『週刊ダイヤモンド』5月20日号の第1特集は「関西流企業の逆襲 大阪・京都・神戸はなぜ強い?」です。人や企業の東京一極集中と関西空洞化がさけばれて久しいですが、皆さんの周りにもバイタリティーにあふれ、コミュニケーションが上手で、どんな環境にもすぐになじんでしまえる関西人の方はいませんか? そんな人が企業の経営トップとして、関西のみならず、実は東京をも席巻しています。身近だけれど意外に知らない。そんな関西の強さの秘密に迫りました。

 発明王トーマス・エジソンが創業し、世界のエクセレントカンパニーとして輝き続ける重電業界の巨人、米ゼネラル・エレクトリック(GE)。その日本法人であるGEジャパンには、社長以下ビジネスリーダーと呼ばれる幹部が12人いる。彼らは四半期に1度、経営幹部会議で一堂に会するが、実は同様のペースで幹部7人が集う別の会合が存在する。

 しかし、そこではビジネスのことは話題に上らない。店で食事をしながら、ひたすら阪神タイガースを応援するのだ。その名も「GE虎の会」。発起人は大の阪神ファンである社長の熊谷昭彦だ。兵庫出身の熊谷をはじめ、会員7人中5人を関西人が占める。つまり、GEジャパンの幹部は4割以上が関西人ということだ。「知らぬ間に幹部が関西人だらけになっていた」(関係者)のである。

 そればかりか、GEと双璧を成す独シーメンスの日本法人社長、藤田研一も大阪出身の関西人だ。さらに、3人の事業本部長のうち、兼任する藤田に加えてあともう1人も大阪出身だという。

 重電国内最大手の日立製作所が背中を追う世界2強の日本法人を関西人が席巻しているのだ。

 GEやシーメンスのような外資系企業には、「関西人のコミュニケーション能力と環境適応能力の高さはぴったり合う」と、2社の関西出身幹部は口をそろえる。

 関西地方の空洞化現象がさけばれて久しいが、GEやシーメンスの例を踏まえると関西の人材輩出力には目を見張るものがありそうだ。そこで、東京商工リサーチの協力を得て本誌がデータを分析した結果、興味深い事実が判明した。

 それが下のランキングだ。経営する企業の売上高を指標として、経営トップの出身地(47都道府県)と出身大学(有力20校)の組み合わせ、全940通りの中から、売上高の高い「最強の組み合わせ」はどれなのかを分析。すると、出身地が大阪と兵庫の組み合わせがトップ5をほぼ独占したのだ。

 1位は「大阪出身×東京大学卒業」の組み合わせだ。2位の「東京出身×東大卒」とは僅差だが、参考値である効率性指標の従業員1人当たり売上高も1位で、文句なしのナンバーワンだ。

 そのトップ・オブ・トップに輝いたのが、伊藤忠商事の社長、岡藤正広だ。2016年3月期決算で初めて業界トップに立った伊藤忠は近江商人の系譜を色濃く残し、岡藤による〝関西流〟経営で飛躍を遂げた(特集内Part3で詳述)。

 また、17年3月期決算で定位置である首位の座を奪還した三菱商事では、昨年6月に初の関西人社長が誕生。「兵庫出身×京都大学卒」の垣内威彦だ。さらに、ランキング6位の「大阪出身×大阪大学卒」には、住友商事社長の中村邦晴の名も並ぶ。つまり、5大商社のうち3社が関西人社長なのだ。

なぜか新事業は「西」からばかり 
凸版印刷で巻き起こる関西旋風

 一方、純粋な東京企業でも〝関西流〟が旋風を巻き起こしている。印刷業界2強の1社、凸版印刷では、大阪発の事業が国内最大級に成長。電子チラシ配信サービス「Shufoo!」だ。今や3500社、11万店超がチラシを掲載、月間アクセス数は3億弱を稼ぐ。

「名前からして東京人の発想を逸脱している」と、凸版の東京社員は舌を巻く。「主婦」とあの「Yahoo!」を掛け合わせた、軽いノリのネーミングだからだ。

 そのShufoo!の生みの親が、メディア事業推進本部長を務める関西人、山岸祥晃だ。

 01年、山岸が企画案を社内ベンチャー制度に応募するところから物語は始まる。ところが東京本社の役員は「なぜ印刷会社が印刷しないのか」と却下。それでも山岸は諦め切れず、数年に及ぶ〝地下活動〟を開始。勝手にテストサービスとその営業を始めてしまう。

 転機は08年。当時の企画担当役員だった現社長の前で、Shufoo!をアピールする機会を得たのだ。イトーヨーカ堂やイオンなどの大手の顧客を獲得していた実績と、通信環境の進展も相まって、山岸の努力は実を結ぶ。

「すぐに東京に来い」。山岸は期の途中で関西から呼び寄せられ、東京で立ち上がった本部に異動。そこでShufoo!を国内最大級のサービスに育てたのだ。

 凸版ではその後も新事業案が「なぜか関西からばかり生まれる」と社内も不思議がる状況が続く。それに山岸は「カチッとした書面や手順がある東京と比べて、関西には〝実験〟を見て見ぬふりする大らかさがある」と答える。

 また、それを生かす「商魂のたくましさも関西出身者にはある」(前出の凸版の東京社員)。

「Sontaku」。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は東芝の不正会計や森友学園など、最近相次ぐ日本のスキャンダルを結ぶキーワードが「忖度」だと、日本語をそのまま英語の記事で使用した。

 しかし、この特集で紹介する関西人トップや関西企業は、そうした官僚的組織にはびこる病巣とは対極にある。「洗練されていく中で東京企業が失った『商人のDNA』を持つ」(関西人の経営者)のが〝関西流〟企業なのだ。(敬称略)

東京企業が失った「商人のDNA」を
脈々と受け継ぐ関西の経営者たち

『週刊ダイヤモンド』5月20日号の第1特集は「関西流企業の逆襲 大阪・京都・神戸はなぜ強い?」です。

「コンプライアンスだ、ガバナンスだと言って、東京企業ががんじがらめになって失った強さを、関西の企業や経営者は持っている」

 関西地方出身のある企業幹部から、こんな話を聞きました。もちろん、あらゆる関西の企業・経営者に当てはまるわけではないですが、多くの人が思い当たる節があるのではないでしょうか。

 その理由を探ってみたのが今回の特集です。関西に関するデータや歴史、文化などを多方面から分析するとともに、関西を代表する経営者の方々に強さの秘密を語ってもらいました。

 井上礼之・ダイキン工業会長や、鳥井信吾・サントリーホールディングス副会長、山口悟郎・京セラ会長など、錚々たる経営者の話から浮かび上がったのは、東京企業が失ってしまった「商人のDNA」です。

「ホンマかいな」=常識を疑う健全な批判精神、「やってみなはれ」=リスクを取るチャレンジ精神、「うちはうち」=人まねをしない独創性など、彼らが座右の金言にしている関西弁の言葉には、ビジネスのエッセンスが詰まっています。

 それだけでなく、関西で仕事をするなら覚えておきたいビジネスの流儀や、知られざる関西内でのヒエラルキー、京都・花街の裏側など、特にこの春の異動で関西に転勤した人は必見のコンテンツも盛りだくさんです。

 関西以外の出身の方はもちろんですが、関西出身の方にもさまざまな発見や気づきをお届けできる特集に仕上がったと思います。ぜひ読んでみてください。