『週刊ダイヤモンド』12月5日号の第1特集は、「暴れる地球〜気候変動の脅威〜」。いよいよ11月30日から、パリでCOP21(温暖化対策を決める国際会議)が始まります。「30年に1回」のはずだった異常気象が日本でも多発するなど、温暖化問題は、もはや遠い世界で起きている現象ではありません。あなたを脅かす気候変動の謎に迫ります。

 気候変動は地球の裏側で起こっている遠い現象ではない。気温が1度上がれば確実に死亡リスクは高まる。あなたの生命を脅かす危機の実態をみていこう。

【被害者72・5万人/殺人蚊・蜂】

 温暖化で日本の亜熱帯化が進めば、最凶の殺人生物が日本に襲来することになる──。

 米ゲイツ財団によると、その生物は毎年世界で72万5000人もの人間を死に至らしめるという。その正体は、体長5㍉㍍にも満たない蚊。小さいからと侮るなかれ。蚊は人間にとって致命的な感染症を運んでくるくせ者だ。

 感染症の代表例が昨年東京でもパニックを引き起こしたデング熱。重症化すれば死に至る。媒介するのはネッタイシマカやヒトスジシマカ。ヒトスジシマカは白黒のしま模様を持ち、日本では〝やぶ蚊〟と呼ばれるどこにでもいる蚊だ。ネッタイシマカは日本に生息していないが、成田空港や羽田空港周辺で確認されており、亜熱帯化が進めば、定着は時間の問題だ。

 今年はデング熱の国内感染例はないが、むしろまん延リスクは高まっているといえるだろう。訪日外国人が激増しているからだ。

 昨年まで国別訪日客数トップで、今年も9月までで277万人もの訪日客を送り出す台湾で、今年デング熱が大流行。現地では死亡例が141件出ているのだ。

 温暖化でヒトスジシマカの生息域の北限は年々北上している。フマキラーの佐藤猛マーケティング部長が「殺虫剤市場が倍増する可能性がある」と話すように、日本でも今後、東南アジア並みに一年中蚊が活動する可能性もある。

 怖いのはデング熱だけではない。西ナイル熱も毎年のように死亡例が出る感染症で、2013年に北米で6000人強の感染者が出ている。媒介する蚊の種類が60種類以上に上るため、専門家の間ではデング熱よりも恐れられている。一度日本に入り込めば、デング熱のまん延スピードとは比べものにならないくらいの速さで広がり、パニックに陥る危険性が高い。

 このまま温暖化が進めば蚊が媒介する最悪の感染症、マラリアの侵入も現実味を帯びる。13年、世界のマラリア患者数は約2億人で、推定で58万4000人もの人が死亡した。主に、アフリカや東南アジアの奥地などで感染拡大が問題となっているが、日本も人ごとではなくなる可能性は十分にある。

【九州稲作/4割壊滅】

「青天の霹靂」「くまさんの力」「てんたかく」──。これらは全て、温暖化に対抗するべく品種改良された地方のブランド米だ。

 環境省がまとめた気候変動の影響評価には、「九州地方の1等米比率は今世紀半ばに30%弱、今世紀末に約40%低下する」という衝撃的な文言が躍った。稲作の温暖化被害は全国に広がり、深刻なものになりつつある。

 典型的な被害は、穂が出てから20日間の平均気温が26〜27度以上になると発生頻度が上がる「白未熟粒」と呼ばれるもの。でんぷんの蓄積が不十分で味も外見も悪い。冒頭のブランド米は、こうしたピンチを逆手に取って改良された高温耐性品種のコメだ。産地間のブランド競争が勃発しており、1956年に誕生した絶対王者コシヒカリの座を脅かしつつある。 

 近い将来、スーパーの陳列棚からリンゴやミカンが消えてしまうかもしれない。実際に、鹿児島や宮崎のミカン農家がアボカドを栽培し始めているというから驚きだ。

「コメの温暖化被害も小さくないが、農作物の中で最も甚大な損害を受けるのが果樹だ」(杉浦俊彦・農研機構果樹研究所上席研究員)と言い切る。どういうことか。

 果樹の中でも、ミカンは平均気温15度から18度まで、リンゴは同7度から13度までといった具合に栽培可能地域の「気温幅」が限定的なのだという。そのため、何十年間で気温が1度上昇するだけでも、リンゴが着色不良になったりミカンが浮皮になったりと被害が出やすい。現在と約50年後の2060年代とでは「適地」が一変し、長野産・青森産のリンゴや熊本・宮崎産のミカンができなくなってしまうかもしれないのだ。

 日本全国を見渡せば適地が消えるわけではないが、果樹農家が遊牧民のように全国を渡り歩けるわけではない。しかも、果樹の植え替えは30〜40年周期が通常であり、栽培作物を容易には替えられない。ちなみに、将来的に東京はヒートアイランド現象で果樹栽培に適した気候になる。かといって農地に替えることは非現実的。今後、国産のミカン、リンゴが食べられなくなってしまうかもしれない。