そして、もう一つのシナリオも進行しようとしている。金融市場の“主役”の座を奪った政治だが、その影響力をさらに高める2大理論(下図参照)が株式・為替相場を揺るがそうとしているのだ。

 その一つは、にわかに注目を集める「物価水準の財政理論(FTPL)」、通称「シムズ理論」だ。安倍政権の経済ブレインである浜田宏一・米イェール大学名誉教授が「目からうろこが落ちた」と言及し、日本でも関心が高まった。

 ノーベル賞経済学者であるクリストファー・シムズ・米プリンストン大学教授が唱えるその理論は、今の日本のように超低金利の状況下では、金融政策だけでなく財政政策も加えなくては物価上昇を実現できないと説く。そして、財政拡大で膨らんだ政府債務はインフレによって帳消しにするという。

 前述の通り、世界中で金融政策の限界が指摘される中、シムズ理論は一躍「救世主」としての期待が高まっている。仮に安倍政権が導入すれば、アベノミクスは新ステージに突入し、日本株の上昇をけん引して、米国並みの急騰も起こり得るかもしれない。一方、世界を混乱に陥れそうなのが、2大理論のもう一つ、英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカの「OCEAN理論」だ。

 これは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にあふれる大量の情報を基に心理学分析を施し、プロパガンダ(世論誘導)に用いる理論だ。実はBrexitを決めた国民投票や米大統領選で、勝利した離脱派やトランプ陣営を支援していたという。

 欧州で台頭する極右政党がこれを取り入れて政権を奪取すれば、世界経済の混乱は必至だ。

 さらに、日本株急騰を演出する可能性に言及したシムズ理論にしても、机上の空論に終われば、悲劇への扉を開くリスク大だ。財政拡大を続けてもインフレが起こらなければ、後に残るのは返済できる当てのない巨額の政府債務のみ、という事態になりかねないからだ。

 紙一重で“天国”にも“地獄”にもなる。日本株投資に当たっても、そうした相場観を持つ重要性が高まっている。

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