れてしまえば、実態に合わない割高な相続税を課されてしまう羽目になるのだ。

土地を売ろうにも売れない

 加えて、土地を売って納税資金を工面する場合だ。

 先述のように土地を売ろうとしても、足元で売却価格の下落が起き始めている。すると、想定以上の土地を売る必要が出るなど、納税資金の確保に頭を悩ますことになるのだ。しかも相続税の納付は、相続発生日から原則10カ月以内に行う必要がある。その期間で土地を売ることを考えれば、今年に入り相続が発生した土地持ちはダイレクトに影響を受ける。

 株でも同じことが言える。日経平均株価はコロナショックの前後で、一時30%超もの下落幅を見せたが、株を売って納税資金を工面する場合には大きな損をすることになる。また、遺産分割後に株価が下落したとあっては、株を受け継ぐきょうだいなどから不平が漏れ、〝争族〟の火種ともなりかねないのだ。

住宅の地図が変われば
「負動産化」の条件も変わる

 不動産を巡る動きは不透明感を増している。実際、不動産市場の先行指標ともいわれる東証REIT指数はコロナ流行後大きく下げており、数多くの商業ビルを持つ地主がテナントから賃料の減額交渉を迫られているなど、地価相場は危うさを見せる。

 一方で、「住宅については、在宅勤務などの広がりによって、駅徒歩5分以内なら資産性が高い、逆に都心部から離れていると資産性が低いといった従来の認識が変化し、住宅相場の『地図』が変わる可能性がある」と、オラガ総研の牧野知弘代表は指摘する。

 コロナショックがもたらす不動産市場の変化は、実は直近の相続だけではなく、将来的には多くの庶民が抱える「家」の悩みにも影響を与えそうだ。

 例えば、資産価値があると思っていた実家が想定以上に売りづらくなっていたことで「負動産」化する、あるいは、郊外にある実家であっても、貸すといった有効活用で空き家化を防ぐことができるようになる、などである。

 このように、誰しも想像し得なかった突然のコロナショックによって、「家」を取り巻く相続の環境が一変してしまった。しかし、そもそもコロナショックの以前から、相続や家については早めに知識を備えないといけない問題だった。特に、昨年から一部施行が始まっている改正相続法には、知らないと危ない落とし穴なども存在する。

「死」のタイミングをコントロールすることは誰にもできない。だからこそ、家と相続のことを早めに考えることが、いつの時代でも有効な変化への備えなのだ。

家の相続に住まいの終活
早めの準備を

 『週刊ダイヤモンド』5月2日・9日合併号の第1特集は「全部解決! 実家の片づけ・相続・空き家」です。「家」を取り巻く悩み事は枚挙にいとまがありません。相続財産の約4割が不動産ですが、家や土地の相続は、その特有の性質から何かと家族間で大きなもめ事が起きる「争族」に発展しやすいものです。また、昨年から施行されている改正相続法は、自宅の相続などを中心に、知らないと怖い「落とし穴」がいくつも存在します。さらに、相続によって受け継いだ家の「空き家化」や、それを防ぐための「実家の片づけ」は、先送りにすることで実家の荒廃を招きかねない、待ったなしの課題でもあります。

 そこで、特集では、こうした「家」にまつわる相続や空き家、実家の片づけの問題を網羅。トラブルを避けるための家の相続のポイントや改正相続法の注意点、子供や孫に「負動産化」する家を押し付けないための「住まいの終活」のノウハウを紹介。さらには、つまずきやすい実家の片づけの攻略法をまとめた「実家の片づけマニュアル」を特別付録として付け加えました。

 今年のゴールデンウィークは「オンライン帰省」をするという人も多いでしょうが、対策は早いに越したことはありません。いまこそ、実家の相続や家の片づけ方のノウハウを学び、家の「出口戦略」を考えてみてはどうでしょうか。

(ダイヤモンド編集部 山本輝)