一方で、そもそも米軍縮小を公言していたトランプ大統領には、中国と安全保障面で対立してまで覇権を争う意思はないとの見方も根強い。

 だが、昨年11月、米外交誌に発表された論文はこうした楽観論を吹き飛ばす。ナヴァロ氏らトランプ側近が中国の周辺国への圧力に対抗するため、軍事力を背景にしたレーガン政権ばりの「力による平和」を追求すべしと提唱したのだ。経済のみならず、安全保障でも米国側が強気の対中政策を取る可能性は決して低くない。

「中国は将来強大になっても覇権を求めない」。経済成長を重視していた鄧小平氏は1974年に国連でそう演説した。しかし、習近平国家主席は今、「中華民族の偉大な復興」を掲げ、覇権国への挑戦を隠そうともしない。

 中国はかねて米軍撤退など「力の空白」ができれば、容赦なく支配地域を強権的に広げてきた。習体制でその傾向はより顕著となっており、中国の領土的な野心と地政学的な権益は膨らみ続けている。

 昨年末には、中国初の空母「遼寧」を軸にした艦隊が初めて、第一列島線上にある「宮古海峡」を越えて西太平洋に進出、米軍およびその同盟国を挑発した。

 トランプ政権の誕生で、米中関係は「疑心暗鬼」(安井明彦・みずほ総研欧米調査部長)の新ステージに突入する。

 新ステージで何より厄介なのが中国側の一大イベントだ。今年、中国は人事の季節を迎える。秋の共産党大会で予定される中国指導部の交代は、今後10年にわたる中国の方向性を決めるとされる。

 権力基盤をより盤石にするため、習主席は弱腰外交を見せるわけにはいかず、対外的にはいつも以上に強硬姿勢で臨まざるを得ない。

「そこで米中関係が急激に悪化する可能性が高い」。国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる政治リスク調査会社、ユーラシアグループはそう読む。米中衝突の発火点は台湾、尖閣諸島、北朝鮮、そして通商問題だという。

「2017年、世界は地政学的後退期に入る。第2次大戦後で最も変動の激しい節目の年」(同社)。日本人も当事者としてこの戦争リスクを認識しておく必要がある。