世界を「支配」し、既存の産業・企業を「破壊」するGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめとしたエクセレントカンパニーたち。今さら聞けない彼らの強さの秘密を決算書で暴く!『週刊ダイヤモンド』5月18日号の第1特集「GAFAでわかる決算書入門」は、そんなコンセプトを掲げています。あなたの仕事に生きる、世界最先端のビジネスモデルを読み解く旅に出ましょう。

ライドシェアのユニコーン
ウーバーの壮大な「野望」

「ウーバーの収益の潜在力はものすごい。彼らの『野望』は実に壮大です」

 世界有数の「ユニコーン」(企業価値の評価額が10億ドル以上の未上場企業)に日本から投資可能なファンド事業を運営する、HiJoJoパートナーズのスピリドン・メンザスCEO(最高経営責任者)はそう話す。

 冒頭の「ウーバー」とは、正確には米国で約10年前に創業したウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)というスタートアップ企業のこと。スマートフォンのアプリを活用したタクシー配車や食事宅配など「ライドシェアリング」と呼ばれるサービスを手掛け、日本でも認知度が高まりつつある。今や世界70カ国以上で事業展開し、5月にも米国でIPO(新規上場)を果たす予定だ。

 同社への成長期待は高く、上場時の時価総額は最大1000億ドル(約11兆円)規模に達するとされる。これは日本企業と比べると、トヨタ自動車(約22兆円)、ソフトバンクグループ(約13兆円)に次ぐ3番手になるほどの大きさだ。

 それほど市場で評価される企業なら、さぞ巨大な利益を生み出しているのだろうと思いきや、実は全くの逆。研究開発費をはじめとした先行投資の費用がかさみ、年によっては売上高を超えるほど莫大な営業赤字を垂れ流しているのが実情なのだ(図参照)。

 それでも投資家の期待値が高いのは、将来的にこの収益構造が一変する潜在力を秘めているからに他ならない。

最大のコスト要因をゼロにする
魔法のテクノロジー

 そこでカギとなるのが「自動運転車の実用化」だ。
 図は一般的なタクシー事業と、自動運転車を用いたロボタクシー事業の収益構造を試算したもの。ウーバーは自社の社員を運転手とせず、車を持つ個人を運転手として乗客とマッチングする仕組みが一般のタクシー会社と異なるが、運転手に売り上げの約8割を支払っていると明かしている。

 つまり、運転手への報酬という労務費(人件費)がコストの大部分を占め、売上高に当たる手数料収入だけで費用を賄えない状態が続いている。さらに、雇用関係などをめぐり世界中の運転手から訴訟を起こされるなど、現在の事業モデルの足元もぐらつきつつある。

 これがもし、自動運転技術の実用化でロボタクシーが実現したらどうなるか。仮に現在のウーバーの車両が、運転手が不要な自動運転車に全て置き換わると、労務費は一気に消滅。すると自社で管理する車両関係費などの負担増を考慮しても、収益性が一気に改善し、むしろ1兆円規模の黒字を生む可能性すら考えられるのだ。

 実際、ウーバーは数年前から自動運転車の開発を本格化させ、これまでも年間で数百億円規模という巨額の開発費を投じてきた。

 しかも、見据えるのは「地上」だけではない。自動運転を用いた「空飛ぶタクシー」の実現も目指し、4年後の2023年にも事業化する方針まで掲げているのだ。

 とはいえ、その「道のり」は平たんではない。昨年3月にはウーバーが自動運転車の走行実験で初めて歩行者の死亡事故を起こし、批判が噴出。IPOを前に新たな壁が立ちはだかりつつある。

エアビーアンドビーは
「民泊」仲介でもうかっている?

 このウーバー同様、莫大な先行投資で未来に懸ける世界的なユニコーンに、日本のスタートアップ界でも急速に存在感を増しているオフィスシェア大手のウィーワーク(We Work)が挙げられる。

 米国で10年に創業した同社は、シェアオフィスの開発から設計、運営までを手掛け、今や自前のオフィスを持たない起業家やクリエーターのほか、世界有数の大企業が活用する例も相次いでいる。

 短期間に事業領域を拡大し、直近では27カ国に40万人以上の会員を保有。早ければ年内に上場するとの観測もあり、足元の企業価値の推定評価額は約5兆円に上る。

 非上場のため決算情報は限られるが、米調査会社ピッチブックの情報を基に業績指標の推移を図で示した。18年は売上高の8割超、17年に至っては売上高を超える純損失を計上。その主因は洗練されたオフィスに整えるための改装や、マーケティングに巨費をつぎ込んでいることだ。

 これだけ見るとかなり危うい財務状況に映るが、目先の収益を追わずに業界内で圧倒的地位を築くべく、シェア拡大を目指している様子が表れているといえよう。

 一方、ウーバーやウィーワークより既に十分な市場シェアを誇り、収益面でも一歩リードするユニコーンがエアビーアンドビー(Airbnb)だ。08年に米国で創業した同社は、旅行者の宿泊先となる家を提供するホストと、旅行客をつなげる「民泊」の仲介業者として世界最大手にのし上がった。

 直近までの判明情報によると、同社は15年こそ営業赤字だったが、税引き前利益に支払利息や減価償却費を加えた「EBITDA」と呼ぶ利益で16年から黒字化を果たした(図参照)。赤字のまま上場するユニコーンが多い中では珍しい存在といえ、企業価値の評価額は現在、3.5兆円規模と目されている。

 表はIPOが近いと予想されている順に並べた主要ユニコーンのランキング(今年2月時点)だ。日本には現在1社しかないユニコーンだが、世界では群雄割拠の様相。その多くは赤字続きなのに、低金利などを背景として投資マネーが群がる現状には危うさも指摘されるが、希代のユニコーンの決算書からは、未来の「夢」に本気で懸けるスケールの大きな野望が浮かび上がってくるのだ。

世界最先端ビジネスモデルの要諦を
数字と図ですんなり理解

『週刊ダイヤモンド』5月18日号の第1特集は、「GAFAでわかる決算書入門」です。

 GAFAのような企業は、世界最先端のビジネスモデルを展開する「ビジネス界の教科書」的存在。そのスゴさの秘密に迫れば、あなたの仕事に生かすことができる多くのヒントや示唆が得られるはずです。

 ただ、GAFAのスゴさは、彼らの製品やサービスを使っていれば実感するところだと思いますが、GAFAがどれくらいかせいでいるのかというファクトを知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。

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 そこで、ファクトに基づいて世界の超一流企業のスゴさを学ぶための最高の「教材」として提案したいのが、彼らが公開している決算書です。そこに書かれた数字には、彼らのビジネスモデルや経営戦略の神髄が詰まっているからです。

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