『週刊ダイヤモンド』4月22日号の第1特集は「『孫家』の教え——起業家に学ぶ10年後も稼げる条件」です。人工知能(AI)やロボットの進化、そして長寿命化の進展によって、今の常識が全く通じなくなる時代に突入しています。将来も「食べるのに困らない」、そんな未来を切り開く人材を育てるにはどうすればいいのか。そこで、ソフトバンクの孫正義さんの実弟であり、自らも数々のイノベーションを起こしてきた孫泰蔵さんに、「孫家」の教えについて語ってもらいました。

「他人に倣うな」と父が強く言った理由

               孫 泰蔵 Mistletoe社長兼CEO

そん・たいぞう/1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部に在学中、Yahoo! JAPAN立ち上げに参画。98年、オンセール(現ガンホー・オンライン・エンターテイメント)の設立に参画後、2009年、ベンチャー育成のMOVIDA JAPANを設立。起業家を次々と輩出するシリコンバレーのようなエコシステム構築を提唱。ソフトバンクグループ社長の孫正義氏は実兄              Photo by Aiko Suzuki At Gardens by the Bay
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 小さいころに父がよく言っていた言葉が、40歳を過ぎた今になって心に響いています。その一つに「他人に倣うな」という教えがあります。

 僕が小学校2、3年のころだったと思います。父が「今日、何ば習ってきたか」と聞くので、僕は「分数の割り算を習ったばい。ひっくり返して掛けるとよ」と喜々として答えたのです。

 父は「おおそうか、それはよかったな」と。ですが、こう続けたのです。「ばってん、泰蔵ね。学校の先生は、時々うそを教えるぞ。先生の言うこと聞くなよ」と。

 これには子供なりに、「ええー」とショックを受けました。「何でそんなこと言うとよ。学校の先生、結構いいこと言うばい」と僕が先生をフォローしたほどです。「父は変なことを言うなあ」と幼心に強く印象に残ったのです。

 ですが、自分が親の世代になってハッとしたのです。要するに、

父は「何でもうのみにせずに、常識を疑って自分の頭で考え知恵を絞りなさい」と伝えたかったのです。それを普通に言っても忘れてしまうので、強烈に印象に残るような言い方をしたのでした。

 そもそも今、教育の世界では「21世紀のスキル」として、「4C」という考え方が広まっています。4Cとは、四つの単語の頭文字に由来しており、AIやロボットが進化していく中で、人間に求められる力のことだと考えられています。具体的には次の四つです。


1)クリエーティビティー
2)クリティカル・シンキング
3)コミュニケーション
4)コラボレーション

 ここで全ては語りませんが、例えば、批判的思考とも訳される「クリティカル・シンキング」というものは、まさに父の教えそのもの。皆が当たり前に言うことを本当かなと疑ってかかる力のことをいいます。

常識を疑うことの意味

 大人になってから、なぜ僕に「先生すら疑え」と言ったのか、父に本意を尋ねたことがありました。

 すると父は「『うそを教えるぞ』とまで言ったかは覚えとらんけど」と前置きした上で、「俺はもう人に倣うなちゅうてね、全部自分でやってきた。修業とか、弟子入りとかもせんかった」と言いました。

 実際、父は、焼き肉店を開くと決めたときも誰かに教わりにはいきませんでした。いきなり、卸問屋にいって「肉を買わせてくれ」と。お店の人に「いや、いきなり来ても卸せんよ」と断られた。そうしたら、「何で」とけんかを始めてしまうほどでした。教わればオリジナルを超えられないという考えがあったからです。

 例えば、友人から「脱サラして豚骨ラーメンの店を開きたいがどうしたらいいか」と相談があったとします。あなたなら、どう答えますか。普通ならまず、人気店に弟子入りしたり、調理学校に入って勉強したりした方がいいと答えますよね。ですが、孫家であれば、「今すぐに豚骨を煮る」というところから始めるでしょう。これが豚骨ラーメンを作る上での第一歩だからです。

 実際にこれをやってみると、臭くて臭くて仕方がなく、そんなスープは捨てるしかないのですが、最初はそれも知らないと思います。

 ただ、においが問題だと分かれば、臭み消しの野菜を入れてみようとか、鶏がらを交ぜてみようかだとか、次につながるようにいろいろと試行錯誤を重ねるようになる。そうこうしているうちに、他の店にはないイノベーションにつながると考えているわけです。

 兄の孫正義も同じです。兄より優れている分野の専門家から提案やアドバイスを受けても、「いまいちだな」とか平気で言う。ああでもない、こうでもないとずっと自分の頭で考えるのです。

 これでは時間がかかるので、手っ取り早く専門家に頼んでしまうのが普通ですが、世の中で「定石はこうだ」といわれていることでも、定石だといわれる理由が分かるまで、「やっぱりそうか」と腹落ちするまで、追体験するのです。

 兄は最終的な案であっても、ひっくり返すことがよくある。それに振り回される社員の人たちは大変だと思いますが、兄はぎりぎりまでゼロベースで考える、その状況を絶対に楽しんでいるのだろうと思います。(談)

有望起業家27人の「教え」

『週刊ダイヤモンド』4月22日号の第1特集は「『孫家』の教え——起業家に学ぶ10年後も稼げる条件」です。

 孫泰蔵さんへの取材を通じ、未来を切り開く人材になるためには、若いころの成功体験や、両親の存在が重要だと気づきました。

 そこで今回、10年先も確実に活躍している有望起業家27人を徹底取材しました。自らの手で道を切り開いてきた過程に肉薄し、それぞれが磨いてきた「力」と、両親や恩人たちから受けた「教え」をまとめました。27人とその力のリストは下のとおりです。

 子育て中の親だけでなく、人材育成に悩むビジネスマンにとっても、きっとヒントになるはずです。

 なお、今特集より孫泰蔵さんの連載「孫家の教え」を『週刊ダイヤモンド』にて開始します。

<有望起業家27人とその力>
01 祖父に学んだ謙虚の力
辻庸介・マネーフォワード代表取締役社長CEO

02 自分でとことん考える力
御手洗瑞子・気仙沼ニッティング代表取締役社長

03 夢を現実にする構想力
岡田光信・アストロスケール創業者兼CEO

04 創意工夫する力
真子就有・div代表取締役

05 モチベートする力
斎藤祐馬・トーマツベンチャーサポート事業統括本部長

06 飛び込む力
亀井智英・Tokyo Otaku Mode共同創業者兼会長

07 構造化し表現する力
小関翼・スタイラー代表取締役

08 考えを即行動に移す実行力
加納裕三・bitFlyer代表取締役

09 常に笑顔のポジティブ力
村上太一・リブセンス代表取締役社長

10 踏み出す力
豊田剛一郎・メドレー代表取締役医師

11 感情力
瀧口浩平・メドレー代表取締役社長

12 “最重要”以外を捨てる力
山口絵理子・マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナー

13 “暗闇”への跳躍力
柴山和久・ウェルスナビ代表取締役CEO

14 物理が支える戦略構想力
水野雄介・ライフイズテック代表取締役CEO

15 圧倒的な自己肯定力
甲斐真一郎・FOLIO代表取締役CEO

16 好奇心で広がる想像力
松本恭攝・ラクスル代表取締役

17 笑いで培ったストーリー力
土屋尚史・グッドパッチ代表取締役社長CEO

18 研究を見極める力
鍵本忠尚・ヘリオス代表取締役社長兼CEO

19 突き抜けた“オタク”力
西川徹・プリファード・ネットワークス代表取締役社長CEO

20 夢中になる力
矢島里佳・和える代表取締役

21 自己責任を貫く力
菊池紳・プラネット・テーブル創業者CEO

22 人の心をロジカルに捉える分析力
鹿野佑介・ウェルモ代表取締役CEO

23 自己表現力
樋口亜希・Selan代表取締役

24 言葉を操る力
須田健太郎・フリープラス代表取締役社長

25 “自分ごと”にする力
溝口勇児・FiNC代表取締役社長CEO

26 PDCA回す高速成長力
冨田和成・ZUU代表取締役社長

27 先々を見通す力
佐藤航陽・メタップス代表取締役CEO

2017年4月22日号[ 710円 ]

表紙
特集

「孫家」の教え

【プロローグ】
稼げる人材は変わる

【パート1】
「孫家」の教え

【パート2】
有望起業家27人に学ぶ10年後も稼げる人材の条件

【パート3】
一生食べるのに困らない人材の育て方